鳴かぬなら
織田と朝倉の戦を止める?何のために?信玄も半兵衛も勝頼の言葉の意味を考えています。しばらく無言が続きます。信玄が口を開きました。
「その我らの子孫に言われた事に関係しておるのか?何が起きる?何を変えようとしているのだ?」
「父上、仰る通りです。三雄殿に聞いたこの時代の未来に影響する出来事がこの後起きるのです。すでに歴史は変わりました。この後、起きる大きな出来事としてまずは、織田信長が比叡山延暦寺を焼き討ちします」
「なんだと。神仏を焼き払うというのか!そのような事が人にできるのか 」
「父上。織田信長という男は今までの常識とは違う考え方ができるのです。過去の概念に捉われる事のない発想で世の中を変えていこうとするのです。今はまだ焼き討ちを行なっておりません。比叡山は私も滅んだ方がいいと思っています。あの坊主どもの悪行は酷いものです。と言って父上は寺を焼く事には我慢できないでしょう。これは信長にやってもらおうと思っております」
竹中半兵衛はずっと考えていましたがここで口を開きました。
「お屋形様。比叡山焼き討ちは今回の戦に織田が勝てば成せるのではないですか?戦を止める理由としては?」
弱いよな。それだけではないのだよ、半兵衛君。
「半兵衛、次にだ。来年北条氏康が逝く。北条はすでに家督は氏政が継いでいるから争いは起きないが氏康の死がもたらす影響力は大きい。これはこの戦とはあまり関係はないがこの先の展開に影響が出るだろう」
信玄は、
「そうか。あの蛆虫めがついに死ぬのか。そうだ。余はいつ死ぬのだったか?」
「父上は元亀四年、つまり3年後です。ですが、死因とされている労咳は完治しておりますし、もう一つの死因とされている狙撃はあり得ますが」
「狙撃か。それは余の忍びにきつく申し付けておる。鉄砲の射程距離に狙撃兵が居ないように警戒を絶えずさせておる」
「それなのですが。織田信長が鉄砲を国友村で作らせているようで、狙撃用の射程が長い大鉄砲もあるそうです」
「わかった。忍びに伝えておく。勝頼、お前も鉄砲を作っていただろう。その大鉄砲とやらもあるのか」
「はい。それだけでなく色々な物を開発しております。いずれ披露しますよ。それで半兵衛の疑問の続きですが、織田信長と足利義昭が喧嘩別れをします。信長は足利義昭を追放し自らが天下人になる道を目指すのです」
「勝頼、それでお前はどうしようというのだ?この戦を止める真意はなんだ?」
「止めるだけではありません。利もなければ」
勝頼は信玄と半兵衛にこの戦の真の目的を説明しました。
「そうか、謙信もか。余だけ生き残れば…………」
信玄の独り言を勝頼は聞き逃しませんでした。そうなるといいのだが、と。
加賀は上杉が抑えました。越前には攻め入らずそのまましばらく加賀に滞在した後、一部に兵を残して謙信は越後へ戻りました。朝倉は上杉が越前まで攻めてはこないと考えていていましたが実際に引き上げたのでホッとしています。朝倉はこのまま織田信長を放っておく気はありませんでした。足利義昭の一件から織田との因縁がどんどん強くなっていっています。織田方についた松永弾正、近江を追われた六角氏、丹波や丹後の国衆、本願寺や比叡山にも手紙を出し、織田信長を協力して倒そうと語りかけています。
そして勝頼達武田軍は遠江から三河に入り各城を落としながら岡崎城に向かって進んでいきます。旧今川勢の勢いは凄まじくここで手柄を立てなければという思いが戦に現れていました。岡崎城まで10kmのところまで進んだところで物見の報告がありました。徳川軍は籠城ではなく陣を敷いているそうなのです。兵の数は五千。
「さすがは徳川家康。籠城はしたくないという事か。自惚れているのかもしれないな」
勝頼は桶狭間の真相を知っています。あそこで家康がなぜ生き残れたのかを。今川義元を討ったのは織田信長です。桶狭間では穴山信君が暗躍をしていたようですが家康は、武田の力を借りたのではなく自らの力で生き残ったのだ、三河を制したと思っているのでしょう。確かに桶狭間の後の家康の戦いは見事でした。それが自信に、勝頼から見れば自惚れにつながっても不思議ではありません。勝頼は三雄が言っていた事を思い出しています。
「家康は運と我慢で生き残った。鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス という例えがあってな」
「どういう事でしょうか?」
「信長、秀吉、家康の生き方の例えだよ。誰が言ったのかは知らないけど俺の時代では有名な例えなんだ。信長は、 鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス。秀吉は 、鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス。家康が、鳴くまで待とう ホトトギスってな。信長は時代を変えるために無理をした、信念を貫くために残虐な事をしたんだ。それが結局家臣の裏切りに合い、命を落とした。秀吉は人たらしだと言われている。相手を上手いこと利用してやらせるんだ。そして家康は」
「家康は鳴くまで待とうですか?我慢強いと?」
「そうだ。信長の無茶な命令に耐えて、秀吉に勝てないとなると死ぬまで言うこと聞いて我慢して。でも結局勝ったのは家康だった」
この陣をしいて待ち構えている家康は?そうなのです。まだ我慢を覚える前の家康なのです。




