第十四章 帰れない場所
4巻の続きです。活動報告にも載せていますが、4巻分の投稿が終わったら何か新しい小説を書いてみようかなと思っています(*^^*)
秋の朝日って、どことなく春の日差しに似ているような気がする。
こんな光に包まれると、私はどうしても彼のことを思い出してしまうの。
春という季節とともに会えなくなってしまったソディのことを――。
「ここがオーダリ王国・・・・・」
ルーンはぽつりとつぶやいた。
その国の風貌は、ルーンが知る、六百年前のかって中和国と呼ばれていたオーダリ王国とは明らかに違っていた。人の出入りが活発で商業が盛んな雰囲気がある。六百年前のオーダリ王国は、もう少し和やかな雰囲気のある城下町だったというのに。
かっての面影のない故郷を見て、ルーンは悲しげにつぶやいた。
「また・・・・・、また、会えるよね。 ソディ・・・・・」
ルーンの囁きは、優しい微風とともに消えていった。
「はあ・・・・・」
レシオンは今日何度目かの溜息をついた。
ストラの攻撃によって吹き飛ばれたレシオン達がたどり着いた場所は、薄暗い石畳の回廊の中だった。しかも運悪く、ぽっかりと開いていた回廊の天井の穴に入り込み、最下層にあると思われる、かって書斎として使われていたらしい薄暗い部屋の中へと落ちてしまったのだ。
ここからレシオン達が目指すのは、もちろん上――この遺跡の入り口だった。
それにしても回廊の最下層。
この場所からどれほど上がれば、遺跡の入り口にたどり着くのだろうか?
上に昇るための通路は用心深く隠されていたりするのだろうか?
当然のことながら、レシオン達が落ちてきた穴ははるか遠くにあり、そこから脱出することはかないそうにもなかった。
そう考えると、レシオンは悲しくなってきて、がっくりと肩を落とすはめになった。
「大変なことになったね・・・・・」
ルーンが移動しながら、レシオンに同情の言葉を寄せてくれた。
「ここから出る方法が見つからないんだものね・・・・・」
「そうですね・・・・・」
レシオンはこともなげに答えた。
そうなのだ。
この部屋の扉は固く閉ざされており、押しても引いてもびくともしない。何か扉を開くスイッチのようなものがないだろうかとみんなで探してはみたものの、それらしき存在は今のところ、見当たらない。
「でやあっ!」
いきなり、テレフタレートは拳を壁に叩きつけた。
大きな揺れがレシオン達を襲った。テレフタレートが、自分の右腕を振るスイングで叩きつけたのだ。瞬く間に壁が無残にもえぐり取られる。それと同時に回廊の中がぐらりと大きく揺れた。
「どう。 自称・超一流の格闘家で、自称・世界一の賞金稼ぎの私の実力は?」
テレフタレートはまるで勝利を確信したかのように、威勢よくそう言い放った。
「何やっているんだよ! テレフタレート!」
壁を吹っ飛ばして満足そうなテレフタレートに、ソーシャルが腰に手をやって詰め寄った。
「別にいいじゃない! ちゃんと、ここから出られるんだし!」
「遺跡が半壊したら、もともこうもないだろう・・・・・!」
自信満々のテレフタレートだったが、ソーシャルは素っ気なく言い切った。
「まあ、何とかなったし、いいじゃない!」
「あのな・・・・・」
「でも、さすが、テレフタレートだね! あの壁を一撃で壊してしまうなんて!」
まだ不満げなソーシャルの声をさえぎって、ルーンが気さくな感じで話しかけてきた。
「えへへ、ルーン、ありがとうね!」
ルーンに誉められて、テレフタレートはさらに上機嫌になる。テレフタレートは声を弾ませて言った。
「それよりもソーシャル、早くここから出るわよ! 急がないと、またあいつらが襲ってこないとも限らないでしょう!」
「・・・・・ああ」
あくまでも反省の色がない彼女に小さな溜息をつくと、ソーシャルはそう答えた。
リサンブルク大陸。それが今、レシオン達がいる大陸の名前だ。
このリサンブルク大陸の南方の大陸内にあるリンフィ王国は、月の森と同様、妖精が存在している場所として知られている。ここの妖精は、この国から月の森へと渡っていたというのだ。それが本当なのなら、このリンフィ王国と月の森をつなぐ道があるのだろう、と伝えられている。
ただし、これは広く人に伝えられたおとぎ話としてのことだ。その伝承が本当のことか、嘘のことか、真意は定かではない。
「・・・・・すごいですね、すごいですね!」
