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第七章 あなたに恋する

土曜日は投稿できないので明日も投稿する予定です。

 隅々まで磨き上げられた、大理石で作られた大きな広間に様々な色のコートを身にまとった者達が集っていた。隠すようにフードに覆われた顔からはその表情を読み取ることはできない。その数、全部で五人。

「魔王に偽の魔将軍のことがばれたようだ」

 その中の一人、黒いコートの男が低い声で告げた。

「おい、早くないか?」

「いや、所詮、奴ではあの程度だ」

 もう一人の緑のコートの男の問いかけに先程の黒いコートの男が答えると、白いコートの女性が彼らから視線をはずしながら、肩をすくめる。

「・・・・・『イドラ』」

 そう言った彼女はゆっくりと首を振る。

「そうだ。 魔王の手に『イドラ』が渡ったということだ」

 先程の黒いコートの男がつぶやいた。

「では、われわれが動く時が来たということだな――――」

 緑のコートの男の言葉に、今まで黙っていた二人のうち青いコートの男の方がわずかに眉をひそめる。

「何か策を講じねば、レイチェル――――」

 呼びかける声に、もう一人の赤いコートの女性は驚いたように顔をあげる。

「『イドラ』の少年のことに関してはおまえが一番詳しい――そうだったな」

赤いコートの女性は黒いコートの男の言葉に静かに頷く。


   


「あの、フレデリカさん」

 長い道沿いを歩き続けてようやく、そろそろルトンの塔の先端が見えてきたという頃、レシオンがフレデリカに呼びかけた。

「前から思っていたんですが、どうしてフレデリカさんはエレジタットさんのことを『エレジタット様』って呼んでいるんですか?」

「そういえばそうよね?」

 それを横で聞いていたテレフタレートもハッとして、フレデリカを見つめた。

「それはですね」

 と、ファティの声がした。

レシオンは視線を転じて、そうつぶやいたファティに向かって声をかける。

「あの、ファティさんは何か知っているんですか?」

「はいです!」

「本当かよ?」

 自信満々で告げるファティに、メイルは疲れ果てたように溜息をつく。

「本当です! ずばり、フレデリカさんがエレジタットさんを様付けで呼んでいるのは『運命の出会い』を果たしたからなのです!」

 やっぱりか・・・・・。

 分かりきっていたこととはいえ、メイルは落胆した。

そんなわけないだろうが・・・・・。

 だけど、当のファティは、メイルを――そしてレシオンを指差し喜々として叫んでいた。

「メイルと私の出会いも、そしてレシオンさんとエレジタットさん達との出会いもまさに『運命の出会い』なのです! だから、今回もきっとそうです!」

「・・・・・いや、違いますって」

 呆れたように、レシオンは頭を抱えた。

 少なくとも、俺とエレジタットさん達の出会いは『運命の出会い』などでは全くない。

というか、逆に『最悪の出会い』と言った方がいい。

「それは決まっています」

 ごく当然のことのように、フレデリカは満面の笑みを浮かべて答えた。

「エレジタット様は私のナイト様だからです!」

「はあっ――――――!?」

「何ですか? それっ?」

 テレフタレートとレシオンは、同時にそれぞれの言葉で叫んでいた。

「・・・・・と言うか、それだけ?」

「はい」

 レシオンが唖然とした表情のまま、そう聞き返すと、フレデリカはまたにっこりと笑った。

「・・・・・ほ、本当にそれだけ?」

「はい、それだけですよ」

 レシオンが重ねて尋ねると、フレデリカは力強く首を縦に振った。

「何よ! それ!」 レシオンが振り向くと、声から予想がついたとおり、口をわなわな震わせたテレフタレートの姿があった。

「本当にそれだけなの!」

「それだけですよ」

 と、フレデリカは先程と同じ言葉を口にした。

 それから少し照れくさそうに顔をうつむかせると、フレデリカはおずおずとつぶやいた。

「エレジタット様は私にとって特別な人なんです」

「えっ?」

 レシオンはぽかんと口を開けた。

 エレジタットさんが特別な人?

 それって、どういう意味なんだろう?


