つかの間の
こうして佐々成政は助けられた。気を失っていたが、合流した吾郎が成政の顔を知っていてお市のところへ連れてきたのだった。
そしてお市、徳、竹中半兵衛、そして同行を許された佐々成政は海路を進み尾張へ入った。清洲城には武田勝頼、信豊、そして武藤喜兵衛、本多忠勝も来ていました。
「お屋形様。いっちゃん連れて来たよ」
「おうよ、でかしたぞ徳。お市、久しぶりだな、あとでゆっくり話そう。夢の事でわかったことがある」
「お許しいただけるのでしょうか?」
「当たり前だろう。ところでそこの人はどなたかな?」
後ろに控えていた男が前に出て、
「佐々成政でござる。織田信長様に仕えておりました」
「そうか。武田勝頼である。よくぞ参った。これから信忠殿に会いにいくが付いてくるか?」
「助けていただいたご恩、この成政決して忘れませぬ。ですが、武田様は何をしに信忠様にお会いなさるのか?返答によっては敵となりましょうぞ」
それを聞いたお市が、成政の態度が気に入らず
「成政殿。お屋形様に無礼であろう。お屋形様は寛大なお方、決して織田家にとって悪いようにはされないはずです」
「お市、とりあえず下がっておれ。悪いようにするつもりはないが、信忠殿次第ともいえよう。佐々殿、お主の敵は誰だ?」
お市はまたやってしまったと思いながら下がっていきました。気の強いところが出てしまうのです。さすが信長の妹というところですが、自分でもでしゃばりすぎだとわかっています。勝手に家を出て秀吉暗殺に何年もかけたりただの姫ではありません。ですが、徳を見ていて反省すべきところが多いとわかりました。徳はなんだかんだで無茶苦茶やりながらも勝頼を助けています。お市はというと迷惑をかけてばかり。徳と一緒に下がりながら、
「徳さん。これから私はお屋形様のために生きます。よろしくお願いします」
「はいな!」
徳はピースサインをして笑ったあと、お市の腕を組んで歩き出しました。
佐々成政は、敵が誰かと聞かれて即座に答えました。
「木下秀吉」
「余と同じだな。余も秀吉をなんとかしたいと思っている。あの男がいる限り天下統一はできん」
「武田様は天下をお望みで?」
「違う。戦国の世を終わらせたいだけだ。私欲ではない。ただ、誰かが導かねば民は平和に生活をする事は出来ない」
成政は少し考えてから、
「信長様も同じような事を申していました。ですが、いつの頃からか敵を打ち砕くのが目的になってしまったようで」
「佐々殿はそう感じられたのか?人の気持ちはわからんが、足利義昭を立てようとして失敗したのが影響したのかもしれんな。そうそう、荒木殿はなぜ裏切ったと思う?」
「………、わかりませぬ」
勝頼は少し考えてから、
「人の心。誰にもわからんが、余は家臣は大事にしたいと思っておる。恐怖、威圧だけではな。そうだ、喜兵衛。佐々殿にあれを召し上がっていただけ」
「用意できておりまする。中庭の方へ移動をお願いいたします」
信豊が叫んだ。
「え、俺も食べていいよね、ね、いいよね?」
勝頼が信豊をお前なーという顔で睨むと、
「尾張を取った功績、お屋形様はいかがお考えか?」
と急に真面目な顔で話すのでつい吹き出してしまった。褒美それでいいの?
半兵衛が徳とお市を呼びにいっている間に皆は中庭に移動した。そこには鉄板がすでに熱い状態で、上に食材が置かれるのを待ちくたびれているようだった。
「これは、なんでござる?」
「佐々殿。これは武田名物バーベキューという。信忠殿にも召し上がっていただこうと思っている」
ソーセージ、魚介類、新鮮な野菜が用意されて、武藤喜兵衛が鍋じゃない、鉄板奉行として大活躍です。
「これは武田名物ソーセージというもの。こうやって熱いうちにかぶりつくのだ」
勝頼がアッチッチと言いながら汗をかきながら美味しそうに食べているのを見て、成政も手を伸ばす。
「これは、不思議な。おっ、う、うまい!」
向こう側では信豊と徳が肉の取り合いをしている。
「徳様、この肉が欲しければまた新しい武器と交換でいかが?」
「信豊殿。そちらには喜兵衛殿がおられるでしょう。こっそり何か作っていると聞きましたよ」
「それがあの男、わしの与力のくせにわしには武器をよこさんのです。殿に渡すと何するかわからんとかふざけた事を申すのです」
「いい部下をお持ちで。私はこっちのお肉をいただきますのでそちらは勝手にどうぞ」
「いやはや冷たい。そう言わずにこちらの肉を召し上がってくだされ」
「それではそれがしがいただきます」
ぬっと現れたのは本多忠勝でした。
『突然来るな!怖いぞ!』
『突然来るな!怖いよー!』
信豊と徳の声がハモって中庭に響いています。お市はそれを見て腹を抱えて笑っています。その時鉄板に置かれた伊勢海老が焼かれて丸まっていくときに尾っぽがピンと跳ねて油が徳の方へ飛びました。
「ふん!」
本多忠勝がその油を箸で弾きとばしました。それをわかった徳は忠勝にお礼を言います。
「忠勝殿、ありがとう」
「雑作もない事でござる」
あたりまえのように答えて肉にかぶりつく忠勝。上泉伊勢守との修行により腕を上げています。
佐々成政はそれを見て驚いています。あれは本多忠勝ではないか。武田にいたのか。しかしすごい腕だ、あの油を。それにこの和気あいあいとした雰囲気はなんだ。皆武田の重臣たちなのに殺伐とした感じがない。織田とは違いすぎる。それを感じた勝頼は、頃合いかな?と、
「佐々殿。余は秀吉と戦うのに信忠殿に味方してもらおうと思っている。協力してもらえないだろうか?」