ファティは回りをキョロキョロと見回しながら、回廊の奥へとどんどん足を踏み入れていった。
ここはいくつかの遺跡の中でも異色の存在だろうけれど、それでもやはり遺跡は遺跡はなんだなということを、メイルは探索を始めて間もないうちに身を持って知った。つまりこの遺跡にとっては、ファティ達は『招かれざぬ客』だということを認識してしまったのだ。
「・・・・・遺跡の入り口はどこです~~!」
数時間も迷ってしまった頃には、ファティのやる気は既にどこかに消え去ってしまったらしい。
「この遺跡、どこまで続いているんだ?」
メイルもうんざり気分でうつむいたまま、トボトボと歩いていた。
「こうなったら、歌うですよ!」
名案とばかりに、ファティは誇らしげに胸を張った。
「遺跡探索です♪ 遺跡探索です♪ 初めての遺跡探索なのです♪」
そう歌いながら、ファティは再び、満面の笑みを浮かべて歩き始める。
そんなファティを見て、メイルはこめかみを押さえ、がっくりと肩を落とした。
「あのな、遺跡探索は初めてじゃないだろう。 それにおまえ、先頭を歩いているけれど方向音痴だ――」
「あっ! です」
思わず、メイルがそう言いかけた時だった。突然、ファティが言葉を挟んできたのだ。
「いきなり何だよ?」
メイルは不愉快そうに言いながらも、ファティを見つめる。
ふと目を遣ると、彼女の視線は通路の先の三本の分かれ道にあった。
まさか・・・・・・!?
「分かれ道ですね! 任せて下さいです! ずばり、左の道が正しい道なのです!!」
と、ファティが笑顔を浮かべて言った。そしてビシッと思いっきり、左の道を指差した。
やっ、やっぱり・・・・・か。
メイルはガクッと肩を落とした。
「だめだからな! おまえ、今までそういうの当たったことがないだろう!」
動揺して叫びつつも、メイルは両手を交差してバツのサインを出した。
「よし、まずは左です! さあ、行くですよ!」
ファティはレシオン達の方へと振り向くと、メイルの言葉など聞こえなかったようにメイルから顔を背ける。
「おい! 無視するなよ!」
メイルは怒りのあまり、がむしゃらに拳を振り回す。
「ふっ、読みが甘いな。 ファティ様」
「えっ・・・・・?」
突如、エレジタットにそう言われて、意外なところを突かれた、という顔をファティはした。
かくして、エレジタットは言った。
「ずばり、右が正解の道だ・・・・・。 これは俺様の長年の感がそう言わしめている! 何故なら、右からは外からの――そう、すきま風が来ている!」
「・・・・・あ、ああっ」
エレジタットの力強い言葉に、ファティはよろめいた。
「・・・・・つまり――!!」
ビシリ!! と指差し、エレジタットは言った。
「状況的に、右が正解の道だということだ!!!!」
どーん、と効果音が聞こえそうなくらい、痛烈な一言だった。
そしてさらに恐ろしいことは、レシオンの価値観に照らし合わせても、メイル達の価値観に照らし合わせても、どう考えても正しいのはエレジタットの方だったということだ。
エレジタットに突きつけられた痛烈な言葉に、ファティは顔を白黒させた。
がくっ! とファティは、地面に両手を突き崩れ落ちた。
「そっ、そうだったのですかっっ!?」
「・・・・・エレジタットさん、熱でもあるんじゃないですか?」
不安そうに、レシオンは頭を抱えた。
「そうよ! あんたの方が正しいなんて何か悪いものでも食べたんじゃないの!」
テレフタレートも疑いの目で食ってかかった。
「そんなことないぞ! ついに、俺様の真価が発揮されたということだけだ!」
瞳をかっと見開き、エレジタットは喉の奥から低い笑い声をもらした。
「素敵ですわ、エレジタット様」
フレデリカがそう言って、感激の声を上げた。
「あの、一つ、聞いてもいいですか?」
自分で自分の言葉に感動していたエレジタットは、横合いから声をかけられ、視線を向けた。彼の横には、ルーンが困ったような表情でこちらを見つめている。
エレジタットは満として訊いた。
「何をだ?」
「風が来ているのは、真ん中の道じゃないかな?」
「な、何を言っている!?」
エレジタットは目を剥いた。
だが、ルーンは悲しげに首を振った。
「だって、ほら?」
近くに落ちていた干からびた布を拾うと、ルーンはそれぞれの道まで持って行った。布が唯一、ひらりと揺れたのはルーンが言うとおり、真ん中の道だけだった。
「真ん中の道から、風が来ているみたいだよ!」
