お市の役目
お市は城の中を歩きながら周囲を警戒しています。今回ゼットの面々は伊達との戦と情報収集に出向いているので影の護衛がいつもより手薄です。一応武田忍びが守ってくれていますが、戦線が拡大しすぎている影響が出ています。
とはいえ護衛は山上道及に本多忠勝。お市も銃を持ってますし十分過ぎるほどです。
「お屋形様。お気をつけください。どこで敵が狙っているかわかりません」
「お市、まあ落ち着け。心配するのは大事なことだが、俺も剣の心得はあるし、鬼が2人も付いている。それに結城殿はそんなに間抜けではないぞ」
お市は不安だった。北条が滅んだ事に秀吉が黙って見ているのだろうかと。実際秀吉は九州制圧でそれどころではないのだが、前回殺し損ねた事が悔やまれる。あの時に殺しておけば北条は裏切らなかったかもしれないのだ。お市は勝頼に同行するのは初めてです。今までは徳が側にいる事が多かったのです。そのため自分がやらなきゃと考えています。
「それならばいいのですが油断されませぬよう。ところでこの城に信平殿が?」
「そうなる予定だ」
「そうですか。春さんの嫁ぎ先はどこをお考えですか?」
「いずれ分かる。だが、難しいかもしれん。思い違いの可能性が高い」
お市は不思議そうな顔で勝頼を見た。一体誰との縁談を考えているのだろう?勝頼の子供は妻たちみんなの子供だと彩様が言っていた。ほかの側室達も同じ意見だった。お市は皆に頼まれて来ていたのだ。春と信平の行き先をよく見てくるようにと。
お市も不在時に茶々を育ててもらった恩もあるし、勝頼の子供は自分の子だと思うようにしている。それに信勝と茶々の結婚も控えている。他の子の幸せもなんとかしたいのです。
結城との会談は呆気なく終わりました。信平を養子にという話に反対する理由などあるわけもない。結城は終始ご機嫌で夜の宴会の準備をと思ったが、試されているのかと思い、戦支度を始めた。旅で疲れている信勝はこの城で少し休めるのかと思っていたのでがっかりしている。
「膠着状態と聞いてはいるが油断はできまい。結城殿はさすがだな」
勝頼の言葉に結城は、
「お屋形様。それがしは先に出陣いたします。この城でごゆるりとお過ごしください」
城を開け渡すような発言だが、これも信頼の証だろう。勝頼はある意味結城を試していた。養子に出すのは戦略的に必須とはいえ変な家には出したくはない。結城の発言に対して追撃をかける。
「ご一緒しては迷惑かな?」
「それでは一緒に出かけましょう。そうとなれば戦陣に急ぐより白河を通り、蘆名へ行かれてはいかがですか?」
白河は結城の一族が治めている。蘆名は伊達政宗に攻められ滅ぼされ、弟の小次郎に蘆名を継がせようとしているところに、佐竹義重が横槍を入れ自分の子供に後を継がせようとしていた。今回伊達が佐竹を攻めたのも蘆名を巡っての勢力争いの一環だ。結城は勝頼に養子の礼として何かできないかと思った時にふと蘆名のいざこざが頭に浮かんだのです。ゴタゴタしている蘆名を上手いことやって武田の物にできれば、と。
「蘆名か(そういえば父上が蘆名の事がどうとかと言っていたな)、佐竹殿の顔を潰す事になるのではないかな?」
「佐竹殿はお屋形様に逆らえません。現に今も武田の戦力で伊達を追い返しているのです。それに………、」
「なんだ?申してみよ」
「お屋形様にはもう1人男子がおられます」
信和か。だが、信勝に万が一何かあった時のために信和の行き先は未だ決めたくないというのが本音だ。もっと子作りに励まねばという事か。と、ここで甲斐姫の顔が頭に浮かんだ。いやいやまだ早い。一瞬にやけたのかお市がジト目で見ている。
「結城殿の言いたいことはわかった。だが、まずは蘆名へ行ってみようではないか」
結城は関東で苦労して来たことはあるな、と勝頼は改めて感心しつつも、自分が思っているより武田の内情は世間に知れていると実感した。信平を預けるには十分な親だ、ただ結城の意見は蘆名を放っておいてはという意味もあるのだろう。
世間は武田を見ている。信玄が死んだと思っている、その上で勝頼を見ている。値踏みしている者もいるだろう。
信玄は蘆名の事情を宇都宮国綱から聞いていたようで前回勝頼が宇都宮城へ寄った時も、蘆名の話題になった。勝頼はその時は蘆名の事情を知らなかったが、ゼットの桃が東北の事情について説明してくれていたので、どこかで蘆名によるつもりではいた。本当は伊達政宗に会ってからの予定だったのだが、順番が変わった事になる。
勝頼は春の行き先に最初は宇都宮国綱を考えていた。だが、東北の事情を知るうちに伊達政宗に嫁がせたいと思うようになっていた。伊達政宗は秀吉と通じている事が分かっている。戦うのではなく味方にできれば、将来東西決戦の時に背後を気にしなくて済む。
伊達は勝頼をどう見ているのか?秀吉に乗っかっているのはどこまで本気なのか。そんな事を考えながら蘆名の城、会津の黒川城へ向かった。




