敵襲
先に空へと飛び出した速達は後方から聞こえてくる爆発音で味方が攻撃を受けた事を知り、振り返ります。後から飛び立った戦闘機と爆撃機の連中も心配そうに後ろを振り返っています。速達はリーダーの弾からもし何かあったらお前が仕切れと言われていたのを思い出しました。後ろを気にしているようでは任務は達成できません。これではいかんと、
「前を見ろ!我らの任務は小田原にある。後ろは気にするな、殿が必ず勝利へと導くであろう。皆の者、続けー!」
と檄を飛ばしブースターで大空高く舞い上がりました。それを聞いて、皆が速達に続いて1回目のブースターを使い一気に戦場から離れていきます。ブースターは事前に巻いたゼンマイを使ってプロペラを回し加速する仕組みで、航空距離を伸ばすために武藤喜兵衛が教科書知識を応用した発明品です。
「弾、殿を守ってくれ。こっちは任せろ」
速達はそう呟いて小田原城目掛けて高度を上げました。今までのハンググライダー甲斐紫電は空中では降りる事しかできませんでした。風によっては多少の上昇はできるものの意識して高度を上げる事ができません。この尾張出須はゼンマイ駆動のプロペラを回す事により高度を上げる事が可能なのです。
さて、空軍が飛び立った後の箱根では、
武藤喜兵衛の周囲には玉井伊織が5名の配下と共に槍を持って立ち、喜兵衛を守っています。玉井は元々勝頼の旗本扱いでしたが、最近はゼットの面々が護衛についているので高天神城で上泉伊勢守の下についていました。今回はこの戦の主である武藤喜兵衛と行動を共にしています。
尾張出須の組立要員とはいえ、空軍予備兵でもあり選ばれた者達です。当然戦闘にも長けています。とはいえ数の暴力と時々タイミングよく飛んでくる風魔の手裏剣に手こずり、半数がやられてしまいました。奇襲を仕掛けて先手を取った北条、それを逆手に取り桜花散撃を使い敵の勢いを削いだ武藤喜兵衛、それを小技で盛り返す風魔。北条の犠牲も大きいですがこちらは数が少ないのです。
このままでは不味いと、井伊直政は兵を一度喜兵衛の元へ下がらせて態勢を整えようと指示を出し、兵を下げるために自らが前に出て敵を引きつけました。敵が直政を囲もうとするのをチーム丙の北斗が防ごうとして苦無を投げ前に割り込みます。
「井伊様、下がってください。ここは俺が」
「すまん、死ぬなよ」
北斗は懐から怪しげな玉を取り出して地面に投げつけました。そこから黒い煙が出始めます。煙を吸った敵兵は咳き込み涙ぐみ武器を放り投げもがき苦しんでいます。この煙は川中島で真田信綱が使った黒煙と同じ成分です。その隙に素早く離脱した北斗は井伊直政と共に武藤喜兵衛の元へ向かいます。
井伊直政隊は山を登ってくる兵と戦いながら、武藤喜兵衛を攻めようとしている北条兵の後ろを攻めようとしてます。圧倒的に不利ですが黒い煙のお陰でなんとか追いつきました。井伊隊の攻撃で武藤喜兵衛を攻める勢いが弱ります。その隙に北斗は喜兵衛のところにたどり着きました。
「殿。煙幕玉を使いました。残ったのはこれだけですか?」
「そうだ20名位か。弾はどうした?」
「リーダーとは逸れてしまいました。ここにいないという事は………、探してまいります」
「待て、敵がもう向かって来ている。ここで向かえ打つ。井伊の頑張りで敵の数が減った。これならば」
疲れていない玉井達が前に出て敵を迎え打ちます。向かってくる敵兵は30名、そのうち格好の違う者が7名います。玉井は時間があるときに上泉伊勢守に稽古をつけてもらっていました。ですので以前より槍さばきに磨きがかかっています。
あっという間に玉井達が10人を倒したところで、格好の違う者達が手裏剣を投げてきました。玉井はかわしますが2名が倒れました。
「ダーン、ダーン!」
武藤喜兵衛の銃口が火を吹きます。格好の違う敵を2人倒し、なおも驚く敵に連射します。こいつらは風魔の者でした。素早く動き弾から逃れようとしますがさらに2人が倒れ、うまくかわした風魔を狙った弾は後ろにいた北条兵に当たりました。それを見た井伊直政は好機と見て、
「井伊隊、突撃!」
と駆け出す井伊直政を風魔が手裏剣で攻撃しようとしていました。
「危ない!」
北斗が身体を張って手裏剣を防ぎながら自らも苦無を投げます。手裏剣は北斗の肩に刺さりました。直政は振り返りません。鬼のような真っ赤な顔をして敵をなぎ倒していきます。その姿はまるで赤鬼のようでした。玉井も攻撃に加わり武藤喜兵衛を攻めてきた北条兵を殲滅していきます。目先の危機は回避できました。あとは山を登ってくる敵兵だけです。直政は弓で上から牽制するよう指示し、その隙に仮のバリケードを設置しました。
「これで一安心ですな、玉井殿。お見事な腕前です」
「井伊殿。こちらの犠牲が多すぎますし、まだ敵は残っております。それに少し無茶が過ぎますな。まずは生きている者を集め態勢を整えましょう。怪我人の手当ても必要です。ん?北斗、大丈夫か?」
北斗は肩を抑えてうずくまっていました。身体が震えていてみるみる顔色が悪くなっていきます。
「しまった。毒か?おい、北斗、しっかりしろ、おい!」
北斗は朦朧とした顔で玉井の後ろ側を指さします。玉井が振り返るとそこには2人の男が立っていました。




