表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/23

第十七章 攻防のリフレイン

久しぶりの投稿です。

5巻が手元になくなったので掲載しています。

6巻について、重要なお知らせとお詫びを活動報告に載せています。

ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。

もしよろしければ、どうかよろしくお願い致します。

 その五人に出会った時、ダオジスは金色の髪を肩まで伸ばし、顔立ちはまだ青年へと至ったばかりであり、目つきは鋭く、胸には野心を秘めた青年だった。場所はランリールの街の南西にある『月の時計塔』の森の中で、目の前には十数匹の魔物達がひしめいていた。

「・・・・・大丈夫ですか?」

 というのが、白いコートの女性――インフェルスフィアの第一声だった。

「・・・・・おまえが、ダオジス=ロイド=ルイヤか?」

 というのが、黒いコートの男の第一声だった。

 その時、ダオジスは配下である青い髪の男――イルニスとともに全身を疲労に支配され、魔物達の鋭利な牙や爪により無数の傷を負い、今まさに命を落とす寸前のところだった。






「・・・・・久しぶりですね? ダオジス=ロイド=ルイヤ」

「・・・・・あ、ありしあ?」

 気がつくと、テレフタレートはそうつぶやいていた。

 いつの間にか、ダオジスの前に白いコートの女性が立っていた。まるでこの地を照らす月の光のような美しい金色の髪。そして、アクアマリンのように淡く青い瞳がダオジスのことを見据えていた。その女性の容姿を見て、レシオンとファティとメイル以外のみんなは驚きの色を隠せなかった。何故なら、彼女はありしあと瓜二つだったからだ。

 レシオンとファティ、そしてメイルは彼女のことを知っていた。

「あなたは――」

「あの人って――」

 レシオンとファティは同時にそれぞれの言葉で叫んでいた。

「「インフェルスフィア!!!!!!」」

 それは紛れもなく、封印の魔女と呼ばれる存在――インフェルスフィアだった。

「ちょっと、どういうことよ! インフェルスフィアとありしあって、姉妹なんでしょう? それなのにどうして、あんなにそっくりなわけ?」

「・・・・・さあ、それはよく分からないんだけど。 ・・・・・でも、間違いなくあの人はインフェルスフィアだと思う!」

「ふ―ん。 ・・・・・でも、何か、姉妹っていうより、双子みたいよね?」

 テレフタレートが意表を突かれた表情で、そう尋ねてきたけれど間違いない。

 以前、黒いコートの男によってユヴェルの地に連れて行かれた時に、出会った女性だ。ありしあの姉であり、そして自分達を救ってくれた青いコートの男の娘でもある。

 ・・・・・でも、何でここにいるのだろう?

 確か、あの時、インフェルスフィアは青いコートの男と対峙していたはずだ。それなのに、どうしてここにいるのだろう?

オルファスさんは大丈夫だと言ってはいたが、もしかしたら青いコートの男の人は彼女にやられてしまったのではないだろうか?

「・・・・・まさか、貴様、自らがここに来るとはな。 インフェルスフィア」

「お久しぶりですね。 ダオジス=ロイド=ルイヤ」

ダオジスの言葉に、インフェルスフィアが前に出て静かに告げた。

「何年ぶりでしょうか? あなたが私達の元を去ってから随分、経ちますね」

「茶番はやめてもらおう。 貴様はここに何をしに来た?」

 インフェルスフィアの声をさえぎり、強い調子でダオジスは言った。

「貴様も『イドラ』を捕獲するために来たのか?」

 レイチェルは首を縦に振った。

「ええ、そうです。 儀式の準備はすでに整っています。 あとは『イドラ』を捕らえるだけなのです」

「『イドラ』だと・・・・・! 貴様らは『イドラ』を捕らえて、何をするつもりだ?」

 ダオジスの疑問に、インフェルスフィアは両手を前に組んで祈るように答えた。

「ユヴェル様が復活するためには、『イドラ』の力が必要なのです」

 失望を隠そうともせずに、ダオジスが言った。

「それこそ、くだらんな。 『海の秘宝』の力を使って、私は今、全てを超越した存在となった。 貴様も、そしてユヴェル自身も、もはや私の敵ではない!」

 ダオジスの台詞をあざ笑うかのように、それまで黙っていたストラが「くっ、くっ」と喉を鳴らした。

「はははっ! だから、『海の秘宝』も所詮、ユヴェル様が造りだしたもの。 従って、『海の秘宝』でユヴェル様を越えることなんてできないのさ! そして、封印の魔女であらせられるインフェルスフィア様にも勝つことなんてできないし!」

