免許皆伝
半年後、勝頼は高天神城に現れました。10日後に重臣達の招集を浜松城にかけています。三雄の使っているスマホとやらが使えればわざわざ各地から集まる必要もないのですが、どうやら液晶とか画面とか電波とか良くわからないものが必要なようですぐには無理そうです。
高天神城に来る前は高遠、諏訪に滞在していました。各地から情報を得て指示を飛ばし、たまに古府中へ行って嫁達の相手をして、空き時間は剣術、いえ、足捌きの特訓をしていました。昔に作ったアスレチックが役に立っています。月1回、三雄との定例会も復活して情報を得ています。
三雄は状況を聞いて驚いていました。本能寺が燃えてしまったり秀吉が織田を追い出され毛利に付いたり、想定外にもほどがあります。ですがさすが三雄です。翌月の定例会では策を練ってきていました。
「いくつかのパターンが想定される。だが決めつけない方がいい、どうも普通には進まない気がするんだ」
「なるほど。こういう可能性があるという事だけ頭に入れておいて後は臨機応変ですか」
「想定は必要だ。事前に手が打てるからな。俺が考えたパターンは……………………」
三雄が想定した未来はどれもありそうに見えました。ですが三雄はこれ以外になると言っています。
「三雄殿、これ以外になるという事はなんでもありになってしまいませんか?」
「勘にすぎん。ポイントはお市だと思う。早めに見つかれば変化が防げる。見つからない時は何が起きても不思議ではない」
「お市ですか。徳といいお市といい女子に戦局が左右されるとは。三雄殿の歴史でもそうなのですか?」
「それはない。なんていうか、女性が男と対等にはなかなかならなかった。今の日本でも完全ではないし。男尊女卑、女は男の影で控えるべしというのが強かった。なので、歴史上女性が活躍したのは一握りだし、勝頼の時代では…………、茶々とかかな?」
「茶々ってお市の娘で、あ、わかりました。教科書でみた淀君ですね。という事は私の時代はやはり大きく変わっているのですね。それでその、スマホをこっちの世界で使うのはやはり無理ですか?」
「電話は無理だろうけど、無線というのがある。電波を飛ばして遠方で受けることによって会話ができる」
「それは素晴らしい。どうやればいいのです?」
「俺が子供の頃にアマチュア無線というのが流行ってた。ちょっと調べとくよ。これなら戦国でも可能かもしれない。ただ以前に徳さんが言っていたように目で見たものが一番だぞ。情報は曲がって伝わるからな」
三雄はこれから誰がどういう行動を起こし、それが武田家にどう影響するのかを絵に書いて説明してくれました。ただ、このとおりになるかの鍵はお市だそうです。まだお市の行方はわかってはおりません。ただ安芸国にいる事は間違えなさそうです。
三雄からの情報を書き写し、大崩に置いてから高天神城へ。徳とは話をしていません。駆けずり回っているようでそれならば安心とメモだけ置いていきました。半兵衛がうまくやってくれているようです。その半兵衛には10日後の浜松城に集まるよう指示しています。
高天神城ではすっかり城主になった上泉伊勢守が出迎えました。家族も遠江へ呼び寄せてとりあえず落ち着いたようです。勝頼は早速、
「伊勢守、修行の成果をお見せしたい。庭を借りるぞ」
勝頼は大将です。自ら戦う事はないでしょう。護身用としてなら拳銃も開発しており、なんで今更剣術を極める必要があるのでしょう?それは心身を鍛える事に価値があると考えたからです。心身を鍛える、心、精神、戦を無くすために戦を行う、平和のための犠牲、何が正義で何が悪か?勝頼は正義なのか悪なのか?
迷ったらこの戦国では生き残れません。三雄に聞いたホトトギス論法、勝頼はホトトギスをどう鳴かせたらいいのか?
答えは出ません。正解はきっとないのでしょう。ならば自分の進む道が正解なのです。正解にしなければなりません。これからの戦局は勝頼の考えでどうにでも変化します。迷わないため、己を鍛えるために剣術を極めようとしたのです。
勝頼は刀を持たずに伊勢守と向き合いました。伊勢守は以前に見せた本多忠勝と同じ動きをし、勝頼に襲いかかります。
勝頼は伊勢守の木刀を足捌きで軽く交わしていきます。そして以前に伊勢守が避けずにいなした攻撃をも軽く足捌きで避けました。まるで木刀が体をすり抜けているかのようです。
「お見事。ではこれはどうですかな?」
伊勢守の動きが速くなり避けられない攻撃が勝頼を襲います。勝頼は無刀です。
「な、なんと!」
勝頼は伊勢守の木刀を両方の手のひらで挟み、木刀を止めました。そしてそのまま伊勢守の腕を蹴りあげ木刀を奪い取りました。勝頼は伊勢守を見てドヤ顔をしています。
「参りました。それではお約束通り剣をお教え致しましょう。ここまで基本ができていれば後は難しくはありません。しかしこれはそれがしが考案した無刀流というもの。お屋形様はどうやってこれを?」
勝頼が見せた技、それは真剣白刃、ではなく木刀取りでした。勝頼は伊勢守の問いには答えず、剣の修行に入りました。わずか3日で免許皆伝となり、そのまま伊勢守を連れて浜松城へ向かいました。