エレジタットとフレデリカが出会ったのは、ほんの偶然だったのかもしれない。エレジタットとフレデリカは同じ新米魔族だったが、フレデリカは魔王の腹心とも言われている魔将軍の妹だった。本来なら、出会うことはなかったのかもしれない。

――でも事件は起きた。

とはいっても、それは事件とは呼べない小さな小さなことだったのだが。

それはフレデリカが兄である魔将軍とともに城の通路を歩いていた時の出来事だった。

すると、同じ新米魔族である同僚が遠くからこんなことをつぶやいた。

「あれが、あの魔将軍様の妹君か」

「たいしたことなさそうだな?」

「ああ、何でも、『お天気を予報する能力』と『お天気を変える能力』しか使えないらしいぞ」

「なんだよ、それ?」

「全然、駄目じゃないか」

 それは明らかにフレデリカをしているのだった。反射的に魔将軍は反論していた。

「貴様らっ!」

「うむっ・・・・・。 『お天気を予報する能力』と『お天気を変える能力』だと! なかなかやるではないか、貴様!」

 誰かが、彼の――魔将軍の言葉をさえぎってそう叫んだ。

「えっ?」

「なっ?」

「「はあっ?」」

 フレデリカと魔将軍、そして新米魔族達が怪訝そうにそう言った青年を見つめる。鮮やかな赤い髪に、紫のマントがトレードマークの青年だった。

 青年はフレデリカを見止めると、意味ありげに何度も頷き始めた。

「さては貴様、俺様が何者なのかと思ったな? そうだろう?」

「いえ、そうではなくて・・・・・」

「ふっ、何も言わなくていい! 分かっている!」

 フレデリカの意見を一切聞かずに、エレジタットはその場で意味もなくターンを決めた。まるで理解不能な行動をとった後、エレジタットはフレデリカをびしりと指差し叫んだ。

「我こそは、神速の剣豪・エレジタット!! 剣を使わず、『邪魔者を排除する能力』で敵を倒す、一撃必殺の剣豪だ!!」

 フレデリカは思わず、目を丸くした。

魔将軍や新米魔族達も唖然とする。

 でも・・・・・、とフレデリカは思う。

 何故だろう・・・・・?

『『お天気を予報する能力』と『お天気を変える能力』だと! なかなかやるではないか、貴様!』

 先程の彼の言葉を聞いた途端、フレデリカは何故だか分からなかったが、一瞬、嬉しかった。

 多分、初めて兄以外の人が自分の力を認めてくれたからなのだろう。

 フレデリカは一呼吸おくと、慌てて言い直した。

「・・・・・あっ、いえ、私が言いたかったことはそういうことではなくて、私の『お天気を予報する能力』と『お天気を変える能力』の話を聞いて笑わなかったのはあなたが初めてで・・・・・」

 そこで、フレデリカは言葉を止めた。あくまでも沈黙を保つエレジタットの態度に、冷ややかな不安を覚えたからだ。

「・・・・・って、あの、ちゃんと聞いていますか?」

 まるで何も聞いていないかのようなエレジタットの態度に、フレデリカは不安げにおずおずと聞いた。

 すると満足そうに、エレジタットは深く頷いた。

「ああ、分かっている! つまり、貴様が言いたいのは――――」

 得意げにグッと拳を握り、天に突き出して、エレジタットは誰かに宣言するかのように高らかに言い放った。

「この星を救えるのは俺様だけだってこと――――なんだろう?」


「全然、違うでしょうが―――!!」

 フレデリカのその語りに、テレフタレートは思わず突っ込んだ。

「私はこの時、エレジタット様を素敵だと思ったんです」

 フレデリカはそう言ってうっとりとした。

「普通、思わないわよ! 普通! ねえ、レシオン!」

「あ、ああ」

 テレフタレートの言葉に、レシオンも同意する。

 確かに誰も思わないだろう・・・・・。

 フレデリカさん以外は・・・・・。

「・・・・・って、聞いているの! フレデリカ!」

「それに、私がお花を助けようとしたときも・・・・・」

 だが、レシオンの言葉も、テレフタレートの反論をもさえぎって、フレデリカは再び語り始めるのだった。


 それはある日の朝だった。

 フレデリカは魔王城の外にある小さな花が一輪、誰かに踏まれているのを見つけた。

「あっ、花が・・・・・」

 フレデリカはしょんぼりとぺしゃんこになっている花を見つめた。

「私の力で治してあげられたらいいのですが・・・・・・。 あっ、それなら!」

 ふと思いつき、フレデリカはかがみこんで『お天気を変える能力』を使ってみた。暖かな光が手のひらから溢れ、空へと昇っていく。

 すると、どうだろう。

 曇りがちだった空は、晴れ晴れしい空に変わり、ぺしゃんこだった花は、少しだけだが首をもたげていた。

「ごめんなさい。 私の力ではこれが限界みたいですね」

 少し辛そうに、フレデリカは花にはにかんでみせた。

 その時だった。突然、誰かの叫び声が聞こえてきた。

「そいつにさわるなっ! 敵のワナだっ!」

 フレデリカは驚いた。

 何故なら、そう告げたのは以前、フレデリカが出会った赤い髪の魔族の青年――エレジタットだったからだ。

 かくして、エレジタットはフレデリカに言った。

「手を食いちぎられるぞっ!」

 

