川中島決着
大道寺政繁はなんとか本陣までたどり着きました。そこでは何が起きたのか把握できていない北条氏邦が怒りまくっていました。
「大道寺殿、何があったのだ?煙が晴れて見れば我らが兵の死体が転がっているだけで城はそのままだ。火を放ったのではないのか?」
「それがしが火を放ちました。門をくぐるとそこには仕掛けが施してあり木で作られた柵のような物で通路ができていました。怯んでいてもと兵を通路を進ませましたが罠のようで兵は皆殺されたようでした。そこでその柵に火を放ったところ、黒い煙が湧き上がり我らを包んだのでござる」
「その煙なら城の外まで出てきおった。お陰でここからは何も見えん」
「その煙にも何か仕掛けがあったようで、吸い込んだ者は皆苦しくなり動けなくなってしまいました。それがしはなんとか門から這い出ましたがそれが精一杯でござった」
「天下の大道寺ともあろう者が逃げるのに精一杯だったと申すか?」
「何を言うか!ここで踏ん反り返っている者に言われたくはない」
「なんだと!」
大道寺家は元は北条早雲とその仲間達の1人の血筋です。氏邦が当主でない以上、遠慮しません。2人が言い争いを始めたところに伝令が慌てて割り込みます。
「申し上げます」
「うるさい!」
最初の戦いで怪我をしていたため本陣にいた用土重連は、伝令の慌てようを見てこれは不味いと
「申してみよ」
と助け舟を出しました。氏邦は用土を睨みましたが伝令の話を聞いて飛び上がります。
「妻女山より武田の兵がこちらに向かっております、その数およそ千名」
「なんだと!すぐに迎え撃て。鉄砲隊を前に出せ!」
そのタイミングで、海津城からも兵が現れました。馬場美濃守信春の部隊です。北条は混乱したとはいえ本陣は無事でした。兵も三千ほど残っています。兵の数だけならいい勝負なのですが正面と側面から挟まれた格好になっています。
それを見た用土は、
「これはいかん。殿、ここは退却を」
「どこへ帰れと言うのだ。遺言状を手に入れなければならんのだ」
氏邦は断固として譲りません。それを見ていた大道寺は、
「用土殿の兵もそれがしの兵も残り少ないですが、いくばくかの兵をお貸し頂ければ氏邦殿を逃がすくらいはできましょう。殿を務めますので引いてくだされ!」
「大道寺殿。引くわけにはいかんのだ」
「ここで氏邦殿を死なせては亡くなった氏康様に顔向けできません。それがしは息子達を頼む、という遺言を遂行せねばならないのです。さあ、今ならまだ逃げれます。なんとか厩橋までたどり着いてくだされ。用土殿、参るぞ!」
「大道寺様、わかり申した。名誉挽回の機会を与えてくださり恐悦至極。火傷など気にせず最後まで戦い抜きましょうぞ!」
用土重連は、最初の戦いでゼットと徳の攻撃で何も出来ずに終わってしまいました。大道寺も今回何もできていません。武将としてこのままでは帰れないのです。その意地は見事な戦いとなり武田軍相手に相当の時間を持ちこたえました。氏邦をこの場から逃がすために。
「真田。氏邦はどうなった?」
「うまく逃げたようです。お屋形様から氏邦を逃がすようにと言われた時には真面目に困りました」
「すまん。なんとなくなんだが逃した方がいい結果になる気がするんだ。しかし馬場、真田の挟撃から逃げるとはなかなかやるな」
「逃げれるように包囲しなかったというのもありますが、敵将に優れた者がおったようで」
そこに息をゼーゼーさせて馬場が戻ってきました。
「馬場美濃、ただ今帰着」
「馬場、大儀であった。で、どうなった?」
「それがしの隊は大道寺政繁、用土重連の隊と正面からぶつかりました。敵ながら実に見事な戦いでした。敵が消耗していなかったら勝負はどうなったかわかりません。真田隊の挟撃が効いて敵兵はほぼ全滅、敵将は捕らえました。我が軍の死傷者は少数です」
「良くやった。敵将をできたら捕らえよと言ったものの難しいと思っておった。さすがは鬼美濃である。少し休め、敵将には余が直々に会おう」
馬場、真田隊は八幡原の北条軍を撃退、氏邦は旗本含む500人ほどを連れてなんとか退却しました。わざと逃げれるようにしたとはいえ、大道寺と用土が上手く対応したそうです。氏邦の帰路には真田信綱の領地である上田を通ります。真田はまだやりたらないようで、そこでも何か仕掛けるようです。氏邦だけは殺さないように!
「余が武田勝頼だ。お二方とは初めてだな?」
「大道寺政繁でござる。このような無様な形で会いたくはなかった。生恥を晒し、自害しなかったのは一目武田勝頼を見たかったからだ。氏康様が言っておった通りのようだ。相手が悪かった」
「大道寺殿。見事な戦いぶりであった。大道寺家の名に恥じぬ立派な振る舞い、この勝頼、心より感心しておる。で、そちらが用土殿だな?」
「沼田城代を務めまする用土重連と申します。なぜ殺さずに生け捕りになされたのかを考えております」
「いい発想だ。北条は武田に喧嘩を売った。余は北条を攻める気はなかった。今回も城を攻められた返しただけだ。では売られた喧嘩をどうするかだが、さて?氏政殿は武田と本心から戦う気なのであろうか?お主達、どう思う?」
大道寺は不思議な事を言うと思い、改めて勝頼の顔を見ます。戦を仕掛けられてそんな呑気な事を言っていて太守が務まるのか?
勝頼は自信ありげに見えました。北条なんぞは敵ではないと思っているように見えます。
「氏政様の事は分からぬ。だが、氏康様が景虎を養子に出した意味は上杉との関係強化であり、欲を言えば乗っ取りだ。その時が来たから動いたと思っている。そこに武田が立ち塞がるなら戦うのみ」
「そうか。残念な事だ。そうだ、余はこれから春日山城へ向かうのだが、一緒に行かないか?」