「ば、馬鹿な・・・・・。 な、なぜだぁぁぁぁぁ――――っ!! 俺様の長年の感は冴え渡っているはずなのにぃぃぃぃぃ――――っ!!」
「そ、そんな・・・・・」
エレジタットの悲鳴とフレデリカの嘆きは、まさにぴったり同時に発せられた。
だが、エレジタットはそれでもなお訴えた。
「ならば、こういうことでないのか? 宇宙より飛来した謎の生命体。 誰もが気づかぬうちに、その生命体はこの遺跡の中へと降り立っていた! 迫る宇宙船の着陸音と豪風! 銀河を埋め尽くす銀色の飛行物体!! 来たれ、全宇宙の覇者、神速の剣豪、エレジタット!! この世界を護るのだと!!」
「すごいです! すごく面白そうなのです!」
ファティは飛び上がって、エレジタットの意見を歓迎した。
レシオンはしみじみと思った。
何だか、映画の宣言告知みたいだな。
そして、やっぱりエレジタットさんはエレジタットさんだったな、と――。
もちろん、レシオン達の進む道がいつまでも無人というわけではなかった。そんなやり取りをしていたレシオン達の前に、いつのまにか魔物達がレシオン達の行く手を阻むように出現した。
「・・・・・そんなことより、あんた達もちょっとは戦いなさいよね!」
魔物の姿を見つけた瞬間、テレフタレートは含み笑いをした。
「まあ、こんな奴ら、私一人でも充分だけどね!」
それだけ言い残すと、テレフタレートは喜々として魔物の群れに突撃し、縦横無尽に投げ飛ばし、叩き潰した。
「分かっているって!」
その間にレシオンは両手を振りかざし、二つの腕輪を魔物達めがけて繰り出した。光を放つチャクラムのようになった二つの腕輪が次々と、右に左に前へ後ろへと縦横無尽に魔物達を切り裂いていく。
「レシオンさん、すごいです! 私達も負けていられないですよ、メイル!」
「ああ」
アプリナはカードを取り出すとそれを空に掲げた。カードから青い閃光が放たれる。瞬く間にアプリナが放った氷の渦は、魔物達の身体を身動きができないぐらいに縛り上げていく。
「打ち消せ!」
そこへ苛立たしげな魔物達のほうこうをさえぎるように、ソーシャルが長い跳躍から長剣の一撃を放った。
「――フォリーンリーフ!!」
ソーシャルが剣をかざして叫ぶと、虚空から無数の光の刃が凍りついた魔物達に降り注いだ。とても避けきれる数ではない。
「ぐがぁぁぁ・・・・・」
それだけつぶやくと、魔物達はその場に崩れ落ちた。
「まあ、楽勝だったわね!」
テレフタレートは腰に手を当てると、満足そうに周りを見回した。
「じゃあ、先に進むわよ!」
「なあ」
「何よ?」
レシオンは歩き出そうとしていたテレフタレートを呼び止めた。
「テレフタレートはここに来たことがあるのか?」 テレフタレートの瞳を見つめたまま、レシオンが言う。テレフタレートはレシオンの質問の意図が分からず、思わず目を瞬かせた。
「はあっ? 来たことないわよ! だいたい、来たことがあるのなら、迷ったりしないでしょうが!」
憮然な態度で答えるテレフタレートに、レシオンはさらに質問を重ねる。
「そうだよな。 なら、ソーシャルさんはここに来たことがあるのか?」
核心に迫りそうなレシオンの質問に、思わずテレフタレートは目を見開いた。
はたして、レシオンは言った。
「いや、先程からソーシャルさんの様子がおかしいなと思って・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
確かにソーシャルの様子がおかしいことは、テレフタレートもうすうす気づいていた。時折、じっと回りを見回したり、何かを考え込むかのようにうつむいたりしている。もしかしたら、レシオンの言うとおり、ここに来たことがあるのかもしれない。
そういえば、あの馬鹿親父が言っていたっけ。
ソーシャルとは遺跡の中で出会ったと。
「・・・・・まあ、あいつにもいろいろと事情があるのよ」
テレフタレートはそれだけを言った。
知らないわよ。
何も・・・・・。
出会う前のソーシャルのことなんて・・・・・!
今までどこに住んでいたのか、どこで何をしていたのか、私は何一つ知らない。
だって、知る必要なんてないと思っていた。
いつでも、うっとおしいくらいにそばにいたから。
いつのまにか、それが当たり前だと思っていた。
唯一、知っていることといえば、あの不思議な能力のことだけ。
テレフタレートは大きく頷いた。
まあ、いいわよ!
