教皇様の代理が来た
「お久しぶりです、マリア様」
「はい、イルディ様。遠いところお疲れ様です」
「教皇代理として派遣されました。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
なんとまあ、聖国からイルディ様が教皇様の代理として派遣されてきた。イルディ様は教皇様のひ孫、聖国でちょっと挨拶をした程度でほとんど知らない。年齢は私と同じくらいなんだけど、コト様の姿がもっと若くなった感じ。それよりもはるか未来の教皇様だよ。そんな方が魔国への派遣準備が済んだという情報とそれに関する書類を持ってきてくれた。しかも教会に直接来てくれた。教皇様、ひ孫であるイルディ様にそんなことさせていいんですか……?
「ご無沙汰しております、マリア様」
「カザト様もお久しぶりです」
バリトンボイスの神殿騎士カザト様。どうやらイルディ様の護衛として一緒に来たみたい。初めてその顔を見たんだけど……やはりちょい悪風イケオジ……! すんごい愛妻家って聞いているから見た目とのギャップがすごい。こっちに派遣されてきて単身赴任みたいなものかな。ちょっとだけ可哀想だと思ってしまう。
他にも神殿騎士さんたちが何人かいるみたいで、結構厳重な警備だね。まあ、教皇様のひ孫にあたるイルディさんだから当然か。でも、なんでイルディさんが直接来たんだろう?
そう思っていたら、イルディ様が説明してくれた。
教皇様たちは以前言っていた通り教団の立て直しというか引き締めを行うために聖国で色々やっているそうだ。その中でも一番動きやすいイルディ様をこちらに派遣してエスカリテ様や私のサポートをしてくれるとのこと。エイリス様というご先祖様の姉に関して何もせずに待っているなんてできないってのが教皇様のお気持ちなんだろうね。
それと私に対する色々なちょっかいを減らすためでもあるらしい。教皇様がまた直接出向くと色々と勘繰られる可能性があるので、教団でもまだほとんど知られていないイルディ様なら大丈夫だろうとのことだ。分かる人には分かるだろうけど、イルディ様の修行と誤魔化せる部分もあるようなので決まったみたいだね。
「しばらくはこの国に滞在を?」
「はい。正直なことを言いますと、エイリス様やベルト様をお救いするまではここの大聖堂に滞在する予定です」
それはまた長期滞在になりそうだね。私もエスカリテ様の信仰心をダラダラと稼ぐつもりはないんだけど、それでも数年、下手したら十年以上かかると思うんだけど。でも、イルディ様の目が燃えている。絶対にやってやるという意思を感じる強い目だ。あまり入れ込み過ぎなのも心配だけど。
いきなりイルディさんに両手を掴まれた。
「頑張りましょう! 私もできる限りのことをするつもりですので、何かありましたらすぐにご連絡を!」
「は、はい、頑張りましょう」
なんていうか私やエスカリテ様よりもやる気に満ち溢れているね。教皇様の話だとエイリスさんとベルトさんの救出は一族の悲願的なものらしいから熱くなるのは分かるけど。
「それで魔国への出発は明日ですか!?」
「い、いえ、そんなにいきなり出発はできません。準備はしていましたが、日程が分からなかったのでこれから決める予定です。たぶん、一週間以内には出発すると思いますけど」
まだみっちゃんたちが到着してないんだよね。私の最強の参謀とも言えるみっちゃんやその従者のアイレダちゃんを置いていくわけがない。
「そうですか……」
いきなりテンションが下がったけど大丈夫かな。今回は魔王さんを見に行くだけで別に救いに行くわけじゃないから、そこまで重視しなくてもいいと思うんだよね。たぶん、エイリスさんと同じくらいの状況だから、信仰心は今の五倍くらいあればなんとかなるって話だ。ただ、見てみないとなんとも言えないってのがあるからね。事前の偵察は重要だよ。デートの下見と同じくらい大事。
「イルディ様も到着したばかりでお疲れでしょう。大聖堂でお休みになられては?」
「い、いえ、私は元気ですので!」
「あー、ええと、イルディ様はお元気かもしれませんがカザト様たちが……」
そう言うとイルディ様がハッとした顔になったあと、隣にいるカザト様を見た。そのカザト様は少し笑みを浮かべるだけだ。何も言わないって言うのが大人って感じもするね。
「そ、そうでした。護衛の皆さんはお疲れですよね……」
「この程度のことで弱音を吐くような者はおりませんが、休めと言われれば喜んで休みます」
「いえ、マリア様に言われる前に気付くべきでした……すぐに大聖堂へ行って身体を休めましょう」
「ありがとうございます、イルディ様。それにマリア様も」
「いえいえ、私は何もしていませんので」
若いぜ、イルディ様。でも、そこで反省できる子は伸びる……! って何を上から目線で言っているんだろう。これはたぶん、様づけで呼ばれているからだな。マリア様なんて体がかゆくなっちゃうぜ。
「あの、イルディ様、私のことは様づけではなく、マリアと呼んでください。エスカリテ様の巫女ではありますが、私自身はとくに偉いわけでもありませんから」
「い、いえ! そういうわけには!」
「むしろ様づけされると緊張すると言いますか」
「そ、それでしたらマリアさんとお呼びしても?」
「もちろん構いません。むしろちゃんづけでも」
「……まずは、さん、でお願いします」
未来の教皇様にさんづけやちゃんづけで呼ばれるのもアレだけど、様よりはマシかな。リュートちゃんは諦めた。「マリアさん」とか「マリアちゃん」と言おうとしただけでダメージを受けていたからね。執事さんが自らやってきて、「勘弁してあげてください」とやんわりお断りされちゃったし、お友達認定しているんだけどなぁ。
「マリアさ……ん、私のこともイルディとお呼びください。何も成してない私に様づけは不要です」
おっとカウンターを食らっちゃったよ。でも、こっちからのお願いをしてそっちのお願いを聞かないってのも良くないかな。それに同年代っぽいから親しみを込めてちゃんづけで呼んじゃうか。不敬かな?
