信玄死偽装の意味
「武田逍遙軒の首を取れ!」
北条氏規のその声に呼応して北条兵だけでなく、武蔵の兵の一部も北条に加わり武田陣に攻めかかりました。それを見ていた後方に控えていた結城の軍が応援に駆けつけます。この応援と室賀、諏訪の頑張りもあり、結局北条氏規は捕らえられました。ただ、武田逍遙軒信廉は敵の流れ矢が当たりここで命を落としてしまいました。
逍遙軒が死んだと聞いた勝頼の怒りは大爆発です。その怒りは北条に味方をした関東衆に向けられました。戦の最中に裏切ったり、日和見をした者たち、こんな奴らは今後信用する事はできません。逍遙軒から貰っていた信用できなさそうな奴らメモと裏切った者は合致していました。さすが天下の武田信玄の弟です。人を見る目がありました。
そいつ等に北条に味方をした理由を問いただし、領地没収、理由によっては極刑とします。次々と処分を決めた後、北条氏規は勝頼の前に連れていかれました。勝頼は氏規に対しては冷静に怒りを表さず、語りかけます。これは軍師である子孫の三雄に教わった、管理職は怒りをコントロールすべし!というところから来ています。わざと怒ったり褒めたり、実際の感情に流される事なく、喜怒哀楽をコントロールしろという教えです。
「氏規殿、見事な戦いぶりである。敵ながらあっぱれだ」
「どうせ殺すのになぜ捕らえた?理由を聞きたい」
「余は氏政、氏直を捕らえよと申したのだが、配下達が拡大解釈をしてしまったようだ。お主は運がいい、本当は死んでいたと言うことだ」
「どうせ殺すのであろうに。さっさと殺せ」
「そうされたいのならそれでもいいが。ところで氏政はどうした?」
「さあな、お前に言う必要はない。信玄が死んで武田は脅威ではないと見誤った兄者の事などどうでもいいわ!」
氏規は勝頼という男こそが強者であると感じていました。それはそうでしょう、小田原城を燃やしてしまうのですから。
「父上が死んだのか?初耳だ。どこからの情報だ?」
「何を申す?武田信玄は死んだ。風魔の手によって」
「ほう、やはり風魔であったか。それにそれを知っていると言うことは風魔に指示したのも氏政か。で、氏政が父上亡き後の勝頼は怖くないと申したのか。うーむ、余もまだまだという事か」
「勝頼、お前何を企んでいる?」
「氏規殿。そなたにお前呼ばわりされる覚えはないぞ。せっかく生き延びたのだ。これも天命かもしれんぞ、命は大事にすることだ。叔父上を殺されたのは悔しいがこれも戦であろう。氏政、氏直の首で勘弁してやる事にする。それでだ、氏規殿の働きは見事であった。余に仕えるなら小さいながらも領地をやろう」
「わしに北条を裏切れと言うのか?あり得ん!」
「違うぞ、北条家は今日滅びる。今日から旧姓の、伊勢氏規と名乗るが良いぞ」
「まだ北条は負けてはいない」
「氏邦は鉢形城、お主はどこがいい?伊豆でどうだ?」
「いい加減にしろ、勝頼。北条は負けん、貴様の命も長くはない。風魔の小太郎によって親子とも殺されるのだ」
風魔の小太郎?そいつが風魔の親玉か。氏規を煽ってみたがこれ以上情報は取れなさそうだ。なかなかの男だが味方につきそうもないし、仕方がない。様子見か?
「その風魔というのはどこにおる?風間与太郎は風魔ではないのか?」
「さあな。わしは会ったことがないからわからん。さっさと殺せ!」
「そうか。そのものを木牢へ放り込んでおけ、殺すなよ」
勝頼は仕方なく指示して、考えこみます。秀吉と氏政がつながっている事は聞きましたが、勝頼は氏政とも仲良くしてきたつもりでした。それなりに自分という人間を見せてきたと思っていましたが、改めて大した事ないと思われていると知ると、なんだかなあという気持ちです。氏政が勝頼を捨てて秀吉と結んだのは事実ですが、どこかで何かの間違いであってほしいという願望がほんの少しありました。
ですが事実は事実です。受け止めなければいけないのです。あれ?まさかそれをはっきりさせるために???。信玄が芝居をうったのはそれを勝頼にわからせるため?
さすがは武田信玄、急な事件、それも殺されそうになった直後にそこまで考えていて死んだふりを!父親ながら恐ろしい男です。味方で良かった。
勝頼は小田原城を見ました。火はだいぶ消えてきていますが、天守の面影はありません。すっかり燃えて黒い煙が出ています。海側の二の丸は燃えていないと物見の報告があり、氏政、氏直はそこにいるようです。そこに諏訪と室賀がやってきてうなだれています。逍遙軒を守れなかったのです。
「室賀、諏訪、そう気落ちするでない。戦はそういうものだ」
勝頼はうなだれて落ち込んでいる両名に声をかけました。逍遙軒を襲った矢は諏訪が守っていた側からのものでした。ですが、室賀は共同責任と考えてひれ伏しています。
「そなた等を責めようとは思わん。だがけじめはいる。今回の戦での加増は望めないと思え」
勝頼は課題が多く、室賀の扱いに気が回っていません。室賀が不満そうな顔をしたのに気づきませんでした。すぐさま、次の報告が入ります。
「二の丸が燃えだしました!」