「――――ということがあったんです」

 ルトンの塔に向かうまでの道のりには一面の砂漠地帯が広がっていた。砂風に長い黄緑色の髪をなびかせながら、フレデリカは深く大きな溜息をついた。

「えっ、エレジタットさん、何だか出会った時よりもいろいろ悪化しているような・・・・・」

 レシオンはものすごく困った表情で薄笑いをしてみせた。

 何て言うか、とにかく、なんと言えばいいのか分からなかったのだ。

だが、とりあえず普通の花に手を食いちぎられることはない。

間違いなくない。

「私はこの一言で、エレジタット様のことをもっと好きになってしまったんです」

「す、好きになるような出来事なのかな?」

 フレデリカの言葉に、レシオンは乾いた笑いを浮かべていた。

「そして、その後・・・・・」

「え・・・・・えっと、まだ、続くですか・・・・・?」

「もちろんですよ!」

 と顔をしかめて、レシオンは聞いてみたが、フレデリカは嬉しそうにそう言うと、構わず話を続けた。


 魔王城の一角に小さな庭園があった。かって、フレデリカが『お天気を変える能力』を使って小さな花を助けたところだ。そこには、互いに向かい合うエレジタットとフレデリカの姿があった。

 フレデリカは両手を胸に当てて、そして大きく息を吸い、切り出した。

「私、いつも無理をしていました――。魔王の腹心とも言われている魔将軍の妹だから、しっかりしないとって・・・・・」

 フレデリカは瞳を潤ませ、以前、助けた小さな花を見つめた。

つぶれていたはずの花は、フレデリカの助けもあってか無事に元気な花を開かせていた。

「でも・・・・・、あなたと――エレジタットさんといる時だけは何故かほっとできた――――」

 と、フレデリカはエレジタットのことをじっと見つめる。

「私――――、私――――エレジタットさんが好きなんです・・・・・っ!」

 フレデリカはそう言うと、頬を桜色に染め、とびっきりの笑顔を見せた。


 そうか・・・・・!

 そうなんだ・・・・・!

レシオンはそこでハッとする。

 エレジタットさんの変な行動は全てフレデリカさんのなな心を開かせるために・・・・・!

 エレジタットさん、すみません。

 誤解していました・・・・・。

 レシオンはしみじみと謝罪した。


「エレジタットさんは、エレジタットさんは私のこと――――、どう思っていますか!?」

 フレデリカはもどかしそうにエレジタットを見つめた。

「俺は貴様のことを――――」

エレジタットが晴れやかな笑顔を見せる。それを見て、フレデリカも笑みを浮かべかけて――。

 むぎゅっ!

 エレジタットが思い切り、フレデリカの頬をつね上げた。

「許さんっ――――!!」

「ええっ!?」

 フレデリカは驚いた。

驚いてしまった。

 何故なら、そう言われるとは思ってもいなかったからだ。

「何寝ぼけたことを抜かしている!? 誰が『魔王』だ。 そんなたわけた言葉を吐いたのはこの口か、この口かっ!?」

「いたたた、痛いです、エレジタットさんっ! 何で怒っているのですか?」

「分からんのか、貴様」

 むぎゅむぎゅむぎゅっ!

 エレジタットはさらにデタラメに、フレデリカの頬をこねくり回す。

「痛い、痛いです、エレジタットさんっ――!」

「うるさいうるさい! 問答無用だ!」

「ううっ・・・・・!」

 フレデリカはじたばたもがくのだった。

「誰が『魔王』だ。 『魔王様』だろうが!」

「えっ?」

 さらに驚きの声をあげるテレフタレートに、エレジタットはますますムッとなる。

「まだ言うか、貴様」

 不機嫌そうにそう告げるエレジタットに、フレデリカはゆっくりと首を横に振った。

「・・・・・えっと、『魔王様』ですね!」

 フレデリカはにっこりと笑ってみせる。

「うむ、そのとおりだ!」

エレジタットがぽんぽんとフレデリカの肩を叩く仕草をした。

「・・・・・あ、あの」

 その言葉を口にするべきが一瞬、迷った。しかし、こらえきれなくなって、フレデリカは訊いた。

「あ、あの・・・・・。 では、エレジタットさんのこともエレジタット様とお呼びしてもよろしいですか?」

「もちろんだ!」

 と、エレジタットは即答した。

「貴様、フレデリカだったか。 なかなか見る目があるではないか! わははははっ!」

妙に納得したように、エレジタットは興奮した口調で言った。


「そして、それから私はエレジタット様のことを『エレジタット様』と呼ぶようになったんです」

「・・・・・・・・・・」

 レシオン達は無言で、フレデリカが語るエレジタットの自信に満ちた栄光話(?)を聞いていた。実のところ、レシオンは彼女の見解にはすごくすごく懐疑的だった。

 なぜなら、全く訳の分からない話だったからだ。

まあ、エレジタットさんらしいといえば、らしいけれど。

 でも、それでエレジタットさんのことを好きになるフレデリカさんもどうなんだろう?

