命 散って
「上様ー!」
側にいた森蘭丸が織田信長を抱きかかえると頭から血を流していて息をしていない。
「一体何が?」
動揺する信長本陣。蘭丸は後悔した。荒木を見ていて誰が信長を殺したのか見ていなかったのだ。そこに荒木村重の旗本達がなだれ込み、本陣は崩壊した。蘭丸も荒木の旗本と相討ちになる。荒木村重は槍で胸を刺され虫の息だったが、
「の、のぶながが、し、しん」
そこまで喋ると息を引き取った。死に顔は笑顔だった。満足そうな顔のまま死んでいった。そして、信長の背後には謎の骨組みが放置されている。
前田利家は毛利の本陣を目指していた。敵兵の薄い側面からの攻撃は上手くいき、敵を薙ぎ倒しつつ本陣へ近づいていく。ところが部下がバッタバッタと斬られていく。
「何奴?」
「槍の又左殿か。それがしは細川藤孝と申すもの。多少だが剣の心得がある。すまんがここを通すわけにはいかん」
「ほう。誰も手を出すな!ここは一騎打ちといこうではないか」
前田利家と細川藤孝の一騎打ちが始まった。ここは毛利本陣の東側、毛利の兵が集まってきて急襲には失敗したかのように見えた。ところが、利家は西側にも兵を走らせていた。東側に毛利陣の意識が集中する中、西側の兵五百が毛利本陣に突っ込む。慌てて兵が応戦し、前田兵を撃退する。そのゴタゴタの中、
「うっ、な、、なにが」
足利義昭が誰かに斬られた。斬った者は戦場に紛れて消えていった。
中央では佐久間信盛が奮戦中だ。荒木は逃してしまったが本陣にはまだ兵が沢山いる。荒木を追うより前の敵だ、秀吉本陣へと気持ちは前に向いている。だが、毛利も強く簡単には崩れない。と、そこに伝令が、
「信長様、お討ち死に」
「……… 、何かの間違いであろう」
「確かな話にございまする」
「……… 、 敵に知られてはまずい。おい、ここは任せる。わしは本陣へいく」
佐久間が本陣へ向かうと数人の荒木兵が叫んでいる。手に持っているのは信長の首だ。
「荒木村重様が織田信長を討ち取ったり!荒木村重様が織田信長を討ち取ったり!」
繰り返し大声で叫びながら戦陣を歩いている。それを見た織田兵は首を取り返すどころか笑っている。
「おい、貴様等。何をしている。上様の首を取り返すのだ」
「ああ、佐久間様。あの信長様が、織田信長が死んだんです。私の父は信長様に叱責を受けて殺されました。これが笑わずにいられましょうか」
佐久間は衝撃を受けました。兵にこんな風に死後笑われるなんて。それを見た佐久間は自分も気が楽になった事に気がつきます。そうしている間にも信長が死んだ事は戦場に広まっていきました。佐久間は慌てて信長の首を奪還しましたが、その死は瞬く間に広がっていきました。
信長の死を聞いた明智十兵衛は兵を引き、近江へ戻っていきました。戦場放棄です。放置されていた大筒はちゃっかり回収しています。蒲生氏郷は悩んだ末に明智十兵衛についていきました。ここにいても総崩れになるだけです。戦場に残された佐久間信盛は再び毛利隊との戦いに戻りましたが、信長の死が広まるにつれて兵の士気が下がり、ジリ貧になっていきます。徐々に下がりなんとか河内の自領へと逃れる事が出来ました。
前田利家は、細川藤孝と戦っていましたが、足利義昭が死んだと聞いた細川が一時休戦を申し出たため、敵地で休んでいます。ここまできてはどうせ生きては帰れません、周りは敵兵だらけなのです。そのうちの信長が討たれたという噂が利家の耳にも入ります。慌てて自陣方向を見ると、あれだけ激しく行われていた戦闘が嘘のように静かになっていました。
「ま、まさか。上様が!明智様は、佐久間様はどうした?」
信長を討ったのは荒木村重の旗本で荒木も死んだそうです。本当は違いますが世の中にはそう伝わっていきました。
五月山の上では木下秀吉と黒田官兵衛が戦の行方を高みの見物です。
「終わったな。上手くいったようだ」
「山を下りながら話そう。官兵衛、信長も義昭も死んだか?」
「そのようだ。ここまで上手くいくとは、お主の知り合いは大した者だ」
秀吉の知り合い、そうです。甲賀に大金を払って手に入れた双子の忍者、飛龍と地龍。その名の通り、飛龍は空中殺法が得意で、バランス感覚に優れています。地龍は素早い動きが得意で地面を滑るように動きます。
「あの2人はこれからも活躍してもらう。褒美は酒と女でよかろう。さて、これからだがわしは輝元に報告に行かねばならん。信長を討ったのと、義昭が戦場で討たれた事をな。明智と佐久間はどうなった?」
「下りねばわからんが、一気に引き上げていったのが明智だろう。義昭に頼んだ調略がうまくいったのか?」
「それはあるまい。明智十兵衛、昔から何を考えているかわからんがわしに味方するとは思えん。あれはあれで天下を狙っている」
「だとすると、織田家を乗っ取るかもしれんな。信長の子供は大した事がない。いいようにされてしまうのではないか?」
「信長のいない織田家には興味はない。それよりも堺だ。わしがいない間に畿内をわしのものにしておいてくれ」
「わかった。おい、報告が来たぞ」
山を下りている秀吉の元に使者が現れ、戦の詳細を知らせました。
「そうか、利家が細川のところに来ているのだな。これは安芸に行く前に話をせねばだな」




