さて、小早川は
小早川隆景は泳いでいる。ここは本願寺沖の海だ。さっきまで戦艦安芸に載っていた。敵の船から何か大きな物が飛んできて戦艦安芸をぶち抜いた。その衝撃で海へ放り出されたのだった。
泳ぐしかなかった。負けたのだ。悔しかった。秀吉にすごい船を貰った。無敵だと思った。ところが呆気なく負けたのだ。だが俺はまだ死んではいない。まだ戦えるのだ。それには生き残ならければならない。陸はそんなに遠くない。瀬戸内海育ちの海の男だ、泳ぐのなんかなんでもなーいな〜いと泳ぎ始めて少しすると東側50mくらいのところを逆に沖に向かって泳いでいる男が見えた。一瞬気になったがそれどころではないとひたすら陸地へ向かって泳ぐ。まさかそれが本願寺から逃げてきた佐々成政とは知らずに。
不思議と敵からの追撃はなかった。とにかく泳いだ。泳いで泳いで泳ぎまくった。そしてたどり着いたところは本願寺だった。
本願寺では前田利家が残っている佐々軍の残党狩りの最中でした。残党といっても本願寺の工事人夫は金で寝返り、佐々に長年仕えていた者達です。1人、また1人減り、最後に残った者が集まって隠れています。
「殿は逃げれたのだな?」
「海に出たところまでは見た。あとは運のみぞ知る」
「ここにこれ以上籠っていても食料も尽きた。助けも来ないだろう。殿さえ生きておれば我らは思い残す事はない。討って出るぞ!」
隠れていた兵20名は前田軍に突っ込んでいきます。ところが、突っ込んだ先の前田軍の兵も昔からいる兵でした。当然顔見知りです。驚いて立ち止まり、
「忠吉ではないか?なんでここにおる。織田を裏切るのか?」
「太助か。これもお役目、信長様がお亡くなりになったのだぞ。織田に未来はないのだ。殿は木下様に付く道を選んだ。ならば家臣はそれをお支えするのみ」
「我らが戦わねばならぬのか?」
「降伏せい。旧知の仲だ。命までは取らん。望むなら殿に口利きもしてやろう」
「ふざけるな!」
太助は怒鳴ると同時に忠吉を斬り捨てた。それをきっかけに戦闘が始まり、佐々残党は健闘したものの全滅した。太助は死に際に、呟いて死んでいった。
「殿。いつかこの無念を………、」
先日まで友だった者が敵になる。利家はこの報告を受けて一瞬落ち込みましたが開き直ります。もう戻れません。秀吉を天下人にするのが自分の役目、そのためには多少の犠牲など気にしてはならない、と。
そんな中、海からずぶ濡れの男がやってきて、ここの将に会わせろと喚いていると報告がありました。逃げた成政でも戻ってきたかと利家は自慢の長槍を担いで行くとそこには見たことのない男が胡座をかいて座っていました。利家は誰だこいつ?、と思いながら話しかけます。
「前田利家だ。俺に用か?」
男は首を傾げたあと
「そうか。ここは織田方であったか。これはいかん。秀吉のことだからすでに本願寺は落としていると思っていたが、見込み違いであったか」
利家も首を傾げた。はて?
「名乗っていただきたい。毛利の将か?」
「これは失礼仕った。わしは小早川隆景と申す。手柄にされたし」
小早川隆景は、前田利家という名の男が織田方にいるのを知っていた。つまりここは織田方、潔く首を差し出したのである。武田に仕返しをしたかったが状況はどうしようもない。ジタバタしないのはさすがだ。
「なぜ海から?」
小早川は今までの経緯を話した。伊勢に兵を運ぶ途中、武田と思われる船に沈められたと。
「ここまで泳いで来られたのか?」
「わしは海の男でござる。このくらいは朝飯前でござる」
前田利家はずぶ濡れの状態なのに堂々としている小早川を見て、武士とはこうあるべきと改めて思った。それに比べて自分は………、ええい、迷うな!前田利家は小早川の前に膝まづいた。
「小早川様、よくぞご無事で。わけあってこの前田利家、木下秀吉に仕える事になりました。ここ本願寺はすでに毛利の拠点にございます」
小早川は目を見開いて、
「そうでござったか。戦況を」
「はっ!」
前田利家は状況を説明した。利家の兵は元々の配下に加えて荒木村重の兵を貰い受けている。小早川は話を聞きながらまだわしは戦える、戦えるのだ、拾った命。生まれ変わったつもりで戦うぞ、と気合いを入れている。
「わしは黒田官兵衛のところへ行く。兵を千名貸してくれ。お主はここを守ってくれ。佐久間の兵には顔見知りもいるであろう」
お前は戦いにくいだろうから俺が行くと言ってくれている、そう感じた利家は胸が熱くなった。
「お心遣い痛み入ります。ですが、そのような弱い心は持ってはおりませぬ」
「お主は良くても兵はどうだ?荒木の兵もお主の兵も元は織田の兵。戦う敵はついさっきまで味方だった者たちだ。敵対した以上覚悟を見せるのは必要だが、無理する事はない。わしに任せてくれ」
「承知仕りました。ですが小早川様はお疲れでしょう。今日は休んでください。明日までに準備いたします」
前田利家はすっかり小早川に惚れてしまった。そしてそれを知ってか知らずか、摂津は小早川の領地となりそこに前田利家が正式に配置される事になる。




