追跡
「頭、間に合いましたか。遺言状を持っていたのは武田の忍びのようです。我らが後をつけているのはばれています」
到着した軒猿に遺言状を持つ錠を追いかけていた配下が報告しています。
「そうであろう。景虎様よりなんとしても遺言状を手に入れよとのご命令だ。最悪遺言状を無き物にしても構わん」
「はっ、ですがこちらは5人。敵は途中で兵と合流して20人を超えておりまする。何か策を考えませんと」
「遺言状を持っている者はわかっておるのか?」
「あの黒い服を着ている背の高い男です。身のこなしはなかなかでしたので腕は立つかと」
軒猿は錠と武田兵を木の上から見下ろしています。この先に山道が狭くなるところがあります。周りは木が多く猿と名のつく軒猿に有利な場所です。
「二本塚で敵を襲う。遺言状を持っている男は俺がやる」
勝頼達は途中まで馬に乗って進んでいましたが道はだんだんと山道になっていきます。そしてついに馬で走る事を諦めました。馬を降りた勝頼は、
「穴山、先に行くぞ!」
「お屋形様。それは困ります。それがしも一緒に」
「お主はついてこれまいて。気持ちだけ貰っておくよ。徳、はな、かな、ゆず、紅、それと玉井以下親衛隊!ついてこれるな?」
「はいな!」
「お供いたします」
皆が各々返事をします。
「穴山。すまんが後から来てくれ。海津城で会おう」
「仕方がありませんな。決して無理はなされませんよう。玉井殿、頼みます」
穴山は諦めました。これが後に効いてきます。
勝頼達は穴山を置いて猛ダッシュです。勝頼が一緒に連れて行くのは諏訪に作った現代版サ○ケもどきのアスレチックで鍛えられた者達、それこそ猿のように動き回れる体術に長けた者達です。勝頼は諏訪にいる時に時間があれば身体を鍛えていました。当然、勝頼の周りにいる者達も付き合わされ、結果そんじょそこらの連中には負けません。
それを山蔭から見ていたのは北条の忍びでした。謙信を殺し、そして護衛していた手練れの忍び、甚内も殺した風魔の者です。この風魔の忍びを氏政から借り受け越後に連れてきたのは北条氏邦でした。氏邦はすでに戦に備えて厩橋まで戻っています。氏邦の指示は謙信が家督を景勝に譲るという前に、謙信を殺す事でした。そうすれば北条が上杉を乗っ取ることができます。
武田は信用できません。勝頼は北条氏政に上杉の家の問題に北条、武田は口を出すべきではないと使者を出して伝えたそうです。使者はかなり強気だったそうです。上杉への対応について当主、氏政からの直接の指示は新しくはきていません。景虎を出した以上、こういう展開になれば北条がでしゃばるのが必然というのが以前からの方針です。
氏邦の元に小田原からの使者と言って現れたのは甲賀の草でした。長年小田原に住んでいるらしく氏政とも最近直接会って話をしたそうです。ですがこの使者は氏政からの指示を運んできていません。この草が伝えてきたのは木下秀吉の言葉でした。
『北条家とこの木下秀吉は手を結んだ。これからは武田が敵となる。なんとしても上杉を北条の物にしてほしい』
氏邦は驚きました。木下秀吉という名前は聞いたことがありますが、なぜこの大事な時にこのような使者が来るのか?そもそも兄、氏政の指示はないのか?よくわかりませんがやる事は1つです。景虎に上杉を継がせる、それだけです。
その後で使者といってやってきたのが風魔の悠次郎という忍びでした。風魔と北条家の関係は後北条家の始祖と言われている北条早雲の頃から続いています。お互いの当主しか顔を合わせる事がなく風魔の存在は北条家でもほとんど知られていません。つまり北条家の当主直轄の忍びという事になります。
今回、景虎が上杉を継げるかどうかの一大事に氏政は風魔を使ったのです。そしてその存在は景虎支援で越後へ赴く氏邦に伝えられました。風魔の悠次郎は上杉の旗本に変装していて、武田の目をかいくぐっていました。悠次郎は氏政の文を持ってきました。持ってきた文には氏政の字で毛利と手を組み武田とは敵対すると書かれていました。それは水面下で進める、表には出ないようにする事が念押しで書かれていました。
「木下秀吉ではなく毛利か」
氏邦は秀吉という男がわかった気がしました。信用できない、と。ですがやる事は変わりません。それに氏邦は氏政より景虎の方がウマが合います。景虎が上杉を継げば、その後はどうにでもなると考えています。
そしてさっさと厩橋に引き上げた氏邦の命令で悠次郎は謙信を殺しました。そして今は勝頼を見張っています。氏邦の指示は、
「謙信の次は勝頼だ。あいつは邪魔だ」
勝頼を殺せというのが命令でした。
錠達が先頭でそれを狙う軒猿達、錠達に追いつこうとする勝頼達。それを狙う風魔の悠次郎。そしてその後ろからは景勝の指示で証拠を求める梟が続いています。