笑いながらそう告げるストラに、ダオジスは一瞬で顔色を変えた。

「・・・・・先程も貴様はそう言ったな」

「ああ。 何度でも言うさ。 『海の秘宝』の力で、ユヴェル様を超えることはできない。 いや、できるわけがないのさ!」

 屈辱がダオジスのすべてを包み込み、恐怖とは違う感情にダオジスは打ち震えた。そして小刻みに震える身体を必死に押さえつけながら、自分に屈辱を与えたストラを睨みつけた。

「・・・・・なら、今ここで試してみるか?」

 と、ダオジスが冷たく告げた。

 それに応えるように、インフェルスフィアは頷いてみせた。

「そうですね。 あなたが『海の秘宝』の力を使って、どこまで強くなったのか、試してみましょうか?」

 それは静かな宣戦布告だった。

 ファティとメイル、そしてルーンはその瞬間、二人から放出された魔力に目を見開いた。

「――な、なに? この感じ?」

 突然の急展開のさらなる急展開についていけなかったらしく、声もなく事態の推移を見守っていたルーンが切羽詰まった声を出した。

「ダオジスさんとインフェルスフィアさんの元に、すごい力が集まってきているみたい!」

 ルーンのいう通りだった。ダオジスの周囲から黒い瘴気が立ち昇り、周囲の空気を振動させていく。対するインフェルスフィアの周囲からは白いオーラが立ち昇り、同じように周囲の空気を振動させていった。

「こ、これって――」

ルーンと同じように事態の推移を見守っていたレシオンは瞳を大きく見開き、言葉を詰まらせる。

例え、彼らとまともに渡り合うことができないとしても、不意を突けば、何とかしのげるとレシオンはそう思っていた。だが、その己の不明を恥じずにはいられない。これはモノが違う。

「――・・・・・滅びなさい」

インフェルスフィアの手のひらに、強大な魔力が集束していく。

 ダオジスは対抗するだけではなく、圧倒するための力を放とうとした。

「――・・・・・食らうがいい!」

「ま、まずいのです!」

「みんな、集まって!」

 ファティとルーンが、慌ててレシオン達を守るための力を使う。レイチェルとストラ、そしてイルニス達は短距離のテレポートを使い、その場から離れた。間にいる者はつまらない羽虫のように巻き込まれてしまう。そしてこの暴虐の力の持ち主達は、そんなことを一切、意に介さない。


 インフェルスフィアの魔法と、ダオジスの魔法。

 二つが同時に爆発した。それらは一つだけ放たれていれば、辺りを滅ぼすほどのものだっただろう。だが、二つの力は衝突し、相殺した。白いオーラが、黒い瘴気が、互いを打ち消し合ったのである。


「・・・・・・・・・・くっ」

 ダオジスは膝をついた。身体中の力を根こそぎ持っていかれるような消耗だった。肩で息をしながら、前を睨みすえる。

対するインフェルスフィアは息を乱してはいるものの、膝をつくこともなく、その場に立っていた。

ダオジスは『海の秘宝』の力を手に入れたとはいえ、まだ魔力の点でインフェルスフィアに劣っていた。そのツケを支払うことになったのだ。

「ダオジス様!」

離れた場所でその様子を見守っていたイグニスが、ダオジスの元へ駆け寄ろうとした。

だが、それを防ぐようにストラが立ち塞がる。「イルニス、おまえの相手は俺だ」

「・・・・・くっ」

 イルニスが悔しげにうめく。

「ちょっと、これってどういうことよ!」

 その様子を今まで黙って見ていたテレフタレートだったが、こらえきれなくなったのか、そう叫んだ。

 その言葉とその口調が、テレフタレートの焦燥を明らかに表現していた。無理もないだろう。ダオジス達とインフェルスフィア達の攻防は、レシオン達の想像の域をはるかに超えていた。

