丹羽長秀
「そうか。よくやってくれた。錠を放置していたら死んでいたかも知れん。錠へは余から言っておくから気にすることはない。それで紫乃は?」
桃は命令違反をして錠を助けたのです。その事を咎められると思っていたのですが逆に勝頼に感謝されホッとしています。気をとりなおして話し始めました。
「もう1人、足利義昭がどうやって死んだのかを紫乃と黄与が調査していました。そこにも甲賀の忍びが現れたそうです。2対1にもかかわらず追い返すのが精一杯だったそうです。物凄く素早い敵で地面の上を滑っているように動いたそうです」
「そうか。黄世はどうした?」
「リーダーと紫乃の看病をしています。お屋形様の護衛は私が勤めます」
「わかった。よろしく頼む。しかし銃が敵に渡った事は聞いていたが使いこなしているとはな。しかも甲斐紫電まで。あれの操縦は難しいのであろう?」
「はい。私達はかなり厳しい訓練をして身につけました。あれが敵に使われるなんて、考えもしませんでした」
甲賀の忍びを使ったのは秀吉だろう。つまり、織田信長と足利義昭、邪魔な2人を一気に倒した事になる。
「喜兵衛、どう思う?」
「秀吉が毛利を掌握する日が近いかと。それと今度秀吉と戦になる時には、敵も銃や甲斐紫電を使用してくるでしょう」
それを聞いた桃が、
「殿。流石にそれは………、簡単に真似出来るものでは」
桃はゼットの生みの親である武藤喜兵衛の事を殿と呼んでいます。陰では鬼教官と呼んでいますが。
「貴様らが使えるのだから敵も使える。我らに作れれば敵にも作れる。真似は難しいことではない。難しいのは新しい物を作り出すことだ。徳様や半兵衛殿のようにな。なーに、どうって事はない。こちらが上を行けばいいのだ。戦艦駿河マークIIがいい例だ」
勝頼はその話を聞きながらお市の顔を見た。銃の話を聞いた時に震えていたのだ。敵に渡った銃は二丁。一つはさっき話の出た盛信が次郎衛門から奪い取った物。もう一つはお市が盛信を撃った時に落とした物だ。そうなのです。もしかしたらお市が大崩から盗んだ銃が巡り巡って信長を殺したのかもしれないのです。お市があんな無謀な行動に出なければ。兄が死んだのが私のせい?
「お市、案ずるな。大丈夫だ」
「お屋形様………、ありがとうございます。その一言で救われます」
根拠はない。ないのだから悩んでも仕方がない。
「喜兵衛。お前の言う通りだ。桃よ、ゼットの面々にはもっと活躍してもらう事になる。覚悟しておけよ。喜兵衛、乙、丙、丁チームはどうしている?」
「はい、乙チームは周囲の警戒をしております。丁チームは我が兵に紛れています。丙チームは訓練中です」
訓練?なんの?聞こうと思っていたらお迎えが来た。正面に百名程の兵と1人の将が立っている。それを見た佐々成政が、
「武田様。あれは丹羽長秀様でございます。織田家の宿老です」
「佐々殿。信忠殿へは我らが向かう事を伝えてある。出迎えだとは思うが」
その時ゼット乙チームの良平が現れ、喜兵衛に耳打ちをしてまた山へ入っていった。
「お屋形様。丹羽殿は武装をしておられるとの事。用心された方が」
「そうだな。乙チームに何か動きがあったらすぐに動くように指示をしておいてくれ。信忠殿へは敵意がない事を連絡したが、この戦国時代。信じなくて当然」
佐々成政は先日のバーベキューで武田家の雰囲気が気に入っています。お市の言う通り、勝頼公は織田家を悪いようにはしないでしょう。ですが、織田家はかっての家臣である木下秀吉と戦になったり、裏切った荒木村重に当主が殺されたりで不信感が先行しているのです。上手い事を言って近づいてきた武田勝頼を信用できる状態では無いのです。
勝頼は武藤喜兵衛と佐々成政を先行させ、敵意がない事を伝えさせる事にしました。今回の目的は岐阜城で織田信忠に会い、味方にする事です。弱体化した織田を滅ぼす事は出来ますが、広がりすぎた領地を治めるのも大変になります。本多忠勝が旧徳川の家臣をまとめてくれたように上手くいくとは限らないのです。
「丹羽様。お久しぶりでございます。こちらは武田勝頼公の家臣で武藤喜兵衛殿でござる」
「武藤喜兵衛と申します。お見知り置きを」
「丹羽長秀である。成政、なんで武田と一緒におるのだ?権六は死に利家は裏切ったそうではないか?お主は武田に寝返ったのか!」
いきなり怒鳴る丹羽長秀。成政は驚いた。丹羽長秀はどちらかと言うと冷静な人だ。感情的に怒鳴るようなお人ではない。
「話せば長くなりますが、簡単に言うと裏切り者の利家と戦い本願寺を奪われました。海へ逃げた時に武田様の船に助けていただきました。そこでお市様に会い、武田様が織田家に敵意がない事をこの身で確認してまいりました。織田家存続には武田様の助けが必要と考えます」
「織田家存続に他家の力は借りん。必要ない」
「丹羽殿。お話はよくわかりました。我がお屋形様は信忠公と話がしたいと使者を立てるのではなく自らがここまでやってきているのです。その誠意を汲み取っていただきたい。会談の場を設けてはいただけませんか?」
「武藤殿。先程成政がお市様が武田にいると話していたが誠か?」
「お市様はお屋形様へ嫁がれました」
長秀の目が大きく見開かれます。
「なんと、その様な事は許されるはずはない!」
「亡き信長公のお許しは得ております。お屋形様から見れば信忠公は甥にあたります。信長公はお屋形様を信頼されておりました。今まで武田が尾張を攻めなかったのも信長公との約束を守っていたからです」
「だが、武田は尾張を力で奪い取ったではないか?」
「信長公個人とのお約束でしたので。お約束した相手がお亡くなりになればそれまでの事。さて、武田は秀吉を敵と考えております。会談の場を設けてはいただけませんか?」




