小田原城延焼
「ありゃありゃ。喜兵衛殿の作戦がうまくいったみたいだわさ。あたいの出番が無くなった」
「姉ちゃん、おいらは命拾いしたって事だね」
「錠、あんたは甲賀のやつにやられて怪我して休んでた分、働かなきゃでしょ。せっかくだから行っとく?」
相模湾に浮かぶ大きな船に乗っているのは徳と弟のチーム甲のリーダー錠です。戦艦駿河マークII、駆逐艦楓、櫻に護衛されています。
「燃えてます。いつもより大きく燃えてます。でもおかしいわね?もっと一気にぐわっといっても良さそうだけど。喜兵衛殿が計算間違えるとも思えないし」
「数が少ない。聞いていたのより半分以下だよ、姉ちゃん。あれじゃああの巨大な小田原城全焼は無理だね」
「時間かかるけど海風に煽られて本丸は燃えても海側の二の丸は無事ね。どっちから逃げてくると思う?」
「海に来れば戦艦駿河マークIIの餌食、箱根は武藤様、お屋形様も大軍を率いて遠目に城を囲んでいるだろうし、まあどこに逃げても」
「そんな事は聞いてないでしょ!どっちへ逃げるかよ。やっぱ飛んどく?」
勝頼はゴウゴウと燃える小田原城天守を見ていた。逍遙軒の連絡を受けた関東の大名、国衆が集まってきてその様子を見て驚いている。あの小田原城が燃えているのだ。逍遙軒は城から出てくる北条兵と戦うべくすでに兵を配置済みだ。
「皆の者、ようく聞け!あの毘沙門天の化身と言われた上杉謙信公でさえ、10万余の兵を率いてもあの小田原城を落とせなかった。だが、この武田勝頼にかかってはあの通りだ」
勝頼はここで一息つき、佐竹を見、結城を見、そして多くの国衆の目を睨みつける。
「ここにいる方々は時には北条へ味方し、上杉に味方し忠義のかけらも無いと聞く。そしてそれは関東という地に住む以上仕方がないと言い訳をする。だが、その事は問わん、余は寛大である。今までの事は気にはしない。だが、今後武田に逆らえばあの小田原城のようになるという事を覚えておいてもらおう。よいか、直ぐに北条親子は城を捨てて逃げ惑う。北条親子捕らえた者には褒美を取らす。また、今回武田に逆らい籠城している者、馳せ参じなかった者は全て腹を切らす」
勝頼の狙いは末永き関東の安定だ。すでに関東管領などという物に価値はない。三雄に写させてもらった教科書では徳川家康が関東を治め、江戸に幕府を開いたそうだ。勝頼は小田原に来る途中、江戸城に寄ってみました。江戸は川が多く沼も多い。京に比べて都に適しているとは思えなかった。三雄の世界の家康が相当苦労して作り上げた事が見て取れた。
武田幕府を開く、父信玄はそう夢を語った。勝頼も民の平和のために幕府を開きたいと考えています。では、どこに?山ばっかりの甲斐と違い、関東平野は広く平らな土地も多い、きっと農作物がよく育つでしょう。街道を整備し、川の流れを変えれば小舟を使った輸送手段も活用できそうです。
最初は駿府に幕府を開くつもりでした。冬は雪がほとんど降りません。海があり山があり川がある、老後を過ごすにはいい土地です。ですが、幕府を開くとなるとどうか?勝頼は江戸に目を付けたのです。それにはこの関東の土地に武田を根付かせねばなりません。そして家康がどうやったのか、あの水だらけの江戸をどうやって都にしたのかを考えながら小田原に来たのです。
「皆の者、北条親子を捕らえよ!」
勝頼の掛け声に関東の国衆が燃え上がる小田原城に向かって進み始めました。すでに逍遙軒が先行している事を知り焦って我こそはと競い始めます。
「さて、どこから出てくる氏政?」
火牛の計。北条家の祖、伊勢新九郎こと北条早雲が城を奪い取った戦法です。武藤喜兵衛に小田原を攻めると言ったときに、それならば火牛の計でいきましょうと提案され、竹中半兵衛と策を練り上げました。今のところうまくいっています。しかし喜兵衛は性格悪い、ホント敵にはしたくない。
北条氏直は氏政の元へ走り、城を捨てる事を提案しました。氏政は馬鹿者!と一喝しましたが、気温が上がってくるのを肌で感じ、本丸から海側の二の丸に向かいます。二の丸からは水路が海まで繋がっていて北条水軍もそこから出入りしています。氏政は燃える城を見上げながら、
「氏直!秀吉の言う通り待ち構えていたのになんだこの不始末は!城が燃えては籠城はできん、討って出るぞ!小太郎を呼べ!」
「風魔小太郎は、この数日姿を見かけません。父上のご命令で箱根の山から飛ぶ武田軍を滅ぼしに行ったきりです。ですが、武田は空からやってきました。小太郎は死んだのではないでしょうか?」
「うーむ、物見を出せ!こうなったら勝頼を攻める!」
「情報では勝頼は二宮からこちらへ向かっておりその数8万、勝ち目はございませぬ」
「そなたはさっきから何をいっているのだ?命が惜しいのか?」
「そうではありませぬ」
そこまで言って氏直は黙ってしまいました。氏政は氏直を無視し、水軍の将である梶浦景宗に聞いた。
「海はどうだ?」
「はっ、水軍は無事にございます。このまま沖に出て里見を頼るか、伊達を頼るのはいかがでしょう?」
梶浦景宗は、北条氏康が連れてきた海の男だ。里見との水軍戦では船に大鉄砲を積み連戦連勝をしていて、海の戦には自信を持っています。氏政はそれも有りかと考え始めます。小田原城には2万の兵が籠城しています。船にそんなには乗れませんが氏直をここに残し、氏政が外から支援する作戦です。伊達は秀吉を通じて北条に味方すると言ってきていました。佐竹や結城も伊達が攻めてくれば引いていくでしょう。
しかし小田原城が燃えるとは。北条家の祖であらせられる早雲様は火牛の計で城を奪い取ったそうだが、子孫のわしが火で城から追い出される事になるとは父上でも考えつくまい。と、考えていた時、二の丸近くに砲弾が飛んできました。