「う―む、悩むな・・・・・」

「えっ?」

 明らかに場違いな声がレシオンの後ろから聞こえた。見れば、エレジタットが小難しい顔で何やら思い悩んでいる表情をしている。

 フレデリカが不思議そうに首を傾げた。

「どうかされたのでしょうか? エレジタット様」

「・・・・・ダオジスとインフェルスフィア――――」

 得意げにグッと拳を握り、天に突き出して、エレジタットは誰かに宣言するかのように高らかに言い放った。

「どちらを応援するべきか悩むではないかっ!!」

「・・・・・あっ、はい! そうですね! エレジタット様!」

「どちらも応援する必要ないでしょうがっ―――!!」

 エレジタットとフレデリカの和気藹々とした語らいに、テレフタレートは思わず突っ込んだ。

「・・・・・どうすれば、いいんだ・・・・・」

 ソーシャルは自分の剣の柄をじっと見つめた。

 もしかしたら、このまま、インフェルスフィア達とダオジス達、両方と戦わなくてはならないかもしれない。

 だが、逃げるわけにはいかなかった。

 いくらこのリンフィ王国が結界によって護られているとはいえ、彼らの攻撃にどれくらい耐えられるかは分からなかったからだ。

 視線を転じて、ソーシャルはレシオンとファティに向かって声をかける。

「・・・・・インフェルスフィア達は、俺達が何とかして食い止めます! レシオンさんとファティさんは、このままアレアの町に行って下さい! きっと、オルファスさんも近くにいると思います!」

「・・・・・そ、そんなっ!? ・・・・・お、俺達も戦います!」

ソーシャルの悲痛な叫びに、勇気を振り絞ってレシオンは叫んだ。

「私もです! 今こそ、『イドラ』としての真の力を解放する時がきたのです! ついに私が活躍する時がきたです!」

それに同意するかのように、ファティもソーシャルの要求をはねのけた。

「・・・・・『イドラ』の真の力?」

「・・・・・大丈夫なのかよ」

 思わず首を傾げるレシオンに対して、メイルは疲れ果てたように溜息をつく。

「大丈夫です! 『イドラ』としての真の力――、感じるです。 糸電話の糸よりも確かに感じる暖かなありふれた愛の糸を!」

ファティが両手を胸の前にあわせて言うと、メイルは後ずさって身構えた。

「それって、絶対に気のせいだと思うぞ」

 ファティはにこにこしたまま、メイルを見つめる。

そして、穏やかな笑顔のまま、こう続けた。 

「それに『イドラ』の力でないと、インフェルスフィアには勝てないような気がするです」

 ファティがそうつぶやくと、メイルはびっくりして目を丸くする。

「す、すごい根拠だな・・・・・」

「そうですか~。 でも、きっと、そうなのです」

 自問自答するように、ファティは遠い目で空を見つめていた。

 ・・・・・信じていいような気がするです。

 ・・・・・・自分の中にある真の力を。

「・・・・・やってみるですよ」

 ファティは笑顔で頷くと、一枚のカードを取り出し、それを空に掲げた。次の瞬間、カードから赤い閃光が放たれる。赤い閃光は炎の塊へと変換し、城の周りへとほとばしる。

「やった! です」

「あああ・・・・・っ!!」

 ファティとメイルは同時に叫んだ。

ファティはインフェルスフィア達に顔を向けて言った。

「私の勝ちです♪」

だが、その後ろからペチリとメイルに叩かれた。

「『炎のカード』を使って、お城を燃やしてどうするんだ! 相手はインフェルスフィア達とダオジス達だろう?」

「戦いっていうのは、諦めなければ何とかなるものです! メイル、前に私が言ったこと、覚えていないのですか?」

 いや、さっぱり。

ビシッ!! と音がしそうなほど人差し指を突き出し、ファティは言った。

「それに『イドラ』の力を使うことで、真の力が解放されていくのです!! さっき、そう思ったのです!!」

「・・・・・なんだ、すごい自信だな。 何か、根拠でもあるのか?」

「・・・・・根拠? ううん、そんなものないです。 もちろん、何となくです!!」

「はあっ?!」

 メイルは絶句した。もしかしたら、城が炎上していたのかもしれない。その可能性に気づき、メイルの顔が青ざめる。メイルは叫んだ。

「おっ、おいっ!? 何の根拠もないのにやるなよ!」

「きっと、力を使うことによって、『イドラ』としての真の力が解放されていっているのです。 何となく私にはそう思えるです。 それとも、他に何か理由が必要なのですか?」

