本能寺の会話
「お屋形様。ここって」
「ああ、その本能寺だ」
徳は教科書で読んでここで何が起きるか知っている。本能寺の変は1582年、今から11年後だ。ただ歴史が変わりすぎているからどうなるかは誰にもわからない。
中に入ると住職が出迎えてくれた。菊亭晴季はもう着いているそうだ。近衛前久はまだ着いていない。先に部屋に入ると、
「兄上、お久しぶりでございます」
「幸ではないか。達者か」
供としてついてきた信友が嬉しそうに女人と話ししている。女人は菊亭晴季の妻だった。
「そうか。信友は菊亭様の義兄になるのか」
「そうだ。父上は今川義元が死んだ時に、信友が路頭に迷わぬように氏真に頼み込んだそうだ。そしてその家で育った、幸というのだな、幸は父上に付いて京へ移り住んだ。今川が滅び、信友は武田に味方をした功績で配下にしたが、弟だと知ったのはだいぶ後のことだ。信友自身も今更親戚筋といっても重臣達が納得しないだろうとあくまでも実力でのし上がりたいと言っている。幸は父上が何かしたのであろう。公家の嫁だからな」
幸が信玄と勝頼を見て会釈した。初めて見る兄と甥であった。勝頼は、
「幸様でしたな。武田勝頼でござる。叔母上にお会いできて嬉しく思います」
「晴信じゃ。達者で何より。これも縁じゃ、よろしく頼む」
「幸にございます。ご縁があり、菊亭晴季様の妻となりました。昨日、晴季様からお話を聞き、無理を行って同行させていただきました」
「そなたの母はどういうお方であったか?」
「瀬名家の者でございます。武田との戦では瀬名家は今川方でしたが、父上がうまく逃がしてくれまして田中城の近くにおります」
「そうであったか」
信玄はそう答えてから信虎の働きぶりに驚いた。大したものである。
勝頼は菊亭晴季と話し込んでいる。
「田舎者ゆえ、京のしきたりとか公家のお相手とかわかり申さぬ。近衛様に失礼がないようにしたいのだが助けてはいただけぬか!」
「昨日いただいた金子分くらいは働きますぞ」
また無心かよ!
「冗談はさておき、勝頼殿は幸の甥にあたるお方。私の親戚ともいえましょう。何でもお申し付け下さい。それに近衛様でしたら大丈夫です。苦労人で、関東にも長く行っておられましたし今も本願寺で苦労されておられます。そういえば近衛様は変わった食べ物が好きなようです。各地の名物を食べるのが好きだと聞いたことがございます」
「徳!」
「はいな!」
「バーベキューの用意だ。できるか?」
「そんな事もあろうかと昨日三河から早馬で届けさせました。喜兵衛殿が準備していたのですよ」
喜兵衛がね、戻ったらあいつにも色々聞かないとな。それはさておき親衛隊がせっせと寺の庭で準備を始めます。寺で肉食っていいのかね?住職に聞いたら基本は精進食ですが、それは寺の者だけで俺たちはいいらしい。安心して肉が焼ける。
枯れ木と炭火で鉄板を温め、油肉を先に焼いて油を溶かして隅まで広げる。そしてソーセージを投入!ジュージューといい音といい匂いがしてきた頃に近衛前久が到着した。
「これは食欲を誘う匂いだな。近衛前久、到着いたしました。はて、菊亭殿、これはどういう光景なのだ?」
「近衛様。武田勝頼殿が近衛様をおもてなしするために用意した物だそうです。場味部急とか言っておりました」
「これは近衛様。昨日はご挨拶もろくに出来ず申し訳ありませんでした。武田勝頼にございます。さあ、どうぞこちらへ。徳、酒と焼けたソーセージをお運びしろ」
「かしこまりました。近衛様、どうぞこちらへ」
近衛の前には食台が置かれ、焼きたてのソーセージや野菜が置かれている。
「熱いですから、火傷には気をつけてくだされ」
「そうは言ってもこの匂い。今すぐ食べたいのだがこの木に刺さった肉はどうやって食べたらいいのだ?」
「我ら関東の田舎者はこうガブッといきます。アフ、アフ、う、うまい。お行儀が悪ければ箸で串から外してお食べ下さい」
「いいや、麿もガブッといってみることにする。ホ、ホウ、ウム、これは美味い。これは肉の脂か、何ともいえん。武田家ではこのような不思議な料理を食するのか?」
「これはそれがしが考えた甲斐名物でございます。武田家、いえ、武田の領地ではこれを皆、食しており同盟国へは販売もしております」
「京へは送って、いや麿は京には長居できない。諦めるとしよう」
「駿河へ来ませんか?甲斐でもいいですが駿河の方が気候が良く過ごしやすいので」
「京から遠くなるのも困る。今は本願寺にいて用があるときのみ京に来ているのだ。駿河では時間がかかりすぎるな」
「それでは、たまにでいいので遊びに来てくださればご馳走いたします。それで今日お越しいただいたのには理由がありまして、あ、どうぞ。先に思う存分お召し上がって下さい。話はその後といたしましょう。徳!」
徳が前にでた。その後ろに横一列にゆづ、はな、かなが扇子を持って立っている。
「新曲です。題して、日本全国笑顔旅!」
『♩信濃生まれのこの私 甲斐に嫁いで駿河へ引っ越し 三河へ戦に出向いても 笑顔はいっつも絶やしません 越後に出張相模に出張 へこたれませんいつも笑顔 愛する殿のためならば 笑顔笑顔で今日も元気♩』
へんな歌詞に曲調はアップテンポ、徳が歌って踊って、後ろの3人は扇子を開いたり閉じたりして見事に踊っています。近衛前久は唖然としています。今まで見てきた唄と舞いとは別次元の物でした。歌が終わったのかと思いきや、今度は徳がギターを弾き始めます。勝頼はどっから出したこのギター、と突っ込みたくなりましたが、どうせ武藤喜兵衛だろうと理解し、一緒に聞き始めました。今度はバラードのようです。