 考えていても結論は出そうもないので、レシオンはもうひとつのずっと気になっていることをエレジタットに訊ねてみることにした。

「・・・・・あの、エレジタットさん」

「なんだ? まだ、おまえ、立っていたのか?」

「・・・・・ずっと、立っていましたけれど」

「てっきり、この砂漠の暑さでバテたと思っていたぞ!」

 あっさりと無情なことを、エレジタットは言った。

 でも、エレジタットに特に情について説いても仕方がない気がしたので、とにかく疑問を投げかけることに徹してみた。

「どうして、エレジタットさんは魔王様の配下になれたんですか?」

「無理やりだ!」

「ええっ!?」

 レシオンは目を丸くした。

「無理やりっ? ・・・・・って、エレジタットさんの実力で無理やりは無理な感じがするけれど・・・・・」

「ずばり、魔王様に土下座して頼み込んだのだ!」

「はあっ!?」

 レシオンは絶句した。

「俺はかって魔王様に助けてもらったからな。 だがら、絶対に魔王様の配下になると決めていたのだ!」

「えっ? 助けてもらったって?」

 レシオンは首を傾げた。

 どういうことなんだろう?

 助けてもらった、ってことは命を救われたということなのかな?

「実はな、宿代を貸してもらったのだ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」

 レシオンが声を発するまでに、しばらくの時間がかかってしまった。

 レシオンは恐る恐る尋ねた。

「そんな些細な理由で?」

「些細ではない!」

 エレジタットは地団駄を踏んだ。

「俺はあの時、一銭も持っていなかったのだ。 あのまま、飲まず食わずでいては死んでしまうではないか!」

 レシオンの目に、エレジタットの瞳にメラメラと燃え上がる炎がはっきりと映った。

 いや、まあ、確かにそうだけど。

 だから・・・・・って。

「俺はあの時、誓ったのだ! 俺様が仕えるべき主はあのお方だとな!!」

 吠えまくるエレジタットの姿を横目で見ながら、レシオンは嘆息した。

 そして思った。

 エレジタットさんにそれなりの理由を期待した自分が馬鹿だったと。

「・・・・・で、あんたは何て答えたのよ?」

 先程から、ずっと黙っていたテレフタレートが口を開いた。

「どういう意味だ?」

「だから、その後、フレデリカの告白に何て答えたのよ?」

エレジタットの疑問に、テレフタレートは右手を腰に当てて告げた。

そういえば、確かにその話は聞いていなかったよな。

エレジタットさんはあの後、何て答えたんだろう?

満としてエレジタットは言った。

「わははははっ! 残念だが、貴様などに答えられるわけないだろう! 何故なら、我こそは、神速の剣豪・エレジタット!! 剣を使わず、『邪魔者を排除する能力』で敵を倒すことしかできない最強の剣豪だ!! 貴様などとは明らかにレベルが違うのだ!!」

「レベルが違うのはあんたの方よっ――!!! というか、私が聞いているのは告白の話よっ!」

 テレフタレートは怒りのあまり、地団駄を踏んで叫んだ。

「――フレデリカ、さすがにあんたは言えるんでしょうね?」

 不快な目でこちらを見るテレフタレートに、エレジタットがフレデリカの代わりに答えた。

「言えるわけないだろう! 何故なら、貴様と俺様では雲泥の差があるのだからな! 貴様では俺様には勝てんとは言えぬだろう!」

「・・・・・・・・・・・ちょっと、あんた、こっちに来なさい」

 テレフタレートは掠れた声で告げた。そして、エレジタットに対して手招きをする。

「なんだ、突然? さてはついに貴様も俺様のすごさを分かってきたということなのか?」

「てぇいっ!」

 ばきっ!

