謎の助っ人
タイミングを見ていたかのような絶妙な間合いで待てと言ったのはどこからともなく現れた老人でした。賊の大将らしき男は、
「ご老人、何かご用でござるか?見なかった事にしていただければ見逃すので早くこの場から立ち去っていただきたい」
大将らしき男はこの老人から出るなにかを見て只者ではないと感じていた。できればやり過ごしたいし、徳の拉致を命じたお方からも事を荒立てたくはないと言われている。
「ホッホッホ、そうもいかん。女子をかどわかすのを見て見ぬふりをしたとなると武士として恥じねばならん。それはわしの武士道に反するのでな。そなたらもここで引き下がれば見逃してやろうぞ」
「年寄りだと思って優しく言えばつけあがりよって。仕方がない、相手をしてやれ」
徳達を籠に乗せ終わった賊が、老人に襲い掛かった。さっき、錠達と戦っていたのは雇われた浪人だったようだが、こっちの賊はこの大将の部下で鍛えられた武士達で剣の心得もあった、のだが、
「ぐわ、なんだと!」
老人に斬りかかった賊の刀が宙を舞っている。それを見た他の者達は大将の顔を見た。大将は驚いていたが、すぐに気をとりなおし、
「殺しても構わん。かかれ!」
5人の賊が刀を抜いて老人を囲んだ。円陣、老人を中心に5人の刀が全方向から襲いかかる。勝負は一瞬でつくように思えた。避けれない攻撃のはずだった。だが、老人は前に出て正面の賊を斬り、そのまま反転して後ろにいた敵も斬った。そのまま止まっていたなら賊の刀の餌食になっていただろうが、前に出る事で円陣から外れ、焦った賊の隙をつき一気に2人倒してしまった。
他の3人は老人を一瞬見失なったが、焦らず下がって距離を取った。そのままそこにいたらやられていただろう。賊もなかなかの腕の持ち主なのだ。
「ほう、剣術の心得があるようだ。そのような腕がありながら賊の真似事とは。そなたらの主人は大した男ではなさそうじゃの」
「ご老人。こちらにも事情があるのです。お引き取り願えないか?峰打ちにしてくれているところを見るとご老人も殺生は好むまい」
「ならば女子を置いていくが良い」
「そうはいかぬ。わしが相手しよう」
賊の大将と思える武士が編笠を取った。男の名は細川藤孝、将軍足利義昭の家臣だ。細川藤孝は剣豪、塚原卜全から剣を学んでいた。免許皆伝とまではいかないがかなりの腕前なのです。藤孝が刀を構えると老人が、
「懐かしい。塚原卜全殿の剣か」
「わかるのか、ご老人?」
「昔の事です。一時期剣を教わったことがあるのです」
「ですがご老人の型は見たことがありません」
「そなたが知らないのは当然。わしは色々な剣術を学び、奇妙と呼んでおるが独自の新陰流という剣を作り出した。先ほどのは新陰流、八卦の舞という技じゃ。そなた、塚原卜全殿の剣を汚すのか?ならば師に代わって成敗してくれよう」
と、そこに集団が近づいてくる足音がしてきました。細川藤孝は、これは引き際かと名乗りもせずに
「引くぞ!」
と言って配下の賊を連れて離れていきました。徳達の乗った籠はそのままです。老人は籠から捕らわれていた徳達を解放しました。猿轡はされていたものの耳は聞こえていた徳は、縄を解かれるなり
「どこのどなたかは存じませんが助かりました。ありがとうございます。私は武田勝頼の側室で徳というものです。失礼ではございますがお名前をお聞かせくださいまし」
武田勝頼だと。そういえば大名が京へ集まったという話を聞いたがそれでか。これも縁なのか。
「そうですか、武田勝頼様の。それはご無事で何よりです」
「あの、以前どこかでお会いしているような気がするのですが思い出せません。お名前を教えてくださいまし」
徳は箕輪城攻めでこの老人を見ているのです。あの時は敵の将で着ていたのも鎧兜でしたので今とは雰囲気が違います。老人の方も驚いています。この側室は箕輪城攻めに加わっていたという事のようです。老人の常識では女子が戦に出るという事自体があり得ない事でした。だがそういえば、あの不思議な武器を操っていたのは女子であったと思い出します。
「もしやあの時の?」
老人が考えていると足音の正体、勝頼達が駆け付けました。
「徳、無事か?あ、あなたは!」
「お屋形様。このお方に助けていただきました」
老人はじっと勝頼の顔を見ている。勝頼はなんでここにと思いながらも、
「ご無沙汰しております伊勢守殿。この度は家の者がお世話になったようで感謝いたします」
「勝頼様、ご立派になられましたな」
「父上も近くに来ております。私は家督を継ぎました。どうでしょう?兼ねてからのお願いしておりますように、我が家臣として仕えてはいただけませんか?」
上泉伊勢守、箕輪城で勝頼に敗れてから各地を転々としていました。あの時とは勢力図は大きく変わり、武田と上杉、北条が同盟を結ぶというあり得ない事が起きています。それにこの勝頼が大きく関わっているとの噂は各地に広まっており、伊勢守も機会があればと考えていました。偶然通ったこの道で起きた出来事、助けてみれば勝頼の側室、勝頼本人の登場、できすぎています。伊勢守はこれを縁だと思いました。その場に跪き、
「偶然は必然、まさか京でお目にかかれるとは。お屋形様、ご厄介になりとう存じます」




