同じ兄弟でも
海津城はとっくに決着がついていました。
北条氏邦は霧が晴れたため、城攻めを開始しました。兵が大声をあげながら進みます。城に向かって鉄砲を打ち、矢を放ち、門に向かって大きな木の幹を兵が抱えて突っ込んでいきます。ところが門はビクともしません。それに北条方が仕掛けているのに城からはなんの反撃もありません。一方的に攻めかけているのですが、反応が無いのです。
「殿、敵は沈黙しております。誰もいないかのようです」
「そんなわけはあるまい。意地でも門をこじ開けろ。城へ侵入して勝頼の首を取るのだ。最悪でも遺言状は手に入れなければならぬ」
氏邦は火矢を使うように指示しましたが、兵が火を恐れていて断念せざるを得ませんでした。霧が晴れて兵達は無残にも焼け焦がれた仲間の死体の横を通って進軍したのです。火を怖がるのも当然ではありますが氏邦は面白くありません。ならば強行突破と兵をけしかけます。北条軍は兵をよじ登り城へ侵入しました。中から門の閂を外し、門を開放すると兵がぞろぞろと城へ入っていきます。兵が門をくぐるとその先に木の柵があり、迷路のような通路ができていました。いかにもここを進めと言っています。
「なんだこれは?」
道はそこしかありません。しかも後ろからは兵がどんどん入ってきており門の内側は兵で溢れかえっていきます。
「進めー!」
門の外側から掛け声が聞こえてきました。もうここを進むしかありません。
柵で作られた通路?は横幅が狭く人が2人通れるくらいの幅で途中で行ったり来たり、そうです。真田信綱は現代の巨大迷路を城の門から二の丸の間に作っていました。当然ただの迷路ではありません。
兵が進んでいくと横から槍で刺されたり、見えないところから矢が降ってきたりして兵はバタバタと倒れていきます。迷路になっているため先が見えず兵はどんどん後ろから迷路へと入っていきます。迷路の入り口方向は柵が高くなっていて迷路の内側が見えないのです。
どんどん犠牲が増えていきました。
「止まれ、待て、待つんだ」
流石におかしいと気づいた先鋒の大道寺政繁は、兵を止めました。先に進んだ兵が戦をしている雰囲気が感じられないのです。
「これはおかしい。この柵を焼き払え!」
ところが、誰も火をつけません。頭にきた大道寺は自らが火を起こし柵を燃やし始めます。そうするとそれを見た周りの兵も仕方なく火をつけ始めました。火はだんだんと大きくなり煙が出始めます。
城の外にいる北条氏邦は門の内側から上がる煙を見て、
「やっと火をつけたか。そのまま城を燃やしてしまえ、勝頼ごと一気に」
柵を燃やしたくらいで城は燃えませんが気持ちはわかります。
「真田様。敵が迷路の柵を燃やし始めました。煙が上がっています」
「やっとか。お前達がいじめすぎたせいで火が出ないところであったぞ」
真田信綱は笑いながら錠に話しかけます。
「随分と黒い煙が出ますがこれは仕掛けでございますか?」
火が出ないところ?つまり燃やされる想定ということか。
「ほう、喜兵衛が鍛えただけの事はありそうだな。そうだ。柵に細工がしてある。喜兵衛が送ってきた煙幕油というものだ。煙を吸うと咳き込み涙が出て動きが鈍くなる。視界も悪くなり、こっちから攻撃し放題。性格悪いだろう、あいつ」
「喜兵衛様は特殊部隊ゼットの生みの親でございます。確かに訓練は厳しくはありましたが、それがあって今の我らがおりますので。しかし、真田様にそのような物を送っていたとは初耳です」
「離れていても兄弟。真田本家を離れていても心は1つ。それより二の丸から面白い物が見れるぞ。その後だが徳様とお前達に出番がくるので頼む」
「ねえちゃ、じゃない徳様にお伝えいたします」
柵は燃え上がり倒れていきます。黒い煙がもうもうと上がっています。柵は倒れましたが煙のせいで視界が悪く前方は相変わらず見えません。煙はなぜか門の方へ、北条軍が攻めてくる方へ流れていきます。
「ゴホッゴホッ、ウガア、喉が、目が、ウガ」
「ゴホッゴホッ、 ブウォ」
門の内側にいる兵は武器を手放し喉を押さえています。
「ひ、引け!」
大道寺政繁は苦しみながら指示を出しますが声は届きません。外では北条氏邦が兵に門の中に突き進むよう指示しており煙の中にわざわざ突っ込んでいきます。
「撃っちゃいなさいな!」
徳の声とともに二の丸から大砲が発射されます。錠と桃はボウガンを使って石、矢を放ち、真田、馬場の兵も矢を放ちまくりです。
大道寺政繁は兵を掻き分けなんとか門の外に出ました。そこはまだ黒煙に包まれています。
北条氏邦はやっと異変に気付き物見を出しました。前方は煙に包まれて何が起きているのかわからないのです。
武田側は好き勝手に攻撃しています。
「あー、そこ止めて。風が強すぎて煙が分散してしまいます。もういいでしょう、皆さんお疲れ様でした」
ゆづが馬場の兵に指示をしました。彼らは何をしていたのでしょう。煙を北条軍の方へ流すには何が必要でしょう。そうです、風。二の丸の壁が横にスライドすると、そこに現れたのは巨大なプロペラのような物。武藤喜兵衛考案の足漕ぎタイプの扇風機が設置されていました。自転車を足で漕ぐと羽が回るという原始的な代物です。馬場の兵は縦に20人が並びひたすら漕いで漕いで風を起こしていたのです。設置は4台、兵が80人ひたすら漕ぎ続けもう足はパンパンでした。ゆづは煙の方向を見ながら風の強さをコントロールしていたのです。
煙が晴れた時、海津城は何もなかったかのように静かで、そこには北条兵の死体だけが転がっていました。




