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未来を知った武田勝頼は何を思う  作者: Kくぼ


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秀吉と盛信

 黒田官兵衛は、安芸の港に大型戦艦が到着した事を秀吉に伝えるべく走っています。港は大騒ぎになっていました。見たこともない大型の船が到着して、木下秀吉を連れて来いと言っているのです。


「殿、船が到着しました」


「来たきゃーも。うまく踊らされおって。官兵衛、下手に出るのを忘れるなよ」


「承知、しかし上手くやりましたな」


「あんなボンボン、ちょっとおだてればこんなものよ。わしのような叩き上げとは器が違う」


 秀吉はしてやったりと嬉しそうです。春日山城で会った時の伊那勝頼、腹の底からムカつきました。秀吉は百姓あがりです。最初は生きるのに精一杯でしたが、だんだんと地位が上がってくると欲が出ました。元々性欲と上昇欲は天下一品です。織田信長に仕えるうちにいずれは天下を取ってやるという気持ちになっていきました。周りの奴らに見下され、このやろうと悔しい思いをしたのがきっかけで自分より偉い、偉そうな男はムカつくのです。特に苦労もせずに生まれがいいからと言って偉そうにしてるやつは大嫌いです。仁科盛信はその大嫌いに当たるのですが、仲間にしようとしています。実際は仲間ではなく、利用してポイですが。さらに言うと秀吉は女は高貴な女を好みます。大名の娘のような地位の高い娘を、昔の自分では遠くから見る事すら難しい女を自分の下で泣かすのがこの上ない喜びなのです。劣等感からの卑屈な思い、そう、


 この卑屈な思いが秀吉の原動力となっています。




「木下殿、世話になる」


「これはこれは仁科様、遠いところをありがたい事です。お連れの人数が少ないようですが?」


「うむ。我が思想に付いてこれないものは鮫の餌にした」






 勝頼が皆を集めて軍議を開き解散した後、盛信は寂しい思いをしていました。信玄がお屋形様の時には五郎様とちやほやされていたのです。元々家督は太郎義信が継ぐはずで、自分は家来として役目を全うするのが勤めと教わって育った。母親違いの兄、勝頼は若くからその才能を見出され早々と重臣扱いになり、信玄が元気なうちに家督を譲られた。そこまではいい。だが、自分に対する周囲の対応が急激に変わってしまった。急に格下げになったように感じて母に愚痴を言ったらかえって叱られた。


「俺の何が悪いのだ?俺も武田だぞ!」


 仁科家を継がされ武田の姓すら消えてしまった。今日上杉の話も出たが、妹の菊は上杉景勝に嫁いでいる。そりゃ景勝を支援するだろう。だがそうなると俺は妹よりも格下なのか?そう思うと身体が震えた。そして軍議が終わり周囲を見渡すと自分に話しかけてくる重臣は誰もいなかった。




 領地の飛騨に戻る途中、家臣に不満をぶつぶつ言いながら歩いていると目の前に跪いている黒子がいる。


「何奴!」


 家臣が刀を抜いて構えると黒子は声をあげます。


「仁科盛信様とお見受けいたします。我が主人、木下秀吉より文を持ってまいりました」


 木下秀吉?さっき兄上が言っていたやつか?勝頼の側近供が怖いだの不気味だの言っていたがどんな奴だ?盛信は興味が湧いた。


「文か、見せてみろ」


 そこには、今の盛信が不憫である事。武田信玄の血を引き、文武に優れた盛信がこのまま表に出れないのは日ノ本にとって大きな損失であり、もし秀吉を頼って毛利に来てくれればそれ相応の地位につけ、あとは実力次第と書いてありました。


「帰って秀吉に伝えよ、この盛信を見くびるなとな!」




 飛騨に戻ってからも秀吉の誘いは続いています。そしてついに秀吉本人が飛騨へお忍びで現れたのです。


「なんと、ご本人か!」


「さよう、木下秀吉でござる。今川、織田、毛利と主人を変えている不届き者でござる」


 そう言いながら秀吉の目は爛々と輝き生き生きしている。自信に満ち溢れていた。兄が恐れる秀吉が自分に礼を尽くしている。なによりもそれが嬉しかった。それをわかるのが秀吉だ。


「なかなかいい返事をいただけないので、信用していただけてないと思い参上つかまつった。突然の訪問、お許しいただきたい」


「わざわざのお越し、ありがたいとは思うが俺は武田信玄の子だ。武田の敵に回る事は出来かねる」


「それでこそ盛信様、さすがはあの武田信玄公の子でござる。私も簡単に寝返るようであれば相手にはしない予定でした」


「なんと!」


「簡単に誘いに乗るような輩は信用できない。そうでしょう?」


「いかにも」


「今日それがしが参ったのは盛信様が欲しかったからでござる。ただ欲しかった、勿論それには理由があります」


 秀吉は自分の生い立ち、恵まれない環境の中もがき苦しんでいる事を伝えた。その上で、


「勿体ないのでござる。立派な血を引き、大将としての器もお持ちの盛信殿が埋もれていくのが。それがしにお力を貸していただければ、それがしが天下を取った暁には武田の今の領地をそのまま盛信殿に頼みたいと思っている」


「木下殿は天下を取る気でいるのか?」


「その通り。そのために毛利にいる。当面の敵は織田信長、その後は公方を追い出し毛利を我が手に。その後は」


「そう上手くはいくまい。兄上は只者ではない。お主の野望は兄、勝頼が打ち砕くであろう」


「左様、今のままならそうなるであろう。ですが盛信様、御身が武田の秘密とともにそれがしに降ればどうなりますかな?勿論、それがしの下に付くのは見せかけ。対等の関係としてそれがしに協力してはいただけぬか?」



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