謙信
春日山城下に入るとなんだか物々しい。空気がピリピリしている。カツヨリは兵を5つに分けて待機させた。城へ行くのはカツヨリ、徳、穴山と護衛に絞った。旗本として玉井伊織以下精鋭数名が同行する。ゼットの面々と伊那忍びは周囲警戒にあたっている。真田には城下での情報収集を命じました。
「ねえ、お屋形様。見られてるよ」
「ほう、わかるのか?さすがは徳だ」
穴山はきょとんとしている。
「お分かりになるのですか?味方の忍びではないのですか?」
「違うな。これは越後の忍びだよ。うちの忍びを掻い潜るとは相変わらず大したものだ。吾郎を修行にでも出そうか?」
勝頼は見ているのが謙信直属の忍び、甚内だろうと考えています。しかしなぜ近づいてこないのか?甚内なら話しかけてきても良さそうなのに。
「ねえ、お屋形様。なんか違うよ、甚内じゃないかも?」
「ん?俺には気配しかわからんぞ」
「なんか刺々しいのよね。殺気ではないけど」
あんなに修行した俺より徳の方がわかるっておかしくない?と、腹の中で思いながら新ためて集中する。歩きながらですが。結局勝頼にはその違いまではわからなかった。その理由がわかったのはもう少し後のことです。
城へ入ると景虎と景勝に出迎えられました。2人並んで勝頼到着を待っていたようです。
「武田様、父のためにご足労頂きまして誠に有り難く、この景虎、ご恩は一生忘れません」
景虎が大袈裟に挨拶をしてきました。勝頼は素直に、
「義兄上、わざわざのお出迎えありがとうございます。謙信公のご様子は?」
景勝はそこまで黙っていましたがそれを聞くと、
「武田様。父上がお待ちです。徳様とお二人でお部屋まで連れてくるよう言付かっております。早速ですがよろしいでしょうか?ご案内仕ります」
景勝が言うと景虎が、
「武田様のご案内はこの景虎が行う。景勝殿は控えておられよ」
景虎と景勝の背後には重臣達は左右に別れて控えていましたが、それを聞いた景勝側の重臣達が景虎を睨んでいます。景勝は、
「父上はそれがしに武田様を部屋へお連れするよう命じられました。それがしの役目でございます」
すでに戦は始まっていた。勝頼にどっちにつくかここで決めろと言わんばかりに。そうはいかんぞと言葉の手裏剣を投げる。
「景虎殿、そして景勝殿。お2人がそれでは謙信公も気が休まらないであろう。謙信公が仰せられたなら景勝殿に案内してもらう事にしよう。それと、北条氏邦殿が来ておられるとか。後でお会いしたいのだが」
景虎はなぜそれを知っている?という顔をしている。景勝は初めて聞いたようで驚いた後、景虎を睨みつける。
三雄によると上杉謙信が死ぬのは1578年だったそうだ。まだ2年先のはずだがどうなることか。信玄はピンピンしているしもう歴史は当てにならない。景勝に案内されて奥のさらにその奥にある謙信の病室?に通された。謙信は寝ていたようだが気配を感じたのか目を開けた。
「き、き、た、か。かつ、よ、り」
謙信は脳梗塞で倒れました。命は取り止めたようですが言語障害と身体が思うように動かなくなっていました。
「武田勝頼と徳、お見舞いに参りました。ご元気そうで何より」
「わ、し、は、う、うま、く、はな、せ、ん。おま、え、にま、か、せ、る」
「兼ねてより考えていた事があります。どちらかをお選びください。どちらにしても謙信公にご決断いただきます。それがしに丸投げされたい謙信公の気持ちもわからなくはないですが却下です。軍神上杉謙信、毘沙門天の生まれ変わりとまで言われたお方ではありませんか。結末を他人任せにする事は許しません」
スタッ、音とともに謙信の後ろに降り立った者がいます。甚内です。
「やっぱりいたな、甚内。さっき見ていただろう?」
「勝頼様。わしはここから離れてはおりません。わしの弟子が2人、景虎様、景勝様それぞれに付いております。そのどちらかか双方か」
えっ、そういう事?それを聞いた徳は、
「甚ちゃん、お久しぶりですね。という事は候補者2人が争う前提でそういう割り振りにしたという事ですか?」
「徳様。ご無沙汰しております。その通りです。お屋形様が跡取りを決めないと仰っていました。それがしはどちらの味方もいたしません。ただ、どちらになっても忍びの力は必要です。少なくとも日ノ本から戦が無くなるまでは。2人の弟子は優秀で甲乙つけがたい実力を持っています。どちらが勝ってもいいようにかなり前から可愛がっていただいており、2人とも生き残るのはどちらかになると覚悟を決めています」
「愚策ですね。もっと頭を使いなさい」
「徳、出しゃばりすぎだ。控えよ」
甚内は徳に怒られるとは思っていませんでした。戦国の世で最善策を取っているつもりでした。頭を使えとはどういう事なのか?
徳は勝頼の方を見てから下がるふりをして謙信の近くに座りました。そして勝頼に向かって
「私の意見はお屋形様の2番目と同じです。それ以外は大変なことになります。謙ちゃん、いえ、上杉謙信様。賢明なご判断を」