それだけで!
ソーシャルが、私のお兄ちゃんなのは変わらないんだから!
テレフタレートはを返し、回廊の奥へと入っていく。レシオンは不思議な気持ちでその後についていった。みんなが石の階段の下に立つと、テレフタレートは振り返って不服そうにこう言った。
「ちょっと、何よ、これ? まるで、あのルトンの塔の階段みたいじゃないの!」
「・・・・・また、前みたいに壊すなよな!」
ソーシャルは階段を見上げると、すぐにテレフタレートに振り返り、念を押した。
テレフタレートはかって、『ルトンの塔』の長蛇の階段を見て『こんなの昇れないわよ!』って言って、階段ごと塔をぶち壊した一件がある。それ以来、また壊さないかとソーシャルの悩みの種となっていた。
そんないつもの二人のやりとりを見て、思わず笑みを浮かべてしまったレシオンだったが、階段を登り始めてからはそんなことも言ってられなくなった。何しろ、いつまで経っても、この階段の最上階が見えないのだから。
「いつまで続くですか~。 この階段~」
階段を昇るまでは俄然やる気だったファティさえ音をあげるほど、そのの階段は長かった。昇りに昇って、踊り場が見えてきた時、レシオン達はやっと最上階に着いたことを知ったのだった。
「やっと、着いたです~」
ファティの声にレシオンが顔を上げると、彼女の目の前に重々しい扉が見えた。
レシオンもファティ達も、扉の前にたどり着いた瞬間に床にべったりと腰を落とした。そしてみんなの呼吸が荒く響く中、エレジタットが最後に踊り場にたどり着いた。
「はあ、ひい・・・・・、こ、これは陰謀だ! ・・・・・ま、まさに宇宙から飛来した謎の生命体どもの陰謀に決まっている!?」
「大丈夫ですか? エレジタット様」
仰向けに倒れ、胸を大きく上下させているエレジタットをフレデリカが心配そうに助け起こす。
「あ、あの、大丈夫ですか? エレジタットさん」
ぜえぜえと呼吸を繰り返すエレジタットに、レシオンが訊いた。
「も、もちろん、だ。 ・・・・・し、神速の剣豪、エレジタット様に不可能はない!」
膝に手を当てエレジタットが立ち上がった姿を見て、レシオンが重い扉を押し開ける。
でも、エレジタットさんは不可能だらけのような気がするけれど・・・・・。
「こ、これって・・・・・」
扉を開けたレシオンは驚嘆の声を上げた。
扉の先には想像していた通路ではなく、先程の書斎と同じような殺風景な部屋が広がっていた。上にはオープン式の丸く大きな窓が開いており、そこからすきま風が入り込んでくる。恐らく、先程感じた風はここから来ていたのだろう。
部屋へ足を踏み入れた瞬間、レシオンの視線は床に釘づけになった。
これって・・・・・!?
階段の疲れのことをころりと忘れ、レシオンは吸い寄せられるように床に近づいていく。その前には、先に部屋に入っていたテレフタレートがいた。
床には、五紡星の魔法陣がちかちかと点滅していた。
「これは・・・・・!?」
ソーシャルがそうつぶやいて魔法陣にそっと触れた途端、突如、眩い光が辺りを散った。
そして魔法陣が発する光に包まれた瞬間、レシオン達は気を失ってしまった。
「くっ・・・・・」
虚ろとした意識の中で、レシオンは苦しげに声を漏らした。指先を動かしてみると、レシオンはそこに意外なものがあることに気づいた。
もう一度、指先を動かしてみる。確かにそれは、そこにあった。
「どうして、こんなところに?」
指先に触れたのは、肌触りのいい絨毯だった。少なくとも、あの部屋の中にはなかったはずだ。重いをゆっくりと開けたレシオンは、自分達がいつの間にか見知らぬ広間に倒れていることに気づいた。床には、あの部屋と同じ魔法陣が描かれている。そして、先程触れた赤い豪華な絨毯がひかれていた。
「う・・・・・ん・・・・・」
身体を起こしながら、レシオンは頭を振ってみた。周囲に何があるのかはっきりと見られるようになってきた。
「う・・・・・、何よ、ここ?」
小さく呻いて、テレフタレートが身体を起こした。続いて、ファティ達も意識を取り戻し、不思議そうな表情で周囲を見回した。
「ここはどこなのですか?」
ファティが困り果てたようにつぶやく。
「本当だよな・・・・・」
メイルも、それに同意するかのように溜息をついた。
「ねえ、ソーシャルはここに来たことあるの?」
