神々の雑談(別視点)
「また貴方達と話せる日が来るなんてね」
「それは俺のセリフだろうがよ」
「わたくしのセリフでもありますわ」
二千五百年ほど前、天界で起きた神々の戦い、その時に命を落とした神、ギザリアとミナイル。他にも多くの神々が神としての存在を終わらせた。
無事だった七柱の神のみ。ナギスダ、ルビルラ、アガロ、バルノア、ヌナード、サイザ、そしてエスカリテ。戦いの末、天使たちも多く散ったが、人間達が住む世界には影響がなかった。
ただ、神々が減った影響は出た。ルビルラの巫女が世界を支配しようと動いたのだ。それを止めるだけの対抗勢力がなく、巫女は悪夢の力を使うことで人々を支配していった。そして残っていたエスカリテ以外の神々も信仰心を得るための勢力争いを始める。
多くの神を失った経験から人間や魔族、エルフやドワーフなどの各種族から一人を選び争わせるという代理戦争だった。その結果、ルビルラの巫女は他の神が選んだ勇者に滅ぼされた。
それから五百年後、ヌナードが選んだ人間の勇者エイリス、そしてナギスダが選んだ魔族のベルトが平和な世界を創ろうとしたが、エスカリテを除く神がそれを拒否。二人の自由を奪い相打ちにさせた。その行為にエスカリテが激怒、神々同士は戦わないという暗黙の了解を破り、他の神々の存在を消し去った。
それからさらに二千年後、勇者と魔王を失ったショックから眠りについていたエスカリテは目覚め、過去に神であったギザリアとミナイルと再会した。そしてエスカリテは二人がいなかった時期のことも含め、目覚めた後のことを二人に語る。
「あの後、そんなことがあったんか。俺が転生したのはそれから千五百年後くらいだったからなぁ」
ギザリアは今から千年前に猫に転生している。ただの猫ではなく、基本的に不老不死であり死ぬことはない。それでも一つの場所にいないこともあって、特に誰かに捕まることなく生きてきた。ただし、大好きな酒を一滴も飲めていない状況だが。
「へぇ、ギザリアは千年前なのね、わたくしは二千年前にはいたわよ!」
「それ、何のマウントだよ。だいたい、お前はエルフに捕まってたんだろ?」
「捕まってたんじゃなくて、いてやったの!」
ミナイルはフェニックスとして転生していたが、卵の状態でエルフに捕まっていた。丁重に扱われていたのは確かで、死と再生を繰り返すフェニックスは長く生きるエルフにとって信仰の対象にもなっていた。美しい者が好きなミナイルはエルフたちの容姿を気に入っていたというのもあり、つい最近までちやほやされていたのだ。
ところが、エルフの一人が持ってきた化粧品、それを見て驚いた。過去に自分が巫女たちに作らせた化粧品が人間の国で出回っている。さらにはそれが女神エスカリテという神のおかげだという情報付きで。転生した直後にエスカリテの名がなくなり、天使たちが神を名乗り始めたのを不思議に思ってはいたミナイルだが、二千年ぶりにエスカリテの名前を聞いて懐かしいと思う前に勝手に使われたという怒りからエルフの国を飛び出してきたと言う。
「その情熱を別のことに使えばいいのに」
「うっさいわね! 美への情熱は重要でしょうが! いい? 化粧品はミナイルってブランド名にしなさいよ。これらの化粧品は私が研究の末に作らせたんだから!」
「一応、マリアちゃんに言ってみるけど、あまり期待しないでよ」
エスカリテがそういうと、ミナイルは「絶対よ!」と念押しをしている。そしてミナイルは自分の寝床でもある大きな籠の中でくつろぎながらも鋭い視線をエスカリテに向けた。
「それで、さっきも言ってたけど、変なことになってるんでしょう?」
「そうなのよね。証がある話じゃないけど、転生したバルノアに色々聞いてね」
「記憶を持ったまま転生している神が多いってことなの?」
「少なくとも、貴方達を含めて会っている神は全て記憶があるわね。それに私は会ってないけど、ナギスダ、ルビルラ、サイザは記憶があったらしいわ」
「混沌神どもじゃない。試練に悪夢に呪いって嫌な奴らばかりね」
「同じ混沌神でもバルノアだけは考えを改めたみたい。アガロとヌナードは転生しているかも分かってないけど」
「それでエスカリテ、貴方はどうするのよ?」
「考えを改めずに人々に迷惑をかけているようならぶちのめす!」
エスカリテの言葉にギザリアは「おー」と楽し気に言い、ミナイルは「へぇ」と感心した風に言った。
「貴方が積極的に介入するなんて驚いたわ」
「私も変わったと思う。寝てたから数か月前のこととも言えるけど」
「まあいいんじゃない。貴方、私達が殺されても何もしなかったみたいだし、その時に比べたら格段の進歩よ」
