北条氏康の死
北条氏康。後北条家と言われる伊勢新九郎こと北条早雲の孫にあたります。この戦国の世において、武田、今川、関東上杉といくつもの戦を繰り返し北条家をここまでのものにした功労者であり、ある意味勝者ともいえるでしょう。享年57歳でした。
「そうか、氏康公がな(三雄殿から聞いていたのより少し早いな)。父上には?」
「恐らくはご存知かと。それがしは吾郎殿から聞きました」
「吾郎からか。で、あいつはどこへ?」
「徳様に急に呼び出されたようで、あそこだと思いますが」
あいつ、俺にそれを伝えないでどうする?ここによるからわかるだろうということか。とすると徳の用事の方が大事という事になるが、さて?
「で、氏康公が死んだら海がどうなるって?」
「氏康公の葬儀が行われるようです。北条の水軍は里見の水軍と仲が悪くやりあってきました。今は里見は北条に従っていますが、氏康公の死がどんな影響を及ぼすのかはわかりません。あくまでも念のためです」
「伊谷、その割には物騒な事を言っていたではないか?」
「そんな者ですよ、海の男は。売られた喧嘩は買います」
伊谷の領地は焼津です。花沢城を預けています。その領地内に大崩の造船所と研究所があるのです。
「あそこはどうだ?」
「はい。陸からは地元の人間以外は行く者はおりません。他所者は目立ちますので今のところおかしな事は無いと思います。最近は料理部というのが出来たようですが詳細は教えていただけませんでした」
料理部?家庭科の教科書か。まあ飯は大事だからいいか。
「半兵衛、商いが賑やかになると他所者が増える。清水はいいが、駿府に変な輩をよこさないようにな。駿府の治安は崩したくない」
「それですがお屋形様。例のゼットの面々ですが駿府に店を持たせてはいかがですか?宿がいいと思います」
「そういう事か。治安にはもってこいだな。おい、錠!」
外にいた錠が慌てて入ってきました。
「お前達に宿屋を三軒任す。駿府の城下に距離を離して、そうだな。チーム毎に配置する事にする。目的は城下の治安維持だ」
「てことは駿府に住むって事ですか?」
錠の顔が嬉しそうだ。錠は海を初めて見た時に心を奪われたそうだ。諏訪の湖とは桁が違います。
「チーム甲、乙、丁が駿府に。チーム丙は喜兵衛が使うって言ってたから向こうに置いておく。その他の訓練部隊は川根に移動させる。あそこに訓練施設を建てるぞ。大砲の発射訓練に、新兵器もだ。そうだ錠、あれが出来たって言ってたよな。お前はもう使ったのか?」
「まだです。姉ちゃんがもう少し弄るからって言ってました」
姉ちゃんか。徳には岡崎攻めの戦以降会っていない。大崩にさっさと行きたいところだが、氏康が死んだとなると父上と決めなければいけない事が増えてしまった。半兵衛へ京へは連れていかない事を告げ、不在時の指示をだしてから駿府城へ向かった。
駿府城。旧今川館から少し離れたところに武田で建てた平城です。ここは攻められる事を想定して作っていません。甲斐の躑躅ヶ崎の屋形と同じ考えでここが攻められるようでは終わりという事なのです。とはいえ、西は安倍川、東に富士川、大軍で攻められる時の天然の要害がありますし、城の周囲には堀を複雑に張り巡らしてあります。
城を築城したのは山県昌景でした。今は信玄の居城となっています。勝頼は信玄の部屋に向かいました。
「父上、氏康公がお亡くなりになったそうですが」
「そうだ。あの蛆虫がついに死におった。お前の子孫とかのいう通りになっているな」
「はい。ですが半年ほど時期が早くなっています。また、三雄殿の歴史では大名集結という出来事は起きていません」
「勝頼。お前が歴史を変えたのだ。これからは武田が天下をどうやって取るかの戦になる。元々は余が上洛し、足利将軍を支える予定だったが今は違う。武田幕府を開くのが余の夢ぞ」
「はい。父上には上洛をしていただきたいのです。それがたとえ義昭公の召集であってもです。ただ、武田の権威を見せつけるという事にはならないと思います。中央は織田が仕切っておりますので。それに」
「なんだ?」
「腑に落ちないのです。義昭の腹の内が読めません。義昭は切れ者ではありませんが戦を無くしたいという気持ちは強いのです。そのための招集ではあるのですが、織田と明智十兵衛が何を考えているかがわかりません」
「人の心は読めない。だが、相手がどうしたいのかを相手の立場になって考えれば見えてくることもある。川中島では余と謙信の読み合いだった。今回は織田とその明智とやらは組んでいないのか?」
「明智は公方様の家臣ですので。今、今回はとおっしゃいましたか?」
「そうだ。朝倉攻めではその明智とやらも将軍家として戦に参加していた。織田と明智が連んでいるかはわからんが、そう思う事で何かが見えてくるかもしれんぞ。それでだ、北条家から葬儀の報せが来ている。真・三国同盟を結んでいるからであろうが、今後の事を考えるて誰を行かすかだ」




