そうきたか
それから1年が過ぎて天正2年になりました。武田信玄はまだ生きています。死因と言われている労咳は完治、野田城からの狙撃もなく武田軍のお目付役として頑張っています。この年、勝頼の祖父 武田信虎が亡くなりました。信虎は大名集結後、戦場に近い京から高遠へ移っていて、そこで息を引き取りました。信玄は親の死に目に会うことができ感無量でした。信虎は武田領へ戻ったのに甲斐には決して入りませんでした。意地を張っていたのではなくけじめと本人は言っていて、勝頼は
「父上、じじ様の骨は古府中へ」
「そうしよう」
2人とも信虎の意を汲んだのです。墓は甲斐にあってもいいよね、と。
本願寺決戦は長引いています。水路を利用して補給していることに気づいた明智十兵衛は信長に言って九鬼水軍を使い毛利水軍に仕掛けました。毛利水軍に輸送船しかいなかった初戦は織田軍の圧勝で、食糧は海に沈められることになりました。
「上様、九鬼水軍を使い毛利の補給を止めました。これで兵糧は近いうちに尽きましょう」
「でかしたぞ十兵衛。だが敵に闘船はおったのか?」
「輸送船ばかりでございました」
「たわけー!それでは勝って当たり前ではないか、このキンカン頭め!」
信長は十兵衛の頭を殴りつけます。最近の信長は前にも増して暴力的になってきています。なんせ思うように事が進まないのです。イライラもします。
信長は勝頼へこちらへ仕掛けぬよう贈り物を定期的に届けて来ています。勝頼からは、手は出さないので存分に戦われよ、と返答がありました。それも嬉しいことではあるのですがなんか悔しいのです。なんで勝頼なんかにおべっかを使わねばならないのか?
信長は散々十兵衛を殴ったあと、
「九鬼水軍に申し伝えよ。大阪湾を封鎖し毛利の船を近づけるなとな」
ところが、次の補給船団は毛利の軍艦に護られていました。九鬼水軍は立ち向かいましたが、毛利水軍の軍艦は焙烙火矢という武器を使ってきました。この武器は焙烙玉ともいい、丸い火薬玉を相手の船に投げつけて爆発させるものです。爆発力よりも火が燃えることによる攻撃が主で、木造船しかなかった九鬼水軍はほぼ全滅させられました。船が燃えてしまっては屈強な海の男も何もできません。
毛利の輸送船は補給を終えて帰って行きましたが、軍船は大阪湾にとどまりました
これにより大阪湾は毛利水軍の支配下となり、堺市場も劣える事態なり、織田軍に大打撃です。
「うまくいきましたな。織田の金は貿易によるものが大きい。堺を抑えればどうにでもなるというものです」
「木下、よくやった。織田の事をよく知るお主がいるのは誠に心強い」
秀吉は毛利輝元に色々と提案して実績を上げています。それだけでなく、織田軍の抑え役として播磨を領地として賜り、小寺官兵衛を与力としています。そうです、三雄の歴史に出てくるあの黒田官兵衛を。
信長は大阪湾の敗戦を聞き鉄甲船の建造を急がせました。あちこちから職人を集めていたので武田の間者も入り込んでいます。その情報によると武田水軍より明らかに劣る船でした。それでも、半兵衛の見立てでは
「毛利水軍を打ち破るには十分」
だそうです。織田が大阪湾奪回に動いている時、武田陣営の中である男が動き始めていました。
生き残りの九鬼水軍には後がありません。次の戦で負ければこの世から消えてしまうでしょう。必死に準備をし、信長の無茶な納期になんとか間に合わせて出港しました。大阪湾の商いは信長の生命線なのです。
毛利水軍の船に向かって織田軍の黒い船が海上を進んでいきます。毛利水軍はそれを引き付けた後、前回と同じように焙烙火矢を放ちました。黒い船の上にそれは落ち、燃え広がって…………いきません。鉄板で覆われた船の表面は燃える事なくそのまま火は消えていきました。
それを見た毛利水軍は動揺します。逆に九鬼水軍は、してやったり、もう怖いものはないとばかりに奮起し、毛利の船を攻撃し始めます。焙烙火矢頼みであった毛利水軍は全船沈められてしまいました。九鬼水軍の勝利です。
鉄甲船には明智十兵衛が乗っていました。もう無様な報告はできません。水軍の指揮を取っていた十兵衛は数隻の船を残し帰還しました。それを遠くから見ていた者がいました。戦艦富士にのる仁科盛信です。戦艦富士は盛信配下によって船員毎乗っ取られていました。盛信は謀反を起こしたのです。
「兄上と俺の差の大きい事よ。ほんの数年生まれが違うだけで俺は一城主に過ぎず、兄上は飛騨まで含めれば五カ国の太守だ。お市殿や徳殿といった優れた女も自由にできる。同じ父を持ち才能には差がない、俺は秀吉のいう通りこんな事で終わる男ではないのだ」
「殿、ですが本当にいいのですか?もう武田には戻れませんぞ」
「もう決めた事だ。この船を手土産に毛利へ下る。毛利には公方がいるのだぞ、大義は我らにある。まずは大阪湾にいるあの船を蹴散らせ!」
「はっ!」
戦艦富士の砲台が織田の鉄甲船を狙います。十兵衛が乗っていた大型船より一回り小さい中型船が5隻、こちらに気づいたようで向かってきます。
「無駄無駄無駄無駄ー、大砲を打て!」
戦艦富士の三連砲塔が火を吹き、次々と装弾された弾が鉄甲船を破壊して行きます。焙烙火矢とは違う、破壊する弾によって織田の鉄甲船は抵抗する暇もなく沈んでしまいました。すでに離れていた十兵衛はそれをまだ知りません。
盛信を乗せた戦艦富士はそのまま安芸へ向かいました。秀吉が待っています。




