決戦準備
高槻城にいる前田利家に急使が現れます。
「申し上げます。柴田勝家様、木下秀吉と交戦中にて至急援軍をよこされたいとの事でございます」
「まさか。本願寺へ向かったのではなかったのか?」
慌てて兵を連れて勝家を追いかけます。念のため周囲の城を囲んでいる兵も高槻城へ戻るように指示をして。
「間に合ってくれ」
そう思いながら駆けつけましたが、戦場に勝鬨の声が響いています
「柴田勝家の首、討ち取ったり。えい、えい、おー!」
『えい、えい、おー!』
まさかに、遅かったのかと、利家は引き上げました。だから言ったのに、秀吉は甘くないのです。しかし、成政は何をやっているのだ?利家は出てこない成政への怒りがこみ上げていきます。
翌日、佐久間信盛、明智十兵衛が兵3万を連れて摂津に入りました。
「柴田様は?」
前田利家は首を横に振ります。そして、
「出陣し戦死されました。相手は秀吉」
皆絶句です。そしてその報告は織田信長の耳に入ります。信長は早馬を飛ばして護衛の蒲生氏郷とともに摂津に入りました。
「犬千代、何があったのだ?」
信長は利家に問いかけます。ありのままを伝えると、しばらく唸った後、
「本願寺にいる成政は敵へ寝返った者とする。当てにはできんし万が一もある。放って置くように。毛利本隊が出てくる前に荒木と猿を叩く。急げよ」
猿め、やりおる。だがここまでだ。
池田城では、
「やったぞ、勝家の首を取った。この野郎には散々いじめられた。仕返しというのは楽しいものだ。なあ、荒木殿」
「お主は柴田殿とはウマが合わなかった。というよりお主は自分より上にいる者全てが嫌いなのではないか?」
秀吉は荒木の冷静な返しにムッとしつつ、
「これで信長が出てくる。ついにこの時が来た。勝家は死に、丹羽も滝川もいない。この機を逃すわけにはいかん。官兵衛!」
「ここにおる」
「手筈は?」
「整えた。だが信用できるのか?」
「旧知の仲じゃ。それにダメならダメで次の手を打てばよい」
荒木は話を聞いていて、
「なんの話だ?ここにいるのは約一万五千、敵は三万と聞く。何か策があるのか?」
秀吉は笑いながら、
「毛利本隊四万が来れば信長も仕掛けてはこれまい。だが、それでは面白くない。折角信長が出てきたのだ。ここで倒してしまいたい。そうであろう荒木殿?」
「いかにも。だがその策はあるのかと聞いておる」
「任せていただこう。失敗しても大した痛手にはならんよ」
ところが、毛利本体は小早川隆景を残して引き上げていきました。信長と同盟を結んでいる大友宗麟が西側から仕掛けてきたのです。昔、北条が武田を使って小田原城を包囲する上杉軍を撤退させたのと同じ作戦です。毛利は九州の大友宗麟とも争っていてそっちも手が抜けません。
その情報は織田、秀吉両陣営に届きます。
「大友め、言うことを聞いてくれたか。便利なやつよ。これで兵は互角、十兵衛、どう攻める?」
「野戦になりまする。すでに前田殿の指揮で周辺の城は落ちております。側面や背後に気を配る必要はありません。正面からぶつかるしかないかと」
「甘いぞ十兵衛。敵は荒木と猿だ。あいつらが知らない物を用意せねば勝てまい」
信長はまともに戦っては不利だと思っています。現にあの柴田勝家が簡単に討ち取られてしまいました。猿に乗せられたのでしょうが、それだけ織田軍の事を知り尽くしているということです。
「忠三郎、あれを用意しろ!」
信長は娘婿でもある蒲生氏郷に命令しました。氏郷は部屋を出て準備に赴きます。
「上様、あれとはなんでございますか?」
「まあみておれ、戦の指示は忠三郎に任せる。貴様らは忠三郎の指示に従え、良いな」
明智十兵衛、佐久間信盛、前田利家はきょとんとしています。指揮を蒲生に任せる?俺たちがいるのに?
小早川隆景が合流、と思いきや本人がいません。寄木の宇喜多直家とまさかの足利義昭が現れました。荒木は驚いて、
「公方様にお会いできて恐悦至極にございます」
「荒木殿、信長を見限ったそなたと余は同じ穴の狢じゃ。仲良くしようではないか?」
「ありがたきお言葉にございます」
何しに来やがった、こいつが来ることは考えていなかった。邪魔なだけだがどう利用するか?
「公方様。木下秀吉にござりまする。ご無沙汰いたしております」
「おお、木下殿。久しいの」
足利義昭の後ろには細川藤孝が控えている。そうだ、そういえば、
「公方様、それに細川殿。敵陣にはあの明智十兵衛がきているそうでございます。お二方とは親しい間柄と聞きました」
「十兵衛には一時期世話になった。だが、あいつは余を捨てて信長に味方しおる。けしからんやつだ」
細川藤孝は黙っている。
「お願いが御座いまする。聞いていただければこの間の公方様の願い、叶えて差し上げまする」
「おう、さすが木下殿は頼りになる。で、願いとはなんだ?」
「明智十兵衛に寝返るよう説得をお願いいたします」
「……… 、十兵衛にこちらに下れと」
「左様でございます。明智殿はそれはもう信長から何かある度に虐待されておりました。機嫌が悪い時の信長は手がつけられません。きっと、信長の下にいる事を後悔していると思われます。明智殿をお救いできるのは公方様だけでございます」
「それをすれば余の願いも聞いてくれるのだな?」
「いかにも。武士に二言はござらん!」
細川藤孝は冷や汗が出てきています。十兵衛の説得はともかく、公方様のお願いって、ま、さ、か!




