隼の陣
疾きこと風の如く。風林火山の風にあたる言葉です。武田軍の行動の素早さを表しています。勝頼は各将に以前から考えていた配置に付くよう指示しました。鶴翼の陣と蜂矢の陣の合体版で名付けて隼の陣です。その形は飛行機のようで中央が蜂矢の陣、飛行機の主翼の如く鶴翼が広がり中央で兵が戦っているのを側面からフォローする勝頼考案の必勝陣形、各将は素早く位置どりを行いました。
「進めー!」
勝頼が軍配を振り叫ぶと、陣形を維持したまま軍が移動を始めました。それと同時に勝頼直轄の秘密部隊が動き出します。もちろんそこには徳、ゆづ、はな、かなに連れられた徳親衛隊の面々もいました。
特殊部隊ゼット、武藤喜兵衛が鍛えた勝頼直属の戦闘員達です。山中で家康の狙撃手を倒したのはチーム甲と呼ばれる部隊でした。チーム毎に役割が違い訓練内容も大幅に異なるのですがそれはさておき、チーム乙とチーム丙が家康の物見を次々と葬っていきます。チーム甲は別のお役目でここにはいません。チーム乙はクロスボウを使って家康陣へ駆け戻ろうとする者を遠距離から攻撃しています。そしてチーム丙は新兵器、飛苦無爆弾を使っていました。これは苦無に小型の炸裂弾を付けて投げる武器で、仮に苦無を弾いたり避けたりしても爆発により負傷させる武器です。負傷したところに近ずいて忍者刀でとどめをさしていきます。家康の元へ届くはずの物見の報告が途絶えました。
「狙撃隊はどうなった?信長様はどこまで来た?」
情報が入ってこなくなり家康は不安で仕方ありません。本陣に座ってはいるものの爪を噛んではむしっています。家康が落ち着かない時に出る癖です。待てども待てども情報は入ってきません。
「もう一度物見を出せ、急げよ!」
兵が走りこんできました。
「来たか、どうであった?」
「申し上げます。武田の軍勢、すぐそこにまできております。その数3万」
「なんだと!勝頼は?武藤喜兵衛は仕留めたのか?」
「わかりません。もう見えるところまで」
『ドーン! 』
ものすごい大きな音と地響きがしました。
「なんだ、どうした?」
『ドーン! 』
音は3回続きました。家康が本陣を出て前を見ると地面から煙が舞い上がり兵が倒れています。本多忠勝の声がひびきわたります。
「殿ー!殿をお護りしろ!」
忠勝は家康に駆け寄りました。法螺貝が聞こえてきます。それとともに兵が走ってくる音も。そして再び
『ドーン! 』 という音のあとに今度は
『ドッカーン! 』
と爆発音がし、多くの兵が宙に舞いました。地面からの土煙は徳川軍の鉄砲隊、足軽隊、そして本陣近くで炸裂していました。鉄砲隊は何が起きたのか分からず大混乱で、鉄砲を撃つのも忘れ走ってきた武田の兵に蹂躙されていきます。武田軍はきちんと統制が取れ、指揮の元に行動しているのに対し、徳川軍の前衛は右往左往しています。そこに武田の進軍を抑える部隊が現れます。榊原康政の部隊です。
武田の先鋒は山県昌景の赤備え、馬場信春、真田幸隆、小山田昌茂でした。蜂矢の陣からでた赤備えと馬場信春の軍が榊原康政隊とぶつかります。鶴翼にいた武田信豊、内藤修理、穴山信君、仁科盛信が徳川軍を包み込むように展開します。それを見た本多忠勝は、
「殿、城へお戻りください。このままでは囲まれてしまいます。それがしが抑えますので早く、早くお逃げ下され」
「逃げろと申すか!ここで逃げれるわけがなかろう」
「殿さえご無事なら徳川は大丈夫です。早く、早く!おい、お前ら、殿を頼む!」
そう言って忠勝は向かってくる武田軍を長槍で打ちのめしていきます。家康はもがいていましたが兵に引っ張られて兵がなんとか確保していた城への退路を進みます。
「信長様はまだか。こんなに一方的にやられるとは何が悪いのだ?信玄はこんなに強いと言うのか?」
城へ向かって進んでいると、上を見た兵が立ち止まります。
「と、殿」
どうしたのだ?どこを見ている?家康の目に映ったのは轟々と音を立てて燃えている岡崎城でした。
本多忠勝は近づいてくる武田兵を得意の槍で叩き、突き、倒していきますがキリがありません。遂に周囲には味方がいなくなり忠勝1人になってしまいました。そこに武田信豊が現れます。
「見事だな、俺は武田信豊という。名を教えてはいただけないだろうか?」
「本多忠勝でござる。もはやこれまで、殿を逃がす事ができ最後にお役に立てた。思い残すことはない」
そう言って忠勝は槍を置いて座り込んだ。
「捕らえよ!」
信豊は忠勝を捕らえた後、
「家康は城へ逃げたのか?」
「逃げたのではござらん。立て直しに行かれたのだ」
「そうか。あれを見てもそんな事が言えるかな?」
忠勝は上を見上げました。丘の上の岡崎城が燃えています。忠勝はそのまま固まってしまいました。信豊は兵を連れて穴山信君と合流してそして徳川家康を追います。
榊原康政は精一杯抵抗したが数の攻めには勝てず討ち取られたてしまいました。首を取ったのは山県隊でした。そして家康は追いかけてきた武田信豊が、
「家康〜!」
と叫びながら投げた手榴弾、桜花散撃を喰らって吹っ飛んだところを穴山信君に捕らえられました。穴山は満面の笑みで
「お久しぶりでございますな、家康殿」
織田信長は結局来ませんでした。いや、実際向かってはいたのですがある男により進軍を止められてしまったのです。そう、明智十兵衛によって。