「えっ? あ、いや、そういうわけじゃ・・・・・」

 ファティの放つ鉄壁の自信にされて、メイルも、そして、メイルの声が聞こえないはずのレシオン達も二、三歩よろめいた。

「私が言うんだから、絶対に大丈夫です!! だから、今は目の前の敵を倒すことにのみ、集中するです!」

 ファティにしてはまっとうな意見だった。あまりにまっとうすぎて、メイルは熱でもあるのかとファティの顔をまじまじと見つめてしまった。

「ふっ、読みが甘いな。 ファティ様」

「えっ・・・・・?」

突如、エレジタットにそう言われて、意外なところを突かれた、という顔をファティはした。

かくして、エレジタットは言った。

「力を求める者は力におぼれ、自滅するだけだ!」

「・・・・・あ、ああっ」

 エレジタットの力強い真理(?)の言葉に、ファティはよろめいた。

 だが、その痛烈な言葉に、驚きを隠せなかったのはレシオン達の方だった。

「・・・・・エレジタットさん、何か悪いものでも食べたんじゃないですか?」

 不安そうに、レシオンは頭を抱えた。

「そうよ! あんたの口から、そんなまともな台詞が出てくるなんておかしいわよ!」

 テレフタレートも疑いの目で食ってかかった。

「そんなことないぞ! ついに、俺様の真価が発揮されたということだけだ!」

 瞳をかっと見開き、エレジタットは喉の奥から低い笑い声をもらした。

「素敵ですわ、エレジタット様」

 フレデリカがそう言って、感激の声を上げた。

「・・・・・つまり――!!」

 ビシリ!! と指差し、エレジタットは言った。

「そんなあるかないか分からないような力に頼るより、もっと俺様に頼れということだ!!!!」

 どーん、と効果音が聞こえそうなくらい、痛烈な一言だった。

 そしてさらに恐ろしいことは、やはりエレジタットの言い分は正しくはなかったということだ。いや、正確には、前半部分は同意できるのだが、エレジタットの実力を知っているので、後半部分は全く持って同意できないという事実だけだった。

 エレジタットに突きつけられた痛烈な言葉に、ファティは顔を白黒させた。

 がくっ! とファティは、地面に両手を突き崩れ落ちた。

「そっ、そうだったのですかっっ!?」

「・・・・・いや、絶対に無理ですって」

 呆れたように、レシオンは頭を抱えた。

 エレジタットさんの実力で、インフェルスフィア達とダオジス達に対抗できるはずがない。間違いなく。

「あんた達、もう少し、危機感、持ちなさいよっ――!!!」

 テレフタレートは怒りのあまり、地団駄を踏んで叫んだ。

 確かにそうだよな。

 と、レシオンは思った。

 あのインフェルスフィア達だけではなく、ダオジス達とまで戦わなくてはいけない状況だ。

 それなのに、こちらには戦いのとなるオルファスさんがいない。

 これって、かなりやばい気がする。

「ふふふっ! ついについに・・・・・、俺様の出番がきたようだな!!」

「本当ですね、エレジタット様!」

 エレジタットが興奮してにたりと笑うと、フレデリカは相打ちを打った。

「我こそは、神速の剣豪・エレジタット!! 剣を使わず、『邪魔者を排除する能力』で敵を倒すことしかできない最強の剣豪だ!! 最も、相手が相手なので全く効果はなさそうだが――」

「無駄なことはやめるのだな」

 エレジタットの口上を打ち消すかのように、背後から冷たい声がした。 城門から、ひげをたくわえた壮年の男性と数人の兵士達がゆっくりと姿を現した。

 ソーシャルはそれを見て、くっと唇をかみしめる。

隣で見ていたテレフタレート達にも動揺が走った。

「・・・・・イグニシアスよ」

 冷たい目で見つめながら、リンフィ王国の国王ローレンス=ルウー=リンフィは、不肖の息子の前へと立ちはだかった。






「父上・・・・・」

「逃げようと思っているのなら、無駄なことだぞ」

 挑発するかのように、国王はソーシャルに言った。

「このリンフィ王国の周囲には、私が召喚した魔獣の結界を張った。 いかなる力も魔力も受けつけはしない。 術者である私が許可しない限り、であろうと抜け出ることはかないはしない」