テレフタレートはふらつきながらも立ち上がり、ソーシャルに向かって歩き出した。
ソーシャルがテレフタレートを見て、困ったような笑顔を浮かべて――
「そんな・・・・・」
と言った。
「何よ?」
ソーシャルの表情が、笑顔の形を作ったまま凍りついていた。
ソーシャルの目は、テレフタレートではなく、背後に立っていた誰かに惹きつけられていた。
テレフタレートはソーシャルの視線を追った。
その先には、ひげをたくわえた壮年の男性が立っていた。その背後には、他に数人の間違いなく司祭と分かる者達と、数人の兵士と思われる者達が控えていた。
ゆったりとした作りのロープに、目にも鮮やかな蒼で染めあげられたマント。その留め具は金の精密な細工で飾られており、見るからに高価なものとわかる。
中でも目を引くのは、額に輝く王冠だ。
色違いの宝石のような石が、円を描くようにして飾りつけられている。
どこか厳格そうな雰囲気を醸し出している男性だった。
ソーシャルにとっては、できれば、もう二度と会いたくなかった人物がそこにはいた。
「ここで何をしている?」
咳払いに続いて、重々しい声がレシオン達を呼ぶ。
「ああああっ――――!? も、もしかして、リンフィ王国の国王様ぁぁぁぁぁっ!?」
突然、テレフタレートが素っ頓狂な声を上げた。
レシオン達の目の前にいる人物。
ローレンス=ルウー=リンフィ。彼こそが、リンフィ王国の国王だった。
どうして、リンフィ王国にいるのよ?
確か、遺跡の中でさまよっていたはずなのに。
テレフタレートは不可解そうに首を傾げた。
「どうした?」
重々しく響いたその声に、レシオン達は慌てて膝を突き、平伏した。
「あ、いえ・・・・・、ご無礼をお許しください」
白々しいと思いながらも、ソーシャルはテレフタレートのもとに行き、まだ立ち尽くしていた彼女を強引に平伏させてそう答える。
「ソーシャル、どうしたのよ?」
そんな彼の気持ちを察したのか、テレフタレートが心配そうに彼の名を呼んだ。
「な、何でもないよ・・・・・」
服の裾を掴んでいる彼女の手に、そっと自分の手を重ねて、ソーシャルは頷いた。
いつかのように、逃げたりしない。
そうしたところで、過ぎてしまった過去は覆せるわけではない。
そして何より――
そんなことをしたら、テレフタレートをきっと悲しませてしまうだろうからな・・・・・。
自分のことを認めてくれたテレフタレートを悲しませることだけは、絶対にしたくない。
延々と続くはずだった虚無感を、屈託のない笑顔で埋めてくれた彼女。
こうして自分の居場所を見つけることができたのは全部、彼女と出会うことができたからだ。
「・・・・・大丈夫だから」
テレフタレートの不安が消え去るように、ソーシャルはつないだ手に力を込める。
「・・・・・本当に?」
と言って、ぎゅっと握り返してくるその力が、ソーシャルの心を暖かなもので満たしていく。
「・・・・・ああ」
ソーシャルは小さく頷く。
みんなが平伏する中、ただ一人その場でふんぞり返っている人物がいた。鮮やかな赤い髪に、紫のマントをフレデリカにうちわでなびかせている青年――エレジタットは、尊大そうに両腕を組み、周囲をしている。
どこか面白がるような表情を浮かべ、エレジタットは対峙する国王達に向かって言い放った。
「ふふふふふっ! ついに現れたな! 宇宙より飛来した謎の生命体どもめ!!」
叫ぶと同時に、エレジタットは突然、右方向に側転する。
「お、おのれ―!! 見えない光線を放つとは、なかなか味な真似をする奴らだ!!」
続いてエレジタットは、猛烈な勢いで今とは反対方向に側転した。回転を止めるとビシッとポーズを止め、再び国王達に絶叫する。
「てやあ―――――!! どうだ、見ろ!! 見えない光線を綺麗にかわしてやったぞ!!」
「素晴らしいですわ、エレジタット様」
と、フレデリカは感激してエレジタットの手を握った後、急に不安そうに眉根を寄せた。
「でも、これから私達、どうなるのでしょうか?」
「心配するなって、フレデリカ。 黙って俺の最高のアクションを期待してな」
「エレジタット様・・・・・素敵・・・・・」
そんな一連のやり取りを経て、レシオン達はすぐに不審者だと判断され、牢屋へと連行(!?)されるのだった。




