新婚さんいらっつぁい
勝頼は信玄と話をした後、一度甲斐に戻りました。新しい嫁を迎え入れたのに一度も帰っていません。徳から手紙が来ていて
「いいから帰ってらっしゃい。悪いようにはしません事よ、オホホホホ」
と書いてあり、頭が痛くなりましたが確かに一度戻った方が良さそうなので帰ることにしました。子供達のこともありますし。古府中に戻り、躑躅ヶ崎の新館に入ると入り口に徳が待ち構えていました。
「お屋形様、おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
と三つ指ついてのお出迎えです。いきなり怪しい、またこいつ何か企んでる。
「徳、ここに居たのか?高天神城へ戻ったのかと思っておった」
勝頼は様子見にジャブというか嫌味を1発入れました。実際、二の丸をどうやって燃やしたのかは錠に聞きましたが未だに信じられません。徳式ロケットとでもいうのでしょうか?あれで北条にとどめを刺したのですから大手柄です。ですが徳の事ですからあれで満足せず更なる改良点を見つけ、すぐにでも新兵器に取り掛かりそうなものです。ところがわざわざ古府中に、となると甲斐姫しかありません。どこからか甲斐姫の話を聞いたのでしょう。
「そんな事よりだーーーいじな事がありまして甲斐にきておりまする。甲斐、甲斐、甲斐に」
目付きがいやらしい。
「お前、また何を企んでるおる」
「甲斐姫用にお屋形様の取り扱い説明書を彩様と作っておりました。お市様は真っ赤な顔をして横目で見ているだけでした。オホホホホ」
何じゃそりゃ!
「そんなに余は扱いにくいのか?」
「そうではありません。甲斐姫が絶世の美少女と聞き顔が見たかったというのが本当のところです。そしたらまあ、本当に美人だこと。彩ちゃんもいっちゃんも綺麗だけど種類が違うというか、いやあ、お屋形様は恵まれてる〜!」
「お前、どこぞのスケベオヤジみたいだぞ」
「それは認めます」
認めんのかい!
「お屋形様。今宵は甲斐姫と、それ以降は順番に可愛がってくださいませ。皆お情けを待っておりますので」
おっ、急に謙虚になったぞ。まあ確かに長い間放ったらかしだったし、子供達との話もある。
「わかった。この度は少し長めに滞在する。お前にも行くから覚悟しておけ、ロケットの事も聞きたいしな」
「あいあいさー!」
徳は奥へを引っ込みます。勝頼が進んでいくと今度は甲斐姫が三つ指をついて待っていました。甲斐姫は忍城の成田氏長の娘だ。だが、まだ10歳。娘の春より年下だ。流石に事を致すわけにはいかないのだが、徳の取り扱い説明書というのが気にかかる。
「お屋形様。甲斐にございます。先に古府中へ来ておりました」
「ようく来たな。武蔵と甲斐では勝手が違う事も多かろうが、よろしく頼む」
「はい。皆様に大変良くしていただいております。末永くお側に置いてくださいまし。精一杯お仕えさせていただきます」
か、可愛い。鼻の下が伸びそうになる。
「今夜ゆっくりと話そう」
勝頼はそう言って他の嫁の様子を伺いにいく。彩はいつも通りだった。お市は呆れていた。茶々と変わらない年の娘を嫁になんてと。政略結婚だと言い訳しごまかし、お市とは北条との戦の話で盛り上がった。秀吉と氏政の関係にお市は興味津々だった。そして次の戦には連れて行けと言うので悩んだ上に同行させる事にした。茶々共々だ。
次に側室のしおと長女の春に会いに行きました。前回来た時に春の嫁ぎ先を決めると言っていたのですが、今回の関東遠征で思っていたのと違うことが多く、結局嫁ぎ先を決めることができませんでしたのでその報告です。
「春、もう少し待て。父が良い嫁ぎ先を決めるでな」
「はい、父上。春は寒い北の国へ行くような気がしています。なんとなくですが」
「そうか。当たるかもしれんな」
勘がいい。そうなるといいのだが。
「この間甲斐姫様と遊びました。すごく賢いお方です。父上にはもったいないと思います」
何だその言い方!気持ちはわからんでもないけど。それを聞いたしおが、
「春、お屋形様になんて失礼な!お屋形様、申し訳ありません」
「いや、構わん。甲斐姫は嫁とはいえ人質のようなものだ。だが嫁に来た以上他の側室と差別はせん。同じように扱う。春にももったいないくらいの相手を見つけるぞ」
そういうと春は嬉しそうに笑った後、自分の事を考えます。春もお市と同じで呆れていたのでしょう。だって甲斐姫は自分より年下なのですから。ですが人質という言葉を聞いて悟ったのです。自分にもそういう意味があると。戦国の女の役割についてはお市からちょくちょく話を聞いていました。異国に嫁に行く苦労については彩からも。
自分の役割はどこかの大名との橋渡しなのでしょう。叔母の梅は北条から出戻り尼になりました。明日は我が身かもしれません。
「父上、甲斐姫も覚悟の上参ったのですね。私も覚悟はできています」
「そうだ。春、次に戻る時は相手を決めてくる。そうなればすぐにでも嫁いでもらう。しお、準備を頼む」
そう言って部屋を出るともう夜でした。勝頼は新婦の部屋を訪ねました。