「ふっ、俺の『邪魔者を排除する能力』は、結界に触れただけで」

 エレジタットは掛け値なしに真剣な顔で、国王に言った。

「あっさりと消し飛んでしまったな!」

「そんなのとっくに知っているわよ!」

 テレフタレートはエレジタットをにらみつけた。

「インフェルスフィアの者どもの狙いは、そなたら二人か?」

「だったら、何よ!」

 レシオンとファティに冷静に尋ねる国王に、テレフタレートがむっとした顔のまま、食ってかかった。

「あいつらが勝手に、レシオン達を狙っているだけなんだから!!」

「だが、奴らの狙いが、そなたらなのには変わりない。 そのせいで、我が国は今、危機に陥っているのだ!」

「・・・・・だ、だったら、レシオン達だけでもここから出しなさいよね!」

テレフタレートはったが、国王は厳かに首を横に振った。

「いや、そなたらには、しばらくこの国に留まってもらおう。 後に、そなたにはそれなりの刑を施さねばならないかもしれないからな」

「うっ・・・・・! って、それはレシオン達とは全く関係ないことじゃないの!」

「・・・・・貴様という重要警戒人物の娘の参考人として、残ってもらう必要がある」

「・・・・・ぐっ!」

 言い返すことのできぬ父の引け目に、テレフタレートは歯をきしませた。

「だが、しかし、これは我が国への宣戦布告とみてもとれる。 イグニシアスよ、これからすることに、そなたにも力を貸してもらおう」

 その提案に、ソーシャルはこれから国王がなそうとしていることを瞬時に理解した。そして、インフェルスフィア達とダオジス達の戦いの方へと視線をゆっくりと移した。

レシオン達がそんなやりとりをしている間にも、インフェルスフィア達とダオジス達の戦いはどんどん激化していっていた。

いくらこのリンフィ王国が結界によって護られているとはいえ、彼らの攻撃にそう長く耐えられるとは思えなかった。

 意を決した表情でソーシャルが国王に近づいた。

「・・・・・分かりました」

「ならば、よし」

 国王が告げた。

「ちょっと、ソーシャル! 勝手に決めないでよ!」

 ギッときつい眼差しで、テレフタレートがソーシャルを睨みつけた。

「・・・・・ごめん、テレフタレート。 でも、インフェルスフィア達とダオジス達、同時に相手をするわけにはいかない! もう、これしか方法はないと思う!」

 かすかに笑みを浮かべ、ソーシャルは答えた。

答えた後で、ソーシャルは何かまぶしいような表情を浮かべ、こう続けた。

「それに、これなら奴らに一矢、報いることができると思う!!」

 ソーシャルは力強く断言した。

「むむむっ・・・・・」

 ソーシャルの決意の固さに、テレフタレートは思わず、口ごもる。

「・・・・・大丈夫だから」

 テレフタレートの不安が消え去るように、ソーシャルは彼女の頭を優しくなでた。

「・・・・・本当に?」

「・・・・・ああ」

と言って、不満そうに見上げてくるテレフタレートに、ソーシャルは小さく頷いた。

 テレフタレートにそう言い残すと、ソーシャルと国王は、インフェルスフィア達とダオジス達と相対した。

「「我は召喚する!!」」

 ソーシャルと国王が声をそろえた。

 二人は目を閉ざし、両手を広げて何かを抱えるように前に伸ばした。

「「大地の巨人シグマよ、参れ!!」」

 彼らがそう告げた途端、薄闇に覆われていた空に異変が起こった。

先程までどこまでも真っ黒な雨雲に支配されていたはずの空が、突如、地上からでも見て取れる不可思議な動きを見せている。とあるポイントを中心に、螺旋を描くように渦を巻いているのだ。いつしか周囲には雷鳴が轟き始め、暴風が辺り一帯を襲い始めた。

 もちろん、天候の異変を察知したのはレシオン達だけではない。

激戦を繰り広げていたインフェルスフィア達とダオジス達もその攻撃を止め、上空の異変を見上げていた。

 レイチェルとストラが、そしてダオジスとイルニスが動揺したような声を出した。

「・・・・・こ、これはもしかして――」

「・・・・・インフェルスフィア様、この力は――」

「な、なんだ? これは・・・・・?」

「・・・・・ダオジス様!」

「・・・・・・・・・・」

 だが、インフェルスフィアは彼らの言葉には答えない。

 険しい表情で、めまぐるしく姿を変える上空の様子をじっと見つめているだけだ。

 突然の天候の変化にも驚いたが、それ以上にレシオンはインフェルスフィアのその姿に驚きを隠せなかった。あれほど険しい表情のインフェルスフィアにお目にかかったことはない。ユヴェルの地に連れられて初対面した時も、ダオジスと対決している時の表情も、このような険しさは微塵も浮かんでいなかったのだ。

 レシオンがインフェルスフィアの彼女らしからぬ態度を怪訝に感じていると、さらなる異変が上空に生じた。ゆっくりと、雨雲渦巻く中心の穴が大きく開いていき、そこから光が差し込んでくる。その大きく開いた光の穴から、巨大な巨人が突如、落ちてきたのだ。

 ズドォォォォォォォォォォンッ!!

 暴風や雷鳴が起こす錯覚や幻聴、ましては幻覚などでは絶対にない。確かに上空に開いた穴の奥から、巨人が降ってきたのだ。

しばらくうつむき、考え込んでいたエレジタットが意を決したように突然、顔を上げた。

「よく分からんが、これですべて万事解決だということだな」

「疑問だらけですって!」

 こんな時でも場違いな台詞を続けるエレジタットに、思わず、そう突っ込まずにはいられないレシオンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