「あー……あんまり怒ってないと思っていい?」
「怒るって何を?」
「貴方達が殺されたときにもっと怒り狂えよ、とか」
「貴方はどうせ何もしないとは思ってたから別に。ギザリアもそうでしょ?」
「そうだな、コイツ、何にもしない神だったし」
「うぐ。まあ、そうなんだけどさ……」
「神が神であろうとするならば、あらゆる事象を黙って受け入れる。貴方はそう言っていたし、それを何千年も実行してきた。だから別に気にしてないわ」
世界創生時から存在すると言われている原初の神エスカリテ。その信仰心は絶大だったが、何の恩恵もない神とも言われていた過去がある。実際、エスカリテが何かをしたのは長い歴史の中でも数度、ただし、その事象は他の神が起こす奇跡の比ではない。森羅万象を操り、無から有を創り出すその奇跡は他の神よりも上の存在とも言われていた。
「エスカリテは俺たちと違って生まれた時から神なんだ、思うところはあったんだろうよ。ただ、大昔のお前より今のお前の方がはるかにいいと思うぜ」
「え? 何よ、おだててもお酒は駄目よ。マリアちゃんにきつく言われてるし」
「くそう! 作戦失敗か!」
「ギザリアは変わんないわね。お酒が抜ければ少しはまともになると思ってたけど」
「うるせえ。酔ってても酔ってなくても俺はこうなんだよ……あ」
ギザリアが何かを思い出したような声を出すと、一瞬の静寂があった。直後に笑いが起きる。はるか昔、同じようなやり取りをしたことを全員が覚えていたためだ。
一通り笑ってからミナイルが籠の中で身体の位置を調整しながら口を開いた。
「まあ、エスカリテがそうするって言うならそれでいいと思うわ」
「……なんかずいぶんと私を肯定するわね、何が狙いなの……?」
「別に狙いなんてないわよ。貴方は神の中で最も不自由だった神だったから、もっと自由に生きていいってこと」
「自由に……」
「他の神が自由に生きることを貴方は許容していたのに、貴方自身は自由に生きることを制限してた。でも、もう神は貴方だけ。もっと自由に生きていいんじゃない?」
「そっか、そうよね……」
エスカリテはそう言うと腕を組んで考え込む。すべてが自由になるからこそ、自由を制限する。そうしなければ世界のすべてを無にすることすらできる神は唯の破壊神になる。それはこの世界を管理する者として存在が矛盾してしまう。
ただ、あまりにも自分の自由を制限しすぎて、他の神の自由を認めてしまった。それが勇者エイリスと魔王ベルトの悲劇につながった。幸いなことにその悲劇はまだ取り返しがつく。同じような結果にさせないためにもエスカリテはもう少し自由の制限を解いても良いのではないかという考えに至った。
そんな風に真面目に考えているエスカリテの前でギザリアが笑った。
「でも、その自由――神の奇跡の一つがマリアの彼氏を探すことって笑えるよな」
「どれだけの彼氏を探してあげるつもりなのよ。むしろ創った方が早くない?」
「理想通りの彼氏を神の力で創ってどうするの!」
「じゃあ、世界中の男と面談でもする気かよ? どんな希望なのか知らねぇけど」
「それが聞いてよ。マリアちゃん、自分のスペックが分かってないのか、平凡な子を探して欲しいって言ってんのよ……!」
「元神である私を眼光で黙らせるほどの子なのに?」
「そう! おかしくない!? 世界統一した王でも足りないわよ!」
「そりゃ言い過ぎだけどよ、平凡がマリアの望みならそれでいいじゃねぇか」
「私が嫌!」
「わがままだなぁ」
「私は自由! ならマリアちゃんの彼氏にどんな子を選ぶかも自由なの!」
「なぜそこで自由を強調するのかしら。マリアが可哀想な気もするわね」
「解釈違いのカップルは認めないのがカプ厨らしいぞ。まさにエスカリテだよな」
「この二千年くらいで悪化したのね。いえ、昔はもっと酷かったかしら。鳩を使ってそのカップルは駄目とか啓示を与えていたような……?」
「それは若気の至りだから!」
「三千年くらい前だろ? お前が若いと皆若いって扱いなんだけどな」
その後、神と元神の雑談は続くが、その話題は終始マリアの彼氏についてだった。そしてマリアの彼氏に関して、世界最高、平凡、美形の三つの派閥に分かれて争いが勃発したという。
話題の中心であるマリアはそんな争いがあったことすら知らず、ぐっすりと眠っていたのだった。
別作品のことで恐縮ですが、「スローライフ・オブ・ザ・デッド」のコミカライズ版がTOブックス様のサイトで公開されました。詳しいことは活動報告に書きました。一挙三話公開ですので、ぜひ読んでみてください!




