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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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秀吉再び

「こ、これは!?」


それは印籠でした。裏を見ると氏政の字で、氏政、秀吉と彫られています。氏政の記憶が呼び起こされます。そういえば子供の頃に………、まさか!? あの秀吉が木下秀吉なのか?


「使者に会うと伝えよ。丁重にもてなせ! いや少し時間がほしい。明日また来るように伝えよ」




まさかこんな事が。あの小汚い子供、物知りでひたすら前向きで話が面白い命の恩人。殿様になるとか言っていた虚言癖だと思っていたあの少年。


『本当に殿様になったのか。大した奴だ』


氏政は子供の頃の事を思い出しては笑いなんだか嬉しそうです。そうか、あの秀吉が。あの秀吉が殿様だって?散々一人で笑った後、冷静に考えはじめます。さて、狙いは何だろう?今の秀吉は噂では織田を放免され毛利にいると聞いています。織田での働きは小田原まで聞こえてきていました。あの秀吉との同一人物とは1ミリも考えませんでしたが。




翌日、使者と名乗る者に会いました。使者は町人、しかも小田原城下に住む者だといいます。


「木下秀吉殿の使者とやら、面をあげい」


「はい。太助といいます。覚えていらっしゃらないとは思いますが、秀吉が小田原にいた時に世話をしておりました。氏政様にも何度かお目にかかった事がございます」


「何となくだが覚えておる。息災であったか?」


「はい。今日はお会いできまして恐悦至極にございます」


「ふむ。それでだ、あの秀吉が本当に殿様になっていたとは夢にも思わなんだ。使者と申したがなぜそなたが?」


「はい。秀吉様は、もう偉くなられましたので秀吉様と呼ばさせていただきます。氏政様はご存知だとは思いますが秀吉様は常に上を目指しておられます。小田原を出てから今川家家臣松下様にお仕えし、その後織田信長に仕え、城を預かる身まで出世いたしました。織田信長から放免されて今は毛利家の将として播磨におります」


「それは風の噂で聞いた。織田信長は変り者と聞く。苦労したのであろう。だが余の問いに答えていないぞ。使者にそなたがくるのも不可思議だ」


「播磨から小田原へ使者を出すのは今は危険なのです。途中、織田と武田の領地を通りますので。秀吉様は織田、武田とは敵対しておられます」


「織田はわかるが、武田とも敵対しているのか?勝頼殿は戦を好まぬ男だが、秀吉は戦好きなようだしな」


氏政は武田と秀吉の間の確執は知りませんでした。お市の件も知りません。


「使者は旅人に扮し、各地を渡って来ています。秀吉様は各地の城下に昔から住んでいる馴染みな者を置いているのです。今回も何人かを繋いで届けられた文を私が持参いたしました」


「草という事か。秀吉がそなたを草として使っていると」


「そう思っていただいて構いません。秀吉様は何年も先の事を考えて布石を打ってこられています。そのおかげでこうしてお繋ぎする事が出来ました」


「確かに播磨と小田原を繋ぐのは難しかろう。しかし殿様になるとは言ってはおったが、そんな昔からそこまで考えていたのか。大した男だ。で、文というのは?」


太助は懐から筒を取り出しました。一度立ち上がり氏政の前にその筒を置いてから元の位置まで下がって座ります。それを見た氏政は筒を取り、自分の席に戻りました。筒の中から文を取り出し読みはじめました。


『氏政。いや、北条氏政様。大変ご無沙汰しております。子供の頃によく一緒に遊んだ秀吉が宣言通り殿様になりました。氏政様と別れるとき、それがしの願いを覚えていただけておりますでしょうか?』


願いだと、何であったか?そうだ、一度だけ頼みを聞いてくれと言っておった。氏政は読み続けます。


『一度だけ、一生に一度だけです。それがしが頼んだ時に必ずそれを実行していただきたい、それを約束したとそれがしは思っております。そして北条氏政様はその約束を決して反故にしないお方だと信じております。もし、お聞き届けいただけないようなら、それまでの事。氏政という友人がいなかったと思う事に致します』


なかなか厳しい事を言う。だが文はそこで終わっていた。肝心の願いとやらがわからない。


「太助、秀吉殿の願いとはなんだ?文には書かれていなかったぞ」


「氏政様、秀吉様よりお約束を果たせていただけるかお返事をいただいてから願いの内容を渡すように言われております。願いをお聞き入れられない場合、氏政様は敵、敵に大事な情報は渡せないとの事でございます」


「それでは願いが聞けるかどうかわからないではないか?内容もわからずに返事はできぬ」


「秀吉様はこうおっしゃっていました。俺は北条氏政を信じている、と。秀吉様はその印籠をとても大事にしておられました。いつか立派になって氏政様に会いに行くと何かあるたびに話されていたそうでございます」


氏政はあらためて印籠を見ています。この印籠は友情の証として氏政が授けた物に間違いありません。秀吉はそれほどまでに俺との友情を、思い出を糧に頑張ってきたのか。目から涙が出てきました。


「わかった。北条氏政、木下秀吉の願いを聞こうではないか!」








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