騙し合い
錠達は二本松に差し掛かりました。ゼットのメンバー桃は、錠に話しかけます。
「狙われるならここよね?あたしならここで襲う。そう思わない、隊長?」
「確かに。皆さん、警戒を怠らないように、って本当に来た!」
どこからか矢が飛んできました。矢は兵に突き刺さり一気に5人減らされました。桃は矢が飛んできた角度から敵の居場所を想定してボーガンに特殊な球をセットして発射しました。
「いっけー!徳様考案の新兵器、涙目の和佐比玉」
球は敵がいると思われる上空で爆発して、青っぽい粉が空から舞い降りてきます。そうです。和佐比、つまり現代の山葵の粉末が降ってきたのです。粉は目に入り鼻に入り口に入り、もう大事件です。木の上から矢を放っていた敵が3名地面に落下しもがいているところに錠のボーガンが矢を放ちトドメを刺しました。
弓矢で敵を錯乱し、その隙に襲いかかろうとしていた軒猿は完全にタイミングを失っています。
「一度引くぞ!」
もう味方は1名しか残っていません。なんだあの粉は?あの武器は?考えていても仕方ありません。立て直さなければ。流石の軒猿もこうなっては何もできません。涙を流しながら2人は下がっていきました。
錠は、
「やはり狙われていました。もうすぐ善光寺です。亡くなった人は気の毒ですがこのまま進みます。よろしいですか?」
兵はうなづき、再び進み始めました。善光寺には穴山の兵2000に加え真田の兵1000名が待機しています。善光寺が見えてきました。
「着きましたね。ここまでくれば安心です。ここから海津城までは真田様の軍に守っていただくようお屋形様から言付かっております」
兵は安心したようです。当面のお役目はここまでです。
「お守りするはずの我らが逆に守っていただいてかたじけなく。まずは一休みしてくださいませ」
錠と桃は穴山の兵達に礼を言って別れました。仕方のないこととはいえ5人を死なせてしまいました。
「桃、襲われるまで気付かなかった。まだまだ我らは修行が足りん」
「はい。徳様のようにならなくては」
「姉上か、普通の田舎娘だったのになあ。姉上によると勘が働くそうだ。遠くの視線、感情を感じるらしい。ニュー田んぼだったかな、新人類というらしい」
徳は勝頼と知り合ってから急に綺麗になりました。元々好奇心旺盛で何にでも遠慮なく突っ込んでいく性格でしたが、嫁いでからはさらに加速しています。
錠達が善光寺に到着し一息ついていると勝頼が1人で追いついてきました。
「やっと追いついたな。錠、遺言状は?」
「はい。ここにあります。それにしてもお屋形様、お一人ですか?」
「ああ、皆が付いてこれなくてな。途中で置いてきた」
「姉もですか?」
「姉?ああ、一緒に置いてきた。それより遺言状をよこせ。ここからは余が持つ事にする」
錠は遺言状を渡しました。
「お屋形様。お疲れでしょう。真田様にお話ししてお部屋をご用意いたします」
勝頼は遺言状を懐にしまってから、
「わかった。ここで待つ、行け!」
錠が真田信綱を連れて戻った時には勝頼の姿は善光寺から消えていました。
勝頼達一行は兵の死骸を見つけました。周囲を警戒し、探索するとはなが、
「お屋形様。あそこに敵と思われる死体があります。おそらく錠のボーガンだと。それと見たことのない青い粉が待っていてなんか辛いです」
錠達が襲われたか。撃退したってとこかな。
「徳、何か感じるか?」
「別に。見られてる感じが消えてからしばらく経つけど、ここにはなさそう。あ、それとその青い粉っていうのはね、あたいの新兵器だよ」
徳は嬉しそうに説明してくれた。なんて物を作るんだ、絶対に食らいたくない攻撃だ。徳は春日山城を出てから監視されている感じがしていてそれを勝頼に報告していました。ですが穴山を置いてきたあたりからその気配が消えたそうです。敵も付いてこれなかったのでしょうか?
「錠達が心配だ、先を急ごう」
ここにとどまっていたのは一刻ほど、現在でいう2時間です。先を急ごうとは言ったものの襲撃には備えなければなりません。必然と歩みは遅くなります。
そして善光寺に到着すると何やら慌ただしく検問が敷かれています。しかも善光寺から出る方に。
「ちょっと見てまいります」
玉井伊織が勝頼に一声かけてから偵察に行きました。玉井は勝頼は付きの旗本として顔と名前が知られています。関所で話す玉井の顔色が変わり慌ててこちらに走ってきます。
「お屋形様の偽物が現れたそうです。遺言状を持ち去ったと」
「そうか。どうやって奪うのかと思えばそういう作戦か。感心感心」
勝頼は落ちついています。遺言状が取られたというのにやけに冷静です。勝頼達は善光寺に入りました。早速真田信綱と錠を呼び出します。
「大儀であった。で、どんなやつだった??」
真田は答えます。
「それがしは接触できず。ですが、兵に聞きますとお屋形様そっくりであったと」
錠は、勝頼が次はお前だと目で言ってきたので、
「お屋形様が今どこにいてどんな状況かをわかっているようでした。見た目、声、口調はお屋形様そっくりです。ただ、姉の話をした時に一瞬間ができました。そこで怪しいかと思い桃に見張らせていたのですが」
「桃は?」
「裏山で倒れていました。命に別状はありませんがだいぶ心が参っています」
「後で桃からも話を聞こう。で、遺言状はそのまま渡したのだな」
「はい、仰せの通りに」




