次は川中島
桶狭間では歴史通りに今川義元が死に、三河では徳川家康と名を改めた松平元康が今川残党を徐々に追い出し、三河を取り戻して行きました。肝心の今川家では、敗戦からの立ち直りが遅れていて徳川の反旗に気付きながらも三河を相手にしている状況ではなく、一気に衰退を始めています。
武田家は、駿河を攻めたいところではありますが、表向きは今川と同盟を結んでおります。また、跡継ぎの長男は今川義元の娘を嫁に迎えており、長男の武田義信は今川びいきです。そんなこともあり、今は様子見の状態でした。
関東では上杉政虎と名を変えた長尾景虎が北条と争っていて、北条とも同盟を結んでいる武田家は一応義理で上州へ出陣しています。武田からすれば小競り合いですが、上杉にとっては大きな戦でした。邪魔をされて越後へ戻っていきます。そしてあの有名な第四次スーパーロボじゃない、第四次川中島の戦いに向かって時が進んでいきます。世にいう川中島とはこの1561年に起こった第四次の事を言っています。
三雄は、恵子から聞いた川中島の結果を勝頼に教えました。
「上杉政虎との戦いで山本勘助は死ぬ。諸角や典厩信繁も死ぬ。嫡男の義信は作戦を無視して武田軍を窮地に陥れたと戦後に蟄居される。義信派の武将が謀反を起こそうとして穴山弟と山県兄が………」
「待ってください。情報が多すぎます。兄上が蟄居になるという事は以前に聞きましたがそれ程とは」
勝頼はすでに14歳になっています。ぼちぼち初陣がしたくてうずうずしていますが、晴信からは沙汰がありません。晴信は川中島のような戦いではなく、楽な戦で初陣をさせるつもりのようです、親心ですね。勝頼はまだ人を殺した事がないのです。
なので訓練を続けています。訓練役の里美はすっかり諏訪に居着いています。最近では勝頼の方が騎馬、剣、槍に長けてきておりもうお役御免ね、と温泉三昧の毎日で代わりに玉井伊織が指南役になっています。伊那忍びの吾郎にも体術を教えてもらっており、身体つきも大人になってきています。
「三雄殿。私の初陣はいつになりますか?」
「歴史ではこの後、箕輪城を攻める戦があってそれが勝頼の初陣となっている。まあ焦らないことだ。そのうち嫌ってほど戦になるのだから。それでだ、また川中島の詳細を知りたいのだが」
三雄は恵子に頼まれていたのです。実は恵子は川中島の戦いで有名な山に馬場美濃守と真田幸隆が取り残され、武田軍が窮地に陥ったと伝わっている歴史を間違いだと思っています。それを確認したくてまた勝頼に聞いてくれと三雄に頼んだのです。
恵子は歴史を変えたいとは思っていません。学者としての知識欲、真実を知りたいという欲だけです。
実は新府城から帰った後、2人の関係は少しギクシャクし始めていました。恵子は勝頼に関わらない方がいいと諏訪への同行を拒んでいたのです。三雄は恵子無しで勝頼を補佐できるように歴史の勉強を始めました。次に起きる一大イベントは川中島、上杉謙信と武田信玄がぶつかって謙信が信玄を直接槍で斬りつけて軍配で防いだという逸話が残っているあの戦いです。勝頼の初陣までもう少し、もっと勉強しないと、と思っていましたが突然恵子がやってきて、
「川中島が知りたいの。今回だけ協力するわ」
と、川中島の後に起きた事件まで詳しく教えてくれました。川中島が近づくに連れて真実を知りたいという欲求に負けてしまい三雄に頼んだのです。
『初陣前なら歴史は大して変わらないと割り切ったのかな?』
三雄は複雑でした。恵子は言いたい事だけ言ったら帰ってしまいました。仲直りしたい気持ちと勝頼を助けたい気持ち、この両方を活かすには恵子に納得して欲しいのですが。
当の勝頼は、今の自分にできる事を精一杯行なっています。訓練、配下の教育、工場稼働、移民対策と大忙しです。参謀が足らない為、弥生豚事件で知り合った寅三に話をして近隣の部落から力自慢の若者を集め勝頼直結の馬廻衆としました。実際には親衛隊というか、護衛部隊兼連絡係です。寅三は毎日勝頼の指示連絡を各地に伝えています。そして、同じく弥生豚事件で知り合った徳を側女にしています。あの生意気な徳ですが、食生活が良くなったら出るところが出てナイスバディになりました。俗に言うお手つきです。山育ちということもあり運動神経がいいので戦闘訓練もしています。
さて、今までも諏訪神社で情報を定期的に聞いてはきましたが、今回の話は衝撃的でした。大勢の将が死ぬというのです。兄が失敗して蟄居になるとは聞いていましたが、それをなんとかしようとしてさらに将が死ぬと。
桶狭間の時は人の戦でした。遠くで起こる話なのであまりピンときていませんでした。世間では大事件でも諏訪の山にいる子供にとっては他人事です。
「これは大変な事です。三雄殿はそれを私に聞かせてどうしたいのですか?」
「俺は勝頼がこの先どうなるかを知っている。この間、お前が未来に築きあげて自ら火を付けた城跡に行ってきた。涙が止まらなかったよ。お前は今もやっているように時を一生懸命駆け抜けた。でもその結果はいいものではなかった。俺は勝頼が自害や他殺で死ぬのではなく寿命を全うしてもらいたいと思っている。それがどういう生き方になるのかは俺には決められない」
「少し時間をください。三雄殿は優しい方だと思っていましたがそうではないのかも知れませんね。未来を知るという事がどんな事か、いえ、忘れてください。私の事を心配してくれているのですよね」
「すまない。勝頼にとっては苦痛かもしれないな。だが、先を知って行動すれば間違いを起こしにくくなるんだ」
「ところでその手に持っている物は何ですか?」
「ああ、これか。スマホだよ、ってわかるわけないよな。携帯電話、ん?それでもわからないか。なんて説明すれば………」
三雄は電波という物を使って遠くにいる人と会話ができる道具と説明をしました。勝頼は興味津々でしたが2人の間には見えない壁があり見せる事しか出来ません。試しに勝頼の写真を撮ってみたのですが風景しか写っていませんでした。
「どういう仕組みなのか?今俺の目の前にいる勝頼は写らない。そうそう、川中島が終わって初陣が近づいたら話すけど、勝頼がどうしたいかで助言する内容を決めるから。俺の願望を押し付けるわけにはいかないしな。不思議と時間の進む速度が同じみたいだから勝頼が長生きすれば俺の方が先に死ぬ事になるだろうし。30歳くらい歳上だからね」
「初陣ですか。準備はしています。人口も増えてきましたし政治にやりがいが出てきました。その遠くにいる人と話ができる道具があれば戦は楽ですよね」
「戦は情報が勝負を決める。戦国にスマホは無理だろう、多分。ただその発想は重要だよ。色々考えてみる」
勝頼は川中島の詳細を調べると言って帰って行きました。三雄は諏訪大社にお参りして静岡へ戻りました。自分の行動の意味を考えながら。




