魔族の情報を集めよう
『マリアちゃん! いい情報が得られたわね!』
『……一応聞きますけど、その情報とは?』
『ルルちゃんがギルドマスターといい感じって情報よ!』
『ルルさんとソナルクさんに謝ってください。土下座で』
夕飯の香りが漂ってくる夕方、冒険者ギルドから教会へ帰る途中にエスカリテ様がそんなことを言い出した。ブレない姿にはある種の尊敬があるけど、もうちょっと時と場合を考えて欲しい。地図を見せてもらった上に色々と説明してもらったのに、いい情報っていうのがルルさんの恋バナじゃねぇ。しかも本人が超否定しているほどの案件なのに。
ただ、本人は超否定しつつも、そこまで嫌がってはいないのか、ギルドマスターの話を聞けた。会ったことないけど、結構強い人だったらしい。なんでも魔物との戦いで怪我をして冒険者を引退、それまでの実績が買われてギルドに就職した感じだとか。
私としてはルルさんには幸せになってもらいたいので、いい人なら何の問題もなし。ソナルクさんの先輩とやらもいい人らしいので会ったことはないけど応援しちゃうね。皆は春の兆しがあるのに私の春はまだまだ先だ。前世から考えて冬どころか氷河期なのにまだ終わらないよ。恐竜は絶滅しちゃったから新しい種はまだかな……おっといけねぇ、思考が変になってる。疲れているんだな。
そんな話はどうでもよくて、一番の収穫は地図を貰えたことかな。かなりあいまいな地図っぽいから問題ないとかで貰えた。最初に見せてもらった正確な地図はさすがに無理だけど、これで十分だよ。これを使って教会で情報の再整理をしよう。それにギザリア様は色々世界を旅していたみたいだし、ミナイル様はエルフに詳しそうだからね。リュートちゃんも詳しそうだし、新たな知識を手に入れちゃうよ。
そんなわけで教会に戻ってきたんだけど、ギザリア様もミナイル様も大人しくしてくれていたみたいだ。というか、暴れたら鳩をけしかけるって脅したからかも。
『おー、帰ってきたんか。魚くれ、魚』
『居候の身で悪いとは思っているけど……カレーを捧げよ!』
『私はポップコーンがいい!』
『はいはい、用意しますからちょっと待ってください』
なんだろう。現役の神様や元神様なのに、なぜか孤児院で面倒を見る子が増えたような感覚が……間違いじゃないのか。まあいいや、この後色々教えてもらうんだし、食事の用意くらい問題ない。なら私の夕食はナポリタンとしゃれこみますか。こっちだとパンやパスタが多いからね。滅茶苦茶硬いパスタをたくさん噛むことでお腹いっぱいにさせる裏ワザはもういらない。いい感じの硬さでしかもケチャップ味、さらには野菜まで入る最強のパスタ料理で晩餐だぜ……!
神様ってのは食いしん坊だね。私のナポリタンが半分くらいになってしまった。当然、皆の食事も強奪したけど。まあ、今回は引き分けということにしよう。
『というわけで、ご飯を作ったんですから協力してもらいますよ』
『酒を探して世界中を回った俺に期待していいぜ!』
『エルフのことなら任せなさい!』
『も、もっと信仰心があれば大陸の形くらい変えられるから!』
『エスカリテ様はなんで張り合ったんです?』
大陸の形を変えちゃ駄目でしょうに。というか、この世界って大きな大陸が一つくらいしかないっぽいね。後は小さな島が少しあるくらい。地球より小さいってことかな。それともまだ見ぬ大陸があるのか……夢が膨らむね!
『これが最近の世界地図なんですけど、これで全部なんですか?』
『全部だぞ』
『全部ね』
『ふ、増やした方が良い……? 頑張れば小さい島くらいなら行けるかも』
『何の対抗心か分かりませんけど、増やさなくていいです』
いきなり夢が終わったけど、エスカリテ様はそんなことまでできるのか。もちろん信仰心が必要なんだろうけど、神様ってなんでもありなんだな。それよりもまずはルルさん達に教えてもらったことの再確認だ。
基本的に大陸は十字の形をしている。東西南北と中央に分かれている感じで、中央、東、南が人間の支配地域、北が魔族の支配地域になっている。西は魔物の巣窟っぽくなっていて、人が住んでいるかどうかも不明だとか。ただ、犯罪者とか国外追放になった人は西に行くらしい。残念ながら生きていないだろうってことだ。
エルフの大半は中央の南西にある大森林と呼ばれるところに住んでいるみたいで、ドワーフは南側の東の方にある魔炎洞と呼ばれる洞窟入り口周辺に住んでいるらしい。エルフは人間と同じように王族がいる感じだけど、ドワーフの場合は王じゃなくて族長と呼ばれるドワーフが何人かで色々決めているとか。
エルフとドワーフはそこ以外でも少数のグループがあるみたいで、あっちこっちに村程度の人数で住んでいるみたいだ。種族間のトラブルというのはほとんどないけど、同じ人間でもトラブルはあるわけで、色々と問題が発生している場所もあるみたいだね。
このアデルラルド国は中央の北東に位置していて、さらに東にはルガ王国、南西にかけてセルデオス王国、さらにその西には教皇様がいる聖都があるわけだ。その聖都は大陸の中央も中央で、よくそんな場所に聖都を作れたなって感心しちゃうよ。まあ、初代教皇のコト様なら何でもありだよね。カプ厨に不可能はない。
今回は魔国へ行くわけだから北に向けて出発するわけだ。魔国にも王都と呼ばれる場所があるけど、今回はそこへは行かず、廃城となっている昔の王都へ行く。魔王ベルトさんや聖剣のこともあって立ち入り禁止区域になっているとか。この辺りは教皇様が許可をもらってくれるみたいだから問題はないだろう。
とまあ、こんな感じだけど、追加情報があるかな?
