空へ
勝頼と逍遙軒は、二宮から小田原城が見えるところまでやってきていました。
「しかし叔父上は父上に良く似ていらっしゃる」
「昔はよく兄上の影武者を勤めました。今回も影武者になっておればあのような事には」
勝頼は試したのです。箝口令がどこまで効いているかを。甲斐にいた逍遙軒に伝わっているようでは偽装した意味がありません。ですがもういいでしょう。信玄がいなくても関東の国衆は武田につきました。北条は信玄がいないと思って半分舐めてかかっています。
「叔父上。実は…………、」
周りに聞こえないよう耳打ちします。逍遙軒は驚きながらも笑っています。
「全くいくつになっても人が悪い。それでこの小田原攻めですが」
「はい。布陣はこうします。あれがこうなってこうなったところをこうです」
「………、まさかに。わかり申した。準備いたします」
何だそれは!!??と思ったが、鉄砲がこの世に出てきてから戦は変わった。老兵の出番はもうないであろう。これを最期のお勤めとしよう。逍遙軒がそう考えて離れようとすると、
「あ、その前に叔父上。伊勢守の事ですが」
伊勢守。上泉伊勢守の事です。現在74歳、今回の関東攻めに貢献したいと自ら名乗り出て、関東の国衆の説得にあたっていました。そのおかげで大した犠牲もなく、多くの国衆が武田に味方してくれています。
ただ、今までのように一時的に味方になるだけでは意味がありません。この戦はこの国衆を完全に武田配下にするのが目的の1つでもあります。
その伊勢守ですが、無理がたたったのか病に倒れ今は古巣である箕輪城で療養中です。逍遙軒は以前から伊勢守と話をしてみたいと言っていました。それを思い出したのです。
「そうですか、あの伊勢守殿が。この戦が終わったら会いに行ってもよろしいか?」
「もちろんです。是非にお願いします」
「お屋形様。老婆心ながら申し上げます。あの身体を鍛え、天下無双の強さを持つ伊勢守でさえ歳には勝てません。人はいつか死ぬ。死ねば終わりです。ですが、お屋形様はこの武田の大将。死んで終わってはいけないのです。いつ死んでも上杉のような事にならないようお願いいたします」
逍遙軒の目は真剣でした。逍遙軒は、同い年の信勝、信平が勝頼の死後争う事を懸念していました。甲斐にいる逍遙軒は普段から勝頼の子供達の面倒も見ているのです。逍遙軒の目には信勝は大将の器ですが、信平の方が賢く知恵が回るように見えています。それ故に将来何かが起きる、その危険性は十分にあると気にしていました。
「わかりました。肝に銘じます」
箱根の山から発した狼煙に気付いたのは北条兵だけではありませんでした。胸騒ぎがしていた武藤喜兵衛も周囲に気を配っており、すぐ横の林から発しているいかにも怪しい煙に反応します。
「弾、あれは何だ!見て参れ」
喜兵衛は特殊部隊ゼットのチーム丙のリーダーである弾に指示しました。チーム丙は弾、速達、英機、北斗、弦の5人で形成されています。弾は北斗と弦を連れて林に入っていきましたが、誰一人発見する事はできませんでした。ですが、明らかに誰かが用意した合図です。
「これはいかん。おい、空へ急ぐぞ」
『了解』
弾は空軍部隊に離陸を急ぐよう指示し、喜兵衛に報告します。喜兵衛は、
「組み立て隊は武器を持って敵に備えよ!お前たちは空へ」
その時、すぐそこの崖の下で鉄砲の音が鳴り響きます。北条軍が警戒していた井伊直政の兵に向かって発砲しながら山を登ってきていました。
鉄砲の音を聞いた直政は部隊を集めて応戦にあたります。直政はまず距離を取り、敵兵に向かって手投げ式桜花散撃を投げました。
『ボン!』
桜花散撃は空中で爆発音と共にマキビシを撒き散らします。高速でマキビシが敵兵に襲いかかり、登って来ていた先頭の兵が痛さでもがき、山を転げ落ちます。それにより敵の勢いが止まったところに続けて桜花散撃を使いました。
下からは兵が勢いよく登って来ているところに、上からは痛さで転がり落ちてくる兵が。一部で兵が将棋倒しになったり、態勢が崩れてしまいました。
「よし、今だ。かかれー!」
直政の掛け声と共に護衛兵が一気に山を駆け下り敵に攻撃を仕掛けます。直政は目の前の敵に集中しています。というよりそこしか見えていませんでした。
狼煙を上げた風魔小太郎は、風魔の者と、北条の別働隊100名を連れて隠れていました。銃撃の音と兵の進軍で武田の護衛兵は皆、攻めてくる敵に向かっていきます。謎の飛ぶ道具の周りは手薄になりました。
「今だ、攻めかけよ」
飛び出して鉄砲20丁、弓矢30を打ちかけ、そのままの勢いで敵に突っ込んでいきました。
その時、速達、英機、弦はすでに飛び立ち、爆撃隊も10機が飛び立っていました。弾と北斗は他の兵の離陸を手伝っていました。そこに銃撃を受けます。組み立て隊70名が身体を張って庇い、敵兵に応対していますが、先手を取られ崩れそうなところを、武藤喜兵衛が敵後方にボーガンから桜花散撃を発射し敵の勢いを削ぎます。喜兵衛は桜花散撃を全て打ち切った後、懐から銃を出し両手に持ちました。




