狙い
浜松城に信玄率いる3万の武田兵が集結していました。三河へ向かおうとしています。同時に岩村城周辺に秋山虎繁率いる1万の兵が岐阜城へ向かおうと集まっています。そして上杉軍1万5千が越中から加賀へ仕掛けようとしています。朝倉・浅井対織田の戦が始まって5日目のことでした。
織田信長は朝倉が比叡山延暦寺と組んで信長の邪魔をするのが面白くなく、朝倉を滅ぼそうと戦を仕掛けました。長政亡き後の浅井は織田ではなく朝倉に味方しています。この戦には織田方として足利義昭軍の明智十兵衛、細川藤孝も参加していました。信長は比叡山延暦寺の坊主達が酒、女に溺れろくでもない振る舞いをしている事に腹を立て、延暦寺を支援している朝倉を攻めるのに将軍の御内書を貰いました。将軍を支える信長としては戦をするのにも世間が納得する理由が必要なのです。
朝倉、浅井連合軍は手強く、予想以上に手こずっていたそこに武田の動きを見張っていた徳川家康から連絡が入りました。三河危しです。
「稲葉! 急ぎ岐阜へ戻り城を守れ。我らは尾張へ向かう。朝倉が攻めてくるであろう。だれかしんがりを頼みたい」
信長は元斎藤家の重臣だった稲葉一鉄に美濃を任せて家康の応援に行く事をきめました。武田の動きは家康の報告を聞いて想定はしていました。この戦の隙をついて武田が動くだろうと。信長は来るかこないかわからない奴らに自分の動きが牽制されるのが面白くなく、朝倉、浅井をさっさと蹴散らしてから戻ろうと考えていたのです。ですが朝倉、浅井を蹴散らすどころか現状は互角です。信長が集めた兵は譜代を除けば寄せ集めでした。このまま下がれば追いかけられて攻められてしまいます。木下秀吉、明智十兵衛、細川藤孝がしんがりに手をあげました。十兵衛は、
「それがしが足利の旗とともに残りましょう。朝倉とて足利の旗には攻撃してこないと思われます」
「十兵衛、甘いぞ。そんな旗になんの価値があるというのだ。いつまでも足利将軍などにすがっていると道を誤るぞ」
「なんと申される!?」
「まあよい、しんがりは任す。猿、細川も、頼んだぞ」
信長は一気に下がっていきました。それを見た朝倉軍は、
「信長が逃げたぞ!追え、追いかけろ!」
と追撃します。それをしんがりで残った3人の武将が抑えました。信長の言う通り、足利将軍の旗はなんの意味もなくそんな事は気にせずに攻めてきました。攻めかかってくる敵兵をなんとか抑えたというのは大げさで、実際は上杉謙信が加賀に入ったのを聞いて朝倉は慌てて越前へ戻ったのです。そのために秀吉達はなんなく逃げ出す事が出来ました。ところが、
「もう大変でございました。かかってくる敵をちぎっては投げ、斬って斬って蹴って転がして、いやあなんとか凌ぎました」
と大げさに手柄だとわめき散らします。実態を知っている明智十兵衛と細川藤孝はまたか、と黙っています。足利勢は京へ戻っていきました。徳川と武田の戦に加担する必要は無いのです。信長は上杉が加賀へ進出した事も知っていて秀吉が手柄を誇張している事は分かっていましたがそれをそのままにしています。そして織田軍は清洲へ集結しました。信長は、
「はて?どこかで同じような事が…………、田楽狭間か。あの時とは違う、違うぞ信玄!」
武田の棟梁は勝頼ですが信長は勝頼をよく知りません。信玄健在な今、敵は信玄だと考えていました。
三河攻めの軍の大将は勝頼です。ここには信玄もいました。浜松城から井伊谷を抜けて気賀を通り三河へ向かいます。井伊谷で井伊直虎が合流しました。直虎は勝頼、信玄へ挨拶した後、勝頼の側に付いていた朝比奈泰朝を見て顔色が変わりました。それを見た朝比奈はいきなり土下座します。
「井伊殿。今川氏真の命令とはいえ、お主の許嫁を殺したのはそれがしにござる。誤って済む事ではないと承知しているが、それがしの命はお屋形様へお預けいたしておる。この場はこれで済ましてはいただけないであろうか」
直虎は驚きながらそれを聞き、額を地面につけて震えている朝比奈が不憫に思えてきました。敵討ちはもう済んでいます。直虎は今川氏真をこの手で殺した、トドメをさしたのです。もう恨みは忘れるべきでしょう。
「朝比奈殿が謝っても直親殿は帰ってはこない。戦で死になさい。お屋形様、個人的に朝比奈殿には恨みはありますがそれと戦は別でございます。前回の戦で私は今川氏真をこの手で討つ事ができました。これは武田様のおかげでございます。三河攻めの先鋒は旧今川勢にご命令ください。徳川とは因縁がありますゆえ」
「よかろう。家康は岡崎城に籠城している。織田信長が応援に来るのを待つのだろう。周辺の城を落としつつ岡崎へ向かう」
勝頼の軍はゆっくりと三河を進み始めました。勝頼の周りには信玄、竹中半兵衛がいて話をしています。
半兵衛が、
「お屋形様。今回の作戦、何をお考えで?」
「半兵衛、気づいたか。どう考えてもおかしいだろう。そこが狙いというか、出方を見たいんだ」
「勝頼。もう余がとやかくいうつもりはないが腑におちん。上杉の加賀攻めがなければ朝倉は戻ることもなく織田と戦ってもっと犠牲が出たであろうに。なんで上杉まで使って中途半端な事をするのだ?」
信玄も不思議に思っているようです。
「父上。中途半端ではありません。上杉は加賀を狙っていたので攻めてもらいました。こちらの戦と時期を合わせてもらったのは、織田と朝倉の戦を止めるためなのです」