『それで皆さんは何か知ってます?』
『南に行こうぜ、南! やっぱ酒と言ったらドワーフだろ! イシュラグもそこにいるみてぇだし、酒を作らせよう!』
『魔国に行くって言いましたよね。まるっきる逆ですよ』
ドワーフといえば鍛冶とお酒って大昔から決まってる。これはDNAレベルの知識。でも、行く理由がない。酒神イシュラグ様のこともあるのでいつかは行かないと駄目だけど、今じゃないかな。
『エルフの森にはいかなくていいわよ。悪い子たちじゃないけど、真面目過ぎて刺激が足りないのよね』
『二千年近く世話になってたのに』
『感謝はしているけど、恩恵も与えていたから持ちつ持たれつの関係よ!』
『まあ、行く予定はありませんが、エルフが返せと言ったら引き渡しますね』
『わたくしの意思を尊重して!』
そういえば結局エルフの件はどうなったのかな?
「リュートちゃん、ミナイル様の件は動きがあった?」
「大聖堂の遠隔通話を使ってエルフの国へは連絡がつきました。使節団が送られてくるようですが日程は決まっていないようです」
「感触的にはどう? 怒られたりしないかな?」
「普段からミナイル様が破天荒なので問題ないそうです。ただ、今回は激しく燃えた上にいなくなったので騒ぎになったみたいですね」
『ミナイル様……』
『燃えたのは化粧品を使われた怒りね!』
ミナイル様はともかくエルフさんたちが怒ってなくてよかったよ。面倒なことは無いに限る……ちょっと待って、さっきから魔国のことと関係ないじゃん。
『ドワーフもエルフも関係ないんですよ。魔国のことで情報はないんですか?』
『ねぇな。最近の話だと魔族は神を信じてないってくらいか』
『エルフだと私の天使だったミリリンが信仰されているけど、私を崇めなさいよ!』
『魔族も昔は敬虔な信徒だったのよ』
聖都でちらっと聞いたかも。魔族はエイリスさんとベルトさんの件があって神に愛想が尽きたとか。信仰心が神の力になるということを理解しているんだね。だから無関心になったわけだ。とはいえ、否定をしているわけではなく、教団の大聖堂も王都にはあるみたいだ。たぶん、コト様のことは信用していたんだろうね。単身で乗り込んだ上にお姉さんのエイリスさんが命懸けでベルトさんを守ったわけだし。
となると、エスカリテ様の扱いはどうなるんだろう? 上手くすれば魔族さんからの信仰心を得られるかも。でも、ベルトさんを助けてからの話かな。
しかし、知ってる話が多い。なにかこう別の話題はないのかな。
『他にはなにかあります?』
……無言。神様なのになぁ。
『さ、寒いから厚着していった方が良いぞ!』
『料理がおいしくないって聞いたことがある!』
『じゃ、ジャガイモの生産量は世界一だとか!』
『おー、いいじゃないですか。そういうのでいいんですよ』
エスカリテ様は見えないけど、三人ともドヤ顔している。傍から見たら大した情報じゃないんだけど、魔国に行くわけだし、そういう庶民的な情報が私には重要だよ。もっと大規模で複雑な情報はみっちゃんにお任せだ。みっちゃんなら国家レベルの情報も持ってそうだしね。
『そういやアルコール度数が高い酒が売れるとか聞いたな!』
『お風呂の文化が根強くて、入浴剤が喜ばれるって聞いたことがあるわね!』
『恋バナが好きみたい!』
『エスカリテ様はなんでそういう嘘をつくんですか』
『ほ、本当だってば!』
そんな種族がいてどうすると言いたいが、可能性はあるの? ないよね? 恋バナで盛り上がる魔族ってちょっと嫌かも。それはそれとして、もっと情報を集めて準備を怠らないようにしよう。




