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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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決別

 翌月、明智左馬助が岐阜城にやってきました。ところが城門が開きません。


「明智左馬助と申す。織田信忠様にお目通りをお願い申す!」


 大声で叫ぶが返事がありません。左馬助は今回、いい返事が貰えると思っていました。光秀にも今までの経緯を報告していて今日こそはと言われてきています。明智にも余裕が無くなってきていました。ところが城門は閉められ、呼んでも返事すらありません。その上に、櫓の上に人が現れ矢を放ってきました。


「明智殿。佐々成政でござる。お引き取りを願いたい」


「これは佐々殿でございますか?明智左馬助にございます。織田信忠様にお目通りを」


 佐々成政は再び矢を打ち掛けました。あくまでも威嚇です。


「秀吉と手を結んだ明智と組むことはないと十兵衛に伝えよ、殿からの伝言だ。次は当てるぞ、さっさといねい」


「後悔されても知りませんぞ。織田家は元主筋ゆえ丁寧に扱えと十兵衛様より言われておったので優しくしておれば。覚えておれ!」


「は、は、は。貴様らに頭を下げるくらいなら死んだ方がマシだ。さて、と。殿にご報告せねば」


 佐々成政は櫓から降りて本丸へ向かいました。成り行きを見守っていた丹羽長秀と武藤源三郎信之が待っていました。




 左馬助は城を離れて行きます。訳がわかりません。先月まで徐々に織田信忠と友好を高めてきたつもりだったのですが、横槍が入ったとしか考えられません。ですが、武田勝頼は東北で手一杯のはずです。


「何がどうなったのだ。先月までの織田家の対応とはあまりにも違いすぎる」


 実際、信忠が源三郎の言う通り芝居をしていただけなのですが、成果が欲しい左馬助はそれに気が付いていません。十兵衛光秀も朝廷とのやりとりがうまくいかず焦っていて左馬助の報告を真に受けていました。いい方に考えた、考えたかったのかもしれません。金は十分にばら撒きました。あとは織田が味方になれば摂政になれそうなところまで来ています。もう少しなのです。その焦りが目を曇らせ、織田の芝居に気付く事ができなかったのです。





 武藤源三郎信之は明智左馬助が戻っていった後、織田信忠達と話し込んでいます。


「信忠様。流石でございます。明智はこれで摂政にはなれません」


「源三郎、お主はそう言うが、十兵衛は相当金をばら撒いているそうではないか?力ずくで帝を変える事もできよう」


「お屋形様から伺った明智十兵衛の人となりからすると、そこを力ずくでできないところが十兵衛らしさだそうでございます。それがしにはわかりかねますがお屋形様が言うのですからそうなのでしょう」


「で、この間言っていた明智の金の出どころだが?」


「はい。やはりキリシタンでした。宣教師にキリシタンの活動を認める代わりに金を要求したのです。それも定期的に」


「明智の勝因、いや勝ったわけではないか。勝ちめがあると思い込んでいた理由はそのキリシタンなのか。父上は異国から新しい物を取り入れていたがそれを盗んだのか?」


「信長様は宣教師、キリスト教を広める役割の者を宣教師と呼ぶそうなのですが、彼等から情報や異国の物資を入手し見返りとして布教を認めていました。鉄砲も元はそこから広まっています。異国との貿易は金になりますが、それ以上にお布施が集まるのです」


源三郎はこの時はそう思っていました。


「民からの寄進など大したことはあるまい」


「民だけではありません。すでに何人かの大名もデウスとかいう神を信じております。彼等はキリスト教を広める事が神を信じる事になると教えられその為に身の丈にあった寄進をするのです」


「そんなにいい教えなのか?」


「それがしは興味がありません。というのは父上がお屋形様に聞いた話がありまして、異国の戦争は宗派間で起こるそうなのです」


「勝った方の神が正しいと?」


「この日ノ本には八百の神がいると言われております。神頼みをして領地が増えるわけでもなし、まして神様の事で争うなど馬鹿らしいことです。一向一揆をご存知でしょう。死を恐れぬ兵ほど怖いものはありません。お屋形様は幕府を開いた後、キリスト教を排除すべきか悩まれているそうです」


「それでなぜ十兵衛は勝ち目があると踏んでいるのだ?」


「信忠様はキリシタン人口が今どのくらいいるとお考えですか?」


「わからんが、三千人くらいか?」


「10万人です」


「!!!」


 明智十兵衛光秀が、織田家家臣の時に宣教師の面倒を見ていた事がありました。信長の死後、宣教師は十兵衛を頼ったのです。十兵衛は帝を崇拝しており本来なら、キリシタンは敵対すべき相手なのですが利用する事を考えたのです。


「明智十兵衛はキリシタンを兵力として使おうとしています。そのくせ、秀吉がキリシタン大名を攻めるのを黙認しているのです」


 木下秀吉は、九州にいる。キリシタンの大友宗麟を倒し、今薩摩に向かっているところだ。


「帝を交代させてキリシタンを認めさせ、天下を取った後キリシタンを滅ぼす。恐らくはそういう計画でしょう。そのために織田家を下に置きたかったのです」


「よくわからん。なぜそこまで織田にこだわる?」


「信長様と宣教師の関係でしょう。何か密約でもあったのではないでしょうか?織田が天下を取ったら布教を国として認めるとか?その見返りなんでしょう?その場に明智がいたとか?あくまでも推論ですが色々と想定はできます。明智が織田家を従わせるのか?キリシタンは明智を疑っているのですよ。信じていいのか、と。それに金を貰っている公家の連中も。あの織田家が明智に、となれば話はだいぶ変わってきます。織田家にはそれだけの価値があると思っているのでしょう。ある意味、手詰まっている明智の切り札なのですよ」




 左馬助の報告を聞いた光秀は、決断しました。秀吉、勝頼が中央に戻って来る前に織田家を攻める事を。





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