右近と左近
「おお、彦五郎ではないか!よくぞ参った。荒木殿はやはり」
「謀反でございます。それがしが未熟ゆえ、説得できませんでした。あれに見えるは島左近、つまりは筒井様もでございますか?」
「そのようだ。これは猿だな。あの男が動いているぞ」
猿?木下様か?松永様はなぜそのような?そう思った右近(幼名 彦五郎)だったが、攻めてくる敵の応対ですぐに考える余裕はなくなるります。善戦していた松永、高山隊でしたが、島左近勢が突然下がったとので、おや?と思えば背後から荒木勢の弓矢が飛んできます。左近が合図を出しているのか、見事な連携です。そんな事が続きジリジリと消耗していきます。
「これはいかん。彦五郎よ、お主、ひとっ走り行って佐々殿を連れて参れ。このままではお主まであの世行きぞ」
「しかし松永様、それでは」
「わしはただでは死なん。行くがよい」
高山右近は、松永の覚悟を感じました。ごめん! と一言言い残し島左近隊の隙をついて駆け抜けます。虚を突かれた左近隊は右近を取り逃がしてしまいました。
「あれは高山右近。やるものよ。だがこれで松永は終わりだな」
島左近は右近を褒めながらも合図をすると後方の荒木勢から兵が押し寄せてきました。完全な挟み撃ちです。
「殿、ここはそれがしが。お逃げくださいませ」
「どこへ逃げろというのだ。もはやここまで。楽しい人生であった。敵兵を引きつけよ、最後に大花火をあげてくれよう」
松永弾正久秀、槍を持ち大声をあげます。
「我の名は松永弾正久秀であーる。手柄を上げたい者共よ、ほれ、ここにわしの首があるぞ。取ってみい!」
敵兵が一斉に松永に近づきます。
「今だ!」
部下が火薬の入った木箱に火をつけました。
『どっかーーーーーん!』
物凄い音がして右近が振り返ると松永弾正がいた辺りから黒煙が上がっています。
「松永様、お見事な最後でございました。仇は必ず………」
右近は本願寺へ逃げ込みました。それを佐々成政が出迎えます。
「よくぞ参った」
「佐々様。なぜに出陣されないのですか?松永様がお亡くなりに………」
右近は佐々成政に絡みます。それを気にせず、
「荒木様が寝返ったのは誠なのか?」
「見ての通りでございます。筒井順慶様も織田家に反旗を」
「摂津は荒木殿の領地、出陣してこの本願寺まで奪われれば畿内は敵の物になってしまう。ここは死守せねばならん」
「松永様を見殺しになさった理由はそれですか?」
「無礼者!ここには工事人夫はおるが、兵は少ない。籠城が得策」
右近と成政が言い争っておる頃、爆死した松永の死体のところに荒木村重と島左近が立っています。
「島殿、よくぞ参った。機を逃さぬところ、見事である」
「松永弾正は主人にとって目の上のコブでござった。これで大和は筒井がいただく」
「それでいい。松永の残存勢力は多い、落ち着いたら順慶殿とお会いしたいものよ」
「ありがたきお言葉、戻って主人に伝えまする。では、ごめん」
島左近は戻っていきました。大和制圧には松永の残存勢力と戦わねばなりません。当主を失ったとはいえ手強い相手です。荒木の方はじっと本願寺を遠目に見ています。
「出てこないのか。佐々殿らしくもない」
と呟きながら池田城へ戻りました。
結局この戦はなんだったのでしょう?荒木は本願寺を占拠するのかと思えば松永弾正を仕留めただけで引き上げています。佐々成政には荒木が何がしたかったのかがわかりません。摂津に徐々に毛利軍が集まって来ていますが仕掛けては来ません。佐々成政は生きた心地がしませんでしたが、河内の領主、佐久間信盛が先行で戻ってきて本願寺へ補給してくれたのでホッとしていました。ところが、
「佐々殿。上様はお怒りでござる。なぜすぐに出陣して荒木の首を取らなんだと暴れておられました」
と、佐久間に言われ頭から血の気が引いていきます。
「佐久間様、それがしはこの本願寺を守らねばと考えて」
「弁明なら上様にされたし」
それだけ行って佐久間は戻っていきました。高山右近も佐久間と一緒に出ていきます。佐々は慌てて柴田勝家に手紙を書き始めました。こうなっては頼みは勝家です。
その勝家は信長と一緒に二条御所にいました。続々と兵が集まって来ています。
「先行した佐久間の報告だと、荒木の裏切りは誠のようだ。猿めが摂津に来ておると」
「上様。それがしに猿退治をご命じくださいませ。今度こそ息の根を止めてやります」
「権六、焦るな。どうも気に食わん。荒木の裏切りもだが、猿の動きもだ。十兵衛を呼べ!」
しばらくして明智十兵衛が現れました。
「上様、十兵衛参りました」
「荒木はなぜ裏切った?」
十兵衛はまたお叱りを受けるのかと嫌になっています。ですが、話すならここしかないと覚悟を決めます。
「申し上げます。荒木殿は織田家の金を着服しており、それが発覚する前に……… 」
「そんな事は聞いていない。なぜ余を裏切ったかと聞いておるのだ!」
信長の大声に十兵衛は萎縮しながら『あなたがそんなだからですよ』と思うものの言葉には出来ず、
「わかりませぬ」
「この役立たずが!荒木を征伐する。出陣じゃ」




