結婚
勝頼が部屋に入ると信勝は茶々と一緒に待っていました。なにやら神妙そうな顔をしています。後ろには彩とお市も控えています。これってもしや?
「父上、おかえりなさいませ。北条征伐での大勝利、おめでとうございます」
「信勝。ここだから言うが、本当は北条を滅ぼしたくはなかった。義兄を攻める事など無い方がいい。だが、攻めねばこちらがやられてしまう。それが戦だ。お前の代になっても色々な事が起こるであろう。その時には家族を、家臣を護るのだ。それが優先、それさえ忘れなければ後は結果のみ」
「わかりました。肝に銘じます。ところで父上、お話があります」
「なんとなく想像はつくが、言ってみろ!」
「茶々と婚儀を結びたくお願い申し上げます」
やっぱりそうなったか。この時代、大名の結婚イコール戦略結婚です。特に嫡男ともなればその責任は重大なものになります。自分で嫁を決めるなんて事は前代未聞の事です。
ただ、この場合、相手が相手です。今は勝頼の妻とはいえ茶々は織田信長の姪であり、亡父は浅井長政と血筋としては問題ありません。勝頼は他の候補者を考えだしました。戦略的な意味合いでは関東、東北ですが信平、春を出すのでとりあえず居なさそうです。西は明智………、一時的になっても結局手切れになるでしょうからダメですね。
考え込んでいると、お市が
「お屋形様。私からもお願いいたします。好いた相手と結婚できる身分でない事は十分承知しております」
すると彩が、
「信勝の母として申し上げます。茶々は申し分のない嫁です。家柄もよく武田家嫡男の嫁として相応しいよ考えます」
勝頼は許す気満々でしたがなんか面白くありません。親まで出てきやがって、まったく。
「茶々、信勝は嫡男。側室は余も探すし信勝も気に入った娘を囲うだろうが構わないか?」
茶々は下を向いて拳を強く握っています。お市は、ここで言う事ですか!って顔をしています。
「お市、兄に信長殿を見てきたから分かるであろう。信長殿の子は皆側室の腹だ。現当主の信忠もな。茶々よ、武田家は血筋を残さねばならん。強く逞しく天下人としてのな」
皆が目を開きます。勝頼はつい天下人という表現をしてしまいました。勝頼は続けます。
「武田は天下を目指す。最大の敵は木下秀吉、まだ直接対決には年月がかかるが、信勝!お前に天下人の覚悟はあるか?」
信勝は驚きながらも冷静に答えます。
「武田家は清和源氏として幕府を支えて参りました。ですがこの戦国の世は誰かが纏めなければ収拾がつきません。私が天下人になり世を治めたいと思います」
「よく言った。だが、お前には経験が足りない。次の戦からはお前も連れて行くぞ。茶々、お前もついてこい。その上で気持ちが変わらなければ婚儀を認めよう」
茶々は母親譲りの気が強いところがあります。勝頼の言葉を聞いて、
「私も同行させていただきます。信勝様のご活躍をこの目で見とうございます」
「言っておくが、次の戦は東北だ。近いうちに出発するから備えておくように。それと今から全員集めてくれ。皆の前で話がある」
勝頼が部屋を出ると彩は皆を集めに、お市は勝頼の腕を掴んで自分の部屋に引き摺りこみました。
「どうした?」
「反対なのですか?茶々をいじめるような事を言って!」
「反対はしていない。当然の事を言ったまでだ。武田の娘ではなく嫁になるのだ。その違いは大きいぞ」
「ならばいいのです。茶々は私のいない間、彩さんや華名さん、しおさんに実の娘のように可愛がってもらいました。みんなの娘なのです。娘の幸せを願わない母親はいません。先ほどの対応は大人気なくありませんか?それで一言申し上げたかったのです」
ちょっと意地悪したのがバレています。話を変えて誤魔化すことにしました。
「わかった。次の戦ではお前が信勝と茶々を護ってくれ。鍛えたのであろう?」
お市は甲斐に戻ってからも修練は続けていました。当然その事は勝頼の耳にも入っています。
「秀吉を取り逃がした悔しさは忘れられません。徳さんが新しい銃を送ってくれましたのでそれで訓練を続けています。体術も学んでおります」
「頼むぞ!ぼちぼち皆が集まったであろう、戻るぞ」
大広間に嫁と子供全員が揃いました。嫁の末席に座る甲斐姫が輝いて見えます。改めて見ると若い!子供達の間に座った方が違和感ないでしょう。座るところ違うんじゃねって感じです。
「集まったな。皆に関係あることゆえ申し伝える。まずは信平を養子に出すことにした。関東の結城家だ」
皆が動揺して信平を見ます。特に信勝が驚いています。性格が違うこの2人ですがお互いに切磋琢磨してきました。
「兄上、そんなに驚かなくても嫡男は兄上なのですから当たり前のことです。これからもよろしくお願いします」
「その通りだ。信勝、お前は直に武田の当主として皆を使う立場になる。信平は使われる側だ。それと信勝と茶々はいずれ婚儀を結ぶこととなる事を伝えておく」
これは皆驚かなかった。そうなんじゃねって感じでした。三男の信和は、さてさてという顔をしています。信和は彩の産んだ子です。この時から信和は自分の未来について考え始めました。
次女の夏はしおの、三女の幸は華名の子です。徳とお市は勝頼との子はいません。
「娘達はいずれどこかの大名か優秀な家臣の元へ嫁ぐことになる。皆、そのつもりでな。武田の女としての役割を理解してほしい。それともう皆が知っていると思うが、余の新しい嫁だ。甲斐という。歳は若いがしっかりしておる。仲良くしてやってくれ」
すると徳が、
「固い話はこれくらいで、今日の昼食は庭でバーベキューよ。甲斐姫は初めてだろうから驚くかもだけど楽しいから。信勝殿、今日はお祝いだから座ってていいから。信平殿、信和殿、いっぱい焼いてね」
というとみんな急に笑顔になる。信平も急に腕まくり始めるし。なんか勝手に仕切られてるぞ、しかも徳に。
結局バーベキューで皆の近況をゆるい感じで聞くことができた。本音の会話だ。甲斐姫は子供のようにソーセージをほうばっている。実際子供なんだがな、だが子供達とではなく妻寄りの位置に座りあくまでも妻アピールをしている。勝頼が焼けた肉を取ってやると嬉しそうに上品に微笑む。うん、可愛い。
その後、子供達含めゆっくりと雑談ができた。真面目な話だけではコミュニケーションは取れないって事だな。家族は難しい。後半、徳がやってきて耳元で囁く。
「固い話だけだとダメだわさ。家族なんだから。お屋形様は真面目モードの時は顔は怖いし迫力あるし、当主だから仕方ないけど。あと、甲斐姫はお屋形様のこと大好きだって言ってたわよ、良かったね」
と言って背中をバンと叩いて離れていきました。まったく、今晩は徳の番です。3倍返しだね!