 テレフタレートは躊躇なく、バックステップで握手を求めてきたエレジタットの手を避けると、無意識のうちにがら空きになったエレジタットの顔面に、右拳を五発、連続で叩き込んでいた。

「ぐわぁっっ!?」

 と叫んで、エレジタットは地面に大の字にひっくり返り、そのままピクピクと痙攣した。

「エレジタット様っ!」

 フレデリカが悲鳴を上げて、エレジタットに駆け寄る。

「どうっ! これが雲泥の差よ!」

 と、テレフタレートは右拳を突き上げて誇らしげに言った。

 そう言ったのだが、しばらくするとテレフタレートは少し自己嫌悪に陥ってしまったらしい。ぶつぶつとつぶやきながら、エレジタット達をじっと見つめていた。

「あっ、あはは・・・・・。 まあ、少しだけやりすぎたかもね」

「あのな・・・・・、テレフタレート・・・・・。 少しどころじゃ・・・・・」

「何よっ! 私は悪くないのよ! 悪くないんだからねっっ!!!!!」

 唖然とするソーシャルを尻目に、テレフタレートは途方に暮れたようにそう絶叫するのだった。


   


「あの、フレデリカさん」

 レシオンは、フレデリカにぎりぎり聞こえる声ぐらいの小さな声で呼びかけた。

「はい?」

 声はちゃんと彼女に届いた。フレデリカは前を歩くエレジタットからレシオンへと顔を動かした。

 レシオンはちらりとエレジタットを見た。エレジタットは同じく前を歩いているテレフタレートとの先程の言い争いに集中している。声を低めれは、こちらの会話は聞こえない。多分。

 レシオンは言った。

「・・・・・本当は、エレジタットさんは何て言ったんですか?」

「『俺様についてくれば間違いはない!』・・・・・・です」

 フレデリカはにこっと自然な様子で微笑んで、レシオンに言った。

「そ、そうなんですね」

レシオンは顔をしかめた。

 でも、エレジタットさんは間違いだらけのような気がするけれど・・・・・。

 というか、これって肯定なのか、不定なのかが全く分からないし。

 それに・・・・・。

 レシオンは落ち着いたトーンの声で訊いた。

「じゃあ、何でさっき、エレジタットさんはそう言わなかったんですか?」

「きっと、照れ隠しです!」

「わっ!?」

 突然、レシオン達の会話にファティ達がひょっこりと割り込んできた。

「やっぱり、『運命の出会い』なのです! まさに『運命のめぐり合わせ』なのです!」

「そんなわけないだろうが・・・・・」

 満面の笑顔で言うファティに、メイルは呆れたように溜息をついた。

「・・・・・『運命の出会い』か」

ルーンは大きな瞳を潤ませてうつむく。

「早く、私もソディに会いたいな」

ソーシャルはゆっくりと息を吸い、そして微笑んだ。

「きっと、また出会えるさ。 会いたいと思っていたら、絶対にな」

「うん、ありがとう、ソーシャル」

 ルーンはぱあっと顔を輝かせた。

「ねえねえ、メイル」

「だめだからな」

 目を輝かせて言うファティに、メイルは間一髪入れずに言った。

「えっ? まだ、私、何も言っていないです」

「・・・・・言わなくても分かる。 どうせ、エレジタットさんとフレデリカさんのことを応援したいとか言うんだろう?」

「わあっ!? メイル、すごいですっ――!! よく分かったですね!!」

 ファティは言った。どこか笑みをたたえた瞳で、メイルを見つめて。

 バレバレだろうが・・・・・。

「とにかく、だめだからな! だいたい、アプリナは考えなさ――」

「いいのです!! この、愛のルールブックである私が決めたんだからいいのです!!」

 ファティはメイルが何かを言おうとする前に、そうはっきりと宣言する。

 いつから、愛のルールブックになったんだ?

 というか、この間は歩くルールブックって言っていなかったか?

 メイルはひたすらそう思った。だがこれ以上何も反論できなかったのは、きっとファティの言った中身ではなく、一気にまくし立てられた勢いに呑まれたせいだろう。

「ちょっと、あんた達、早くしなさいよね!」

 その時、不満げなテレフタレートの声が聞こえた。見ると、テレフタレートが右手を腰に当ててこちらを凝視していた。

「ああ」

「はいです!」

 ファティはレシオン達とともに先頭をさっさと歩いているエレジタット達を慌てて追いながら、その背中を熱い視線で見つめた。

 やっぱり、エレジタットさんとフレデリカさんは運命の出会いだったのです!

 フレデリカさんがエレジタットさんのことが好きなように、きっとエレジタットさんもフレデリカさんのことが好きなのです!

 ファティの胸に、喜びの火種がぼうっと一気に燃え上がった。

「早く、ルトンの塔に行くですよ!」

「おい、アプリナ!」

 ファティはこみ上げてくる笑いを隠そうともせず、メイルの手を引いてテレフタレート達の後をついて行った。











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