争乱
それから2日が過ぎました。明日、謙信が景虎、景勝をはじめ重臣達を呼び話をすることになっています。やっと重い腰が上がったようです。その話はあっという間に春日山城下を駆け巡り街中では色々な噂が飛び交っています。
「ようやく家督を譲るそうだ。どっちになるのかねえ」
「うちの旦那は北条に殺されたんだよ。北条家の者にはなって欲しくないけどあたしらの事なんか気にしてないだろうし」
「そりゃそうでしょ。でも景虎様はいい男よ、見た目しか知らないけど」
「どっちがなってもいいさ。平和ならな」
民の声は忍びを通じて勝頼の耳に入ります。平和なら、それをなんとか実現したいのです。この2日間は景虎、景勝とは会っていません。あえて会わないようにしています。明日は勝頼も立ち会う事になっており、結果如何では色々と起きるかもしれません。敗者が素直に受け止めるはずもなく何が起きるか想像しつつ準備をしています。出来るだけ大事にせず済ませたいと考えています。そこに突然甚内が訪ねてきました。
「勝頼様、謙信公のお側にずっといるつもりです。後をよろしくお願いします」
「甚内、どうしたのだ?まだこれからが大変だというのに」
「明日の結果で上杉は2つに割れましょう。もはや戦は避けられません」
「そうならないように余がここに来ている。余では役不足か?」
「いいえ、どなたが来ても同じ事。北条氏政はすでに覚悟を決めています。梅様を甲斐に返す準備をしています」
「なんだと!」
勝頼にはその情報は入ってきていませんでした。梅というのは勝頼の姉です。北条氏政に同盟の証として嫁いでいます。勝頼は今まで戦にならないように一生懸命頑張ってきました。北条氏康だけでなく、氏政とも仲良くしてきたつもりだ。真・三国同盟は今までは上手くいっていたのだ。氏康は遺言で勝頼とは争うな、と言い残したと聞いている。氏政が欲を出したのだろうか?遺言を破ってまで?
「なぜだ?氏邦といい氏政といい、北条はなんでそんなに戦をしたがる?」
「秀吉ですよ」
「なんだと!」
ここでまたその名前を聞くのか!五郎盛信といい北条氏政といいなんでそんなに踊らされるんだ?勝頼は知りませんでした。秀吉の生い立ちを。
秀吉は以前今川家に仕えていました。織田に仕える前の事です。これは歴史上の記録に残っていて矛盾がないので間違いないと言われています。三雄もそこからの話は勝頼にしていました。逆に言うとそこからしかわかっていないのです。実は秀吉は今川家の家臣、松下長則に仕えるそれ以前に小田原に住んでいたのです、甲賀の草として。秀吉の父は尾張中村に織田家を探る草として住み着いていましたが戦で命を落とします。秀吉は新しい父親からは虐待されていて7歳で家出をしたのですが、そこで甲賀の忍びに拾われます。
死んだ父親は甲賀太一といい、甲賀十三組の長の遠い親戚でした。秀吉はその縁でしばらく甲賀で過ごし英才教育を受けます。秀吉は天性の要領の良さで甲賀の里で地位を築いて行きます。そこで学んだ事は、
・この戦国では運と力でのし上がる事ができる。
・女は欲に使うものではない。自らの価値を高めるために使え。抱くのは身分の高い女だけだ。
・忍びは所詮忍び、目指すは武将
・権力とは地位と金
秀吉はどうせなら天下人を目指そうと心に決めて12歳で甲賀を出ました。目標は最下層からの成り上がりです。そして手始めに小田原に住み着いたのです。まずは甲賀の草として北条家の様子を探るのが仕事でした。その後駿河へ移住して今川家に仕え、そして尾張の織田家へ。地位が上がるに連れて甲賀との関係は逆転します。甲賀を使う側に出世したのです。
甲賀との人脈は強く、今でも頭が上がらない人もいますが、秀吉は甲賀に金を落とす上客でもあり優遇されていました。さて、本題の北条氏政との関係ですが、北条氏政と秀吉の出会いはは氏政が元服前になります。場所は小田原城下、侍に虐められていた娘を通りがかった氏政が助けようとしました。氏政には家来が2人ついていましたが、その侍が強く、家来は斬られてしまいます。氏政はまさかの出来事に震えていました。侍は氏政を見てどっかのぼんぼんと判断し、
「命が惜しくば金を置いていけ。その金でそこの娘としっぽり行くことにしよう」
「ぶ、無礼者。そ、その娘を離せ」
「仕方がない。お前を殺して金を奪うとしよう。いい服だし身ぐるみ剥いで……… 、グア!」
その時、侍の額に石が当たりよろめきます。それと同時に同い年くらいの子供が駆け寄ってきて侍の顔に砂のような物を投げつけました。
「今だ!斬れ!」
その子供が氏政に向かって叫びました。氏政も剣の稽古はしています。その声で我に帰り刀を抜くや否や刃を一閃!侍を斬り捨てました。娘は礼も言わず逃げて行きました。
「お武家さん、助かって良かった。それじゃおいらは行くね」
「待たれよ。お前、名はなんと申す?」
「秀吉だ!」