「えっと、ならイルディちゃんでもいいですか?」
「……! も、もちろん、構いません! な、なんかお友達みたいでいいですね……!」
ん? なんかすごく嬉しそうだぞ? ちょっとモジモジしている感じだし、カザト様は孫を見るような優し気な目をしているし……ああ、なるほど、お友達がいないのか。あれだ、教皇様の一族だから色々な意味で避けられているんだろう。嫌われているんじゃなくて畏れ多いとか、そういう理由で同年代の知り合いがいないと見た。なら、私がお友達第一号? こんなんでいいならお友達でいいんやで。
「なら、イルディちゃん、今日から私とはお友達ということでお願いします」
「……! こ、こちらこそ、ふつつか者ですがよろしくお願いします!」
なんか嫁に来るみたいな言い方をされちゃったよ。言っておくけど、ふつつか者は私の方だぞ……!
「カザト様も私のことはマリアでも」
「さすがにそれは難しいので様づけでお願いいたします。私の方はカザトおじさま、などでも構いませんが」
「それこそ難しいのでカザト様で」
「承知しました」
うーん、やっぱり大人は一枚上手だね。私も前世を入れれば似たような年齢なんだけど、人生経験が足らないか。神殿騎士様たちのリーダーでもあるわけだし、色々と配慮する必要があるから様づけが妥当だろう。イルディちゃんとお友達になれただけでも最高の結果だ。
さて、お疲れだとは思うけど情報共有しないとね。イルディちゃんが来るとは思ってなかったからどこまで共有するか微妙なんだけど、色々な話は司祭様を通して教皇様に伝わっているはず。でも、教皇様からイルディちゃんに伝わっているかどうかは分からない。聖国からここまで結構あるからね、出発した後だったかもしれない。カザト様もイルディちゃんの護衛を任されるほどなんだから教皇様からの信頼は厚いんだろう。ここは盛大に巻き込む。
「イルディちゃんとカザト様、大聖堂へ行く前にちょっとだけいいですか?」
「なんでしょう?」
「こちらの白猫、ギザリア様ですが、何か話を聞いていますか?」
『なんだよ、いきなり持ち上げて』
不思議がっているギザリア様を両手で持ち上げてイルディちゃんたちの前に出す。二人とも不思議そうな顔をするだけだ。
「ええと、マリアさんが作ったお饅頭の猫に似ていますね……?」
「ああ、そうですね」
聖国で売り出したお饅頭の絵か。たしかにモデルはギザリア様だ。あのお饅頭、かなりの売れ行きみたいで色々な飲食店が食べ物に絵を描いたり印を入れたりとやっているみたい。最近は教団のマークがついたお饅頭も売り出されたみたいで、こっちも売り上げに貢献しているとか……いやいや、それは今はいいんだ。でも、これで教皇様からの情報は共有されていないってことだね。
「では紹介しますね、こちら、かつて神だったギザリア様です。転生して猫になりましたが、エスカリテ様の昔の知り合いでもありますので、お見知りおきを」
「……へ?」
目が点になっている二人の前で、ギザリア様が右手――右前足を上げた。
『よろしくな! お土産なら酒がいいぞ!』
「よろしくなって言ってます」
私の翻訳は余計なことは言わない。嘘翻訳じゃないから大丈夫。
「あと、あちらにいる黒焦げの鳥はミナイル様。あちらもかつての神で、今はフェニックスに転生しています」
『貴方、素材がいいわね! 美を求めるならこのミナイルに任せなさい!』
「よろしくねと言ってます。あの偉そうなポーズは気にしなくていいです」
『わ、私は……?』
『エスカリテ様は転生していないでしょうに』
『そうじゃなくて挨拶!』
「忘れてました。エスカリテ様もこれからよろしくと言ってます」
「え? 忘れてた……?」
「いえいえ、こちらの話です。さて、それじゃちょっとだけ情報共有させてもらいますね。詳しい話はまた後日、今回は触りだけで」
休憩前に面倒なことを教えて申し訳ない。でも、いつ言っても似たようなものだからね、しっかり頭に入れてもらってから休んでもらおう。




