またもや霧
勝頼が善光寺から海津城へ向かっている頃、景勝に仕える忍び、梟は勝頼を追いかけていました。途中、軒猿の配下の死体があり、辺りを検証しています。
「勝頼殿は善光寺へ、軒猿は逆の方向へ行ったか?なぜだ?」
梟は悩んだ結果、軒猿の跡を追うことにしました。山深く入っていくと忍びの死体がゴロゴロしている。その中には軒猿の死体もあった。
「これは一体?」
知った顔は2人、他の死体は敵方のようだが敵方とはどこのものなのか?武田かと思ったが違うようだ。軒猿は手負いだったのか?そんなに簡単に倒されるようなやつではない。
敵方の死体は5つあった。どうやら武田の忍びではなく風魔のようだ。だが、風魔がなぜ軒猿を?風魔は北条だと思っていいだろう。ならば軒猿は仲間ではないのか?よく調べると軒猿は敵の忍びの爆発に巻き込まれたようだ。どこかで聞いたような、そう、春日山城の曲者がやった手口だ。
「あれも風魔、つまりお屋形様を殺したのも風魔。軒猿を殺したのも風魔か。目的はなんなのだ?」
梟は勝頼を追おうとしてやめました。なんか気に入らないのです。そしてそのまま春日山城に戻って行きました。
勝頼と真田信綱は海津城に入りました。
「父上、ただいま到着いたしました」
「北条が来ているそうだ。采配は任せるがどうする?」
「この地は我らが領地です。我らの庭も同然、北条のたかだか五千の兵など蹴散らして、と言いたいところですが、こちらも兵は五千です。籠城ですかな?」
勝頼は善光寺の穴山勢には春日山城に進むように指示しています。最初連れてきた一万五千の兵は一部を甲斐、信濃へ戻しました。あまり大勢だと乗っ取りにきたようにも見えてしまいます。ここに残るは馬場、真田の精鋭五千です。勝頼は今まで起きた事を、しして遺言状の事を進言に説明した。
「1つ聞きたいのだが良いか?」
「なんなりと」
「馬場とも話をしておったのだがその遺言状だ。今お主の話を聞いてさらに謎が深まった。何を企んでおる?」
信玄の疑問は、遺言状は海津城へ向かったというのは嘘でそれは偽物だったというところにある。つまり、春日山城に重臣が集まっていたあの場所に遺言状はあったのだ。ならばそこで出せば良いだけのこと。さすれば皆が納得はせぬものの収まったのではないかという事だ。
「さすがは父上。そこにお気付きになられましたか」
「世辞はいい。本心を聞かせてくれ」
「謙信公がお亡くなりになるのは想定外でした。そこで徳が賊を見つけるのも想定外、あんなところに潜んでいようとは恐ろしい敵です。その敵の正体がわからぬまま遺言状を出していいものかどうか。それに、謙信公は景勝を推していたはずですがもしも文面が違えば我らの目論見から外れます。ならばとこの際遺言状を利用することにしたのです」
勝頼は一度話を切りました。皆真剣に聞いています。いつのまにか徳、ゆずもきていました。
「そのまま謙信公が口上を述べれば話は簡単でしたが亡くなった今、この遺言状の価値が高まり、誰もがこの内容を知りたがっています。この遺言状があれば、なければどうなるのか?誰が有利になるのか?あの短い時間では結論が出ませんでした。万が一に備え偽の遺言状を運ばせていたのを思い出し、時間稼ぎに出たというのが本当のところです」
「で、時間を稼いだ結果がこれか?」
「はい。勝頼の偽物が現れ偽の遺言状を奪っていきました。奪ったのは北条氏邦でしょう。となれば、勝頼の偽物は北条の回し者ということになります。真田、心当たりはないか?」
「亡き父上から聞いたことがあります。箱根の山に根城を持つ忍びがいると。確か、風魔とか」
信玄は少し考えてから話しました。
「その風魔は偽物に扮して偽物を持って行ったのか。で、これで北条とは手切れになるが」
「はい。箕輪城の内藤へは守備に徹するよう指示しました。甲斐の逍遥軒、駿河の小山田にも備えるよう指示してあります。遠江からも援軍を出しますのであっちは大丈夫でしょう」
「こちらからは攻めないという事だな?」
「はい。あくまでも向こうに非があるようにします。あとは、景勝が景虎に勝つかどうか?」
「遺言状の中を見れば良いではないか?」
「それが上杉の重臣2人が念入りに封印を施したので開けるとばれてしまいます。ならばもうなかった事にしてしまおうかと」
「どういう意味だ?」
「進展次第です。奪われた事にもできますし」
そしてそれから5日後、川中島旧戦場に北条軍が陣を敷きました。武田は城に風林火山の旗を掲げていますが、城から出てくる気配はありません。川中島、八幡原には霧が出始めました。以前武田軍はこの霧を利用しようとし逆に上杉に利用されて危ない目にあっています。今度はそうは行きません。
霧を利用して妻女山にゼットの面々が配置されています。また、海津城には勝頼が万が一に備えて運ばせていた武器の数々も用意されていました。徳、ゆず、はな、かなは大砲の準備をしています。
北条がどこまでこの霧の怖さを知っているかがポイントになりそうです。
陣を敷いた北条氏邦は長居をする気はありませんでした。籠城なんぞされたらこっちの食糧が持ちません。ここは武田の領地なのです。なんとしても本物の遺言状をこの世から抹殺せねば、しかも早急にです。
「敵は我らに怯えて出てこれない。武田は怖くない、一気に攻め入るぞ、城攻めじゃー!」
氏邦の掛け声の元、戦が始まりました。




