再会
突然目が覚めた。こ、ここはどこだ?家の中のようだ。いい匂いがする。
「気が付かれましたか、成政殿。久しぶりですね」
成政は飛び起きた。聞いた事がある懐かしい声だった。
「ま、まさかに。わしは死んだのか?」
「よくぞご無事で。これも縁なのでしょうね」
「お、お市様。本物のお市様で?」
ここは瀬戸内海に浮かぶ小さな島。武田の秘密基地と言うと格好いいですがいわゆる忍びの拠点のただの漁村です。
「海で溺れて死にかけているところを偶然ここにいる徳さんが見つけてくれたのです」
成政はまだ頭が半分ぼーっとしています。わしは助かったのか?この女が助けてくれた?
「そうだ!あの黒い船は!つまり、ここは滝川様の!」
「違うよ、ねえ、いっちゃん。この人ボケてるの?」
「成政は多分知らないのですよ。確か権六の下にいましたよね?」
「はい。おやじ殿は秀吉に討たれたと利家に聞きました。なのに利家は秀吉の下に付いたと聞き、そうだ。それで海へ逃げたのだ。お市様、わしはおやじ殿の仇を!それにう、上……… 」
そうだ信長様も死んだのだ。それをお市様に………、
「兄も亡くなったそうですね。もう知っていますのでそんな顔をしなくてもいいですよ。成政、まずは助けていただいたお礼を徳さんに」
成政は慌てて、
「そうでござった。徳とやら、助けていただき感謝する」
「成政!」
お市が声を荒たげて叫んだ。成政はなぜ怒鳴られたかわかっていない。
「はい、なんでしょう?」
「無礼であろう。この徳さんはあの武田勝頼様の筆頭側室。正室の私よりも勝頼様にお近いお方なのですよ」
「いやだあ、いっちゃんたら、もう。成政殿、気にしなくていいですよ。あたいは所詮側室。正室なんかにゃまけにゃいにゃー♩」
徳が猫の真似をして言うとお市は吹き出した。成政は唖然としている。しばらくして、
「お市様。いま、武田勝頼様の奥方になられたと聞こえたのですが?」
「そうですよ。ご縁がありましてね、ただ今は家出中ですので妻と言っていいのかどうか」
「お屋形様は気にしてないって言ってたよ。なんかいっちゃんの夢の正体もわかったって言ってた。だから一緒に戻ろう。今は尾張にいるはずだよ」
尾張、武田勝頼が尾張にだと?尾張には柴田勝家、前田利家、そして佐々成政の領地がある。何がどうなってる?
勝頼が三雄との定例会の後、三河へ到着した時にはすでに武田信豊、真田昌輝、武藤喜兵衛は尾張に侵入してほとんどもぬけの殻だった尾張を制圧していました。信長が死んだと聞いた瞬間に武藤喜兵衛は動いたのです。尾張を攻めないと言う約束は信長としたものだ。信長が死んだ瞬間に効力は無くなっている。
それとは別に五郎盛信に戦艦富士を盗まれた武田海軍は、新型改造艦の戦艦駿河マークII、駆逐艦櫻、楓、欅を使って戦艦富士の行方を追っていた。勝頼からは織田とは戦うな、毛利なら一応様子見だけど、状況によってはやっちまえ、と指示を受けていました。
徳は北条との戦の後、海津城から高天神城に戻り、竹中半兵衛を連れてすぐに海軍と合流しています。徳の勘が何かが起きると言っています。勝頼に許しをもらってダッシュで行動していました。いつもの親衛隊も同行しています。合流して西へ向かった武田海軍は遠くの方に船団を見つけました。徳は、教科書知識を使って双眼鏡を作っていたのです。
「いい、マストの上に立って、これで遠くを、そう水平線を探すのよ。そうすればこっちだけ敵を見つけることができるから」
「そういうものなのですか?」
海軍兵が徳に聞くと、
「あなた赤棒ね。もっと勉強しないとね。いい、地球は丸いのよ。だから上から見た方が遠くまで見えるの。それにこの双眼鏡が加わればレーダーみたいなものよ」
レーダーって何?言われた海軍兵はわかりませんでしたが、でも聞くとまた怒られそうなので黙って見張りにつきます。しばらくしてその海軍兵が船団を見つけたため、付かず離れず尾行?を始めます。見つけた海軍兵は徳に褒められてウキウキしています。
「行ったり来たり、何かを運んでいるようね。半兵衛殿。伊勢って何があったっけ?」
「今は織田方の滝川一益が治めているところですが、吾郎殿の報告だと秀吉と信長の戦が始まったそうです」
「へえ、長引きそうなの?」
「それ以降の情報が無く、なんせ船の上ですので」
「吾郎殿には手旗信号を教えてある。楓の乗組員にも教えてあるから楓を連絡係に使って!大まかにはわかるっしょ」
「なんにせよ、あの船は敵には間違いありません。それに黒い大きな船というのはおそらく戦艦富士でしょう。盛信が乗っているかもしれません」
「そうね、盛信殿ならちょっとお仕置きしないとね。あいつらを叩くとしたら?」
「当然、大阪湾でしょうな。因縁の。大阪湾に追い込みましょう」
瀬戸内海から大阪湾の南を航行していた小早川隆景率いる毛利船団は、兵を満載して伊勢に向かっていました。津を拠点に伊勢を攻略する作戦です。ぼちぼち信長が死んだ事が伝わっているころです。周囲の豪族も信長がいなければ味方になる事でしょう。この輸送を最後にして、あとは調略を活用して滝川一益を追い詰めることにしました。小早川隆景も伊勢に残る予定でした。小早川は余裕綽々でしたが、突然見張りが叫び声を上げます。
「ふ、船が来ます!」




