不死鳥の話を聞こう
『うらぁ! ミナイル! そこは俺の領地だろうが!』
『そんなの決まってないでしょ! 今日から私の領地よ!』
『二人とも私の聖域で暴れないで!』
うるさい。本当に友達じゃないのかと言いたくなるほどうるさい。久しぶりに会った友人たちがはしゃいでいるって感じでもなく、普通に領地争いをしている。ウチの教会で。領地と言ったって籠とタオルじゃん。どこに置くかくらいで暴れないで欲しいよ。
昔の孤児院を思い出すけど、こんなにうるさくなかったぞ。これは私のげんこつで黙らせるか……? でも、相手は元神様だ。ここは穏健に済まそう。
『静かにしないとご飯なしですよ。もしくは鳩たちにしばかせる』
……うん。静かになった。物わかりの良い神様は好きです。
『ちょっとちょっと。あの子、私が元神だと知ってるのに遠慮がないわよ?』
『マリアは現役の神であるエスカリテにも容赦ねぇぞ』
『そこがマリアちゃんの良いところだからね! ……良いところよね?』
なんかひそひそ話しているけど、滅茶苦茶聞こえてます。ここはちゃんとルールを決めておかないとね。守れない子は即退去だ。
『ミナイル様』
『な、なに? 脅しには屈しないわよ……?』
『教会に住むつもりなら皆さんと仲良くしてください』
『仲良くぅ? あ、はい、仲良くします。だから鳩たちを教会に入れないで』
『エスカリテ様もギザリア様も昔のことはともかく、ここでは争わないように』
『マリアちゃんがそう言うなら仕方ないわねー』
『分かった分かった。もう暴れたりしねぇよ』
うんうん。話せばわかる神様たちだ。それがエスカリテ様の鳩という抑止力が理由であったとしてもだ。それじゃ、ポップコーンで女子会パジャマパーティとしゃれこみますか。色々と聞かないといけないからね。
ミナイル様のことがあったから結局冒険者ギルドへは行けなかった。明日にするしかないけど、今日やれることは今日やっておかないとね。タスク管理と情報収集は大事よ。
とりあえずミナイル様のことかな。化粧品のことで文句を付けに来たらしいけど、ちょっと話を聞いた感じだと、本当にそれだけの理由で来たのか怪しい。なにか別の理由で来た可能性がある。というか、化粧品のことだけで来るわけない。
『ミナイル様はなんでここに来たんですか?』
『なんでって私が昔作らせた化粧品が出回っているのが分かったからよ。しかも製作者というか関係しているのがエスカリテの巫女って話じゃない。これはひとこと言ってやらないと思って頑張って飛んできたのよ! そしたら留守だし!』
『飛んできた? どこから?』
『エルフの国ね。私、霊鳥ってことで崇められてたから』
『……エルフに引き渡しますね』
『ちょっと待って! エルフって生まれた時から美形が多いから化粧品とか使わないし、時間の感覚が鈍くて楽しみがないの! 言葉も通じないし、つまんないのよ!』
『つまり、脱走してきたと?』
『美への逃避行よ!』
なんだ、美への逃避行って。それ以前にやばくね? エルフから文句言われない? 本人は逃げ出したって言ってるけど、エルフ視点からするとこの国が盗んだと言ってもおかしくないような気がする。普段温厚な人が怒ると怖いってあるけど、まさにそういう感じになりそうなんだけど。
なんとかこの国で保護したって話にして、最終的にはエルフの国へお返しした方が良い気がする。こういうことはエルド様に報告しておかないとね。
「リュートちゃん、いる?」
「はい、ここに」
「さっき簡単に説明したけど、こちら、元神様でミナイル様」
「はい、先ほど伺いました」
リュートちゃんはそういうとミナイル様にお辞儀する。黒い孔雀っぽいミナイル様は、良きに計らえと言う感じの仕草で羽をすっと動かした。神様っぽく扱われ慣れているというか、エルフの国でも似たようなものだったのかも。問題はそのエルフたちに崇められているのに逃げてきちゃったことなんだよ。
「どうもエルフの国から来たみたいで、何か言ってくるかもしれないから、エルド様に伝えておいてもらえるかな?」
「もちろんです。ですが、エルフの国からいらっしゃったのですか?」
「なにか問題があるかな? いや、問題しかないんだけど」
「数日前からエルフの国で騒ぎが起きているとのことです。もしかすると……」
「遅かったか……」
「すぐにエルド様にお伝えします。王を通してエルフの国へこの件が伝わるかと」
「それしかないよね……丁重に扱っているとだけは絶対に伝えて欲しい」
「承知しました。ホルン」
普段は見えない護衛さんが出てきて、私に頷くとすぐに消えていなくなった。どう考えても創作に出てきそうなニンジャなんだけど、昔の転生者がそういうのを教えたと言っても不思議じゃない。
『鳩をけしかけられたり、脅されたりしたんだけど丁重ぉ……? なんでもないです、はい』
『すげぇ、ミナイルを眼力で黙らせた……!』
『うちのマリアちゃんはその辺の巫女とは一味違うわよ!』
エスカリテ様たちはあまり危機感がない感じだけどね、エルフって言ったら何百年も生きる種族だから、何年も根に持つんだよ。一度怒らせたら人間だと末代とは言わないけど、三代は根に持たれるからやばいんだって。盗んだと思われなければ大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配だ。引き渡しを要求されたらすぐに引き渡そう。本人は嫌がりそうだけど。
『それでミナイル様』
『な、なに?』
『ここに来た本当の理由は?』
『……本当の理由?』
……あれ? ミナイル様が長い首をかなり傾げたぞ。本当に来ただけなの? なにかこう、化粧品とか脱走はカモフラージュで違う理由があって来たとかじゃなくて?
『あの、本当に化粧品のことで来ただけ……?』
『逃走拠点の確保というか、面倒を見てもらおうとは思ってたけど、別の理由なんてないわよ?』
『ええ……?』
元神様なのにそんなことで来たの? よく考えたらギザリア様もお酒を飲みたいだけで世界を放浪してたんだっけ? 神様ってなんだろう……?
『マリアちゃん、ミナイルって昔からこういう神だから』
『はあ、そうなんですね』
『ちょっと待って。なんでそんな呆れた目で見るのかしら?』
『呆れているからです。もっとこう大事なことをエスカリテ様に伝えようとか、そういうのは全くないので?』
『ないわね。文句を言いに来ただけ。あと、これ幸いと脱走してきた』
『元神で不死鳥なのになぁ……』
『そんな肩書どうでもいいわ! そんなことよりもマリア!』
『なんです?』
『貴方、素材が良いのに、なんでボロボロなの!』
『人を食材みたいに言わないでくださいよ』
『完璧な美なんてものは存在しないけど、高みを目指さない子は許せない!』
なんかミナイル様が化粧の基本を教えてあげるとか色々言いだした。そして最後は『どんな男も虜にする美女にしてあげる!』とまで言い出した。興味はあるけど、そんな風になれるわけがないだろうに。それにエスカリテ様が怒り始めた。
『マリアちゃんは私が見つけてあげる最高の彼氏にだけモテればいいの!』
『最後に選ぶ相手は一人だとしても多くの男にモテて駄目なわけないでしょうが!』
またうるさくなってきた。助かるのは私の脳内だけってことかな。それも良くはないけど、近所迷惑にならなくてよかったよ。とはいえ、うるさい。ギザリア様は我関せずって感じでリュートちゃんに抱っこされてるし、ここは私が止めるしかないな。
『はいはい、そういうのは色々なことが片付いてからにしましょうよ』
『それもそうね。やらなきゃいけないことも多いし、遊んでいる場合じゃなかった』
『え? なんのことよ? 何をする気なの?』
そういえば、ミナイル様にはまだ何もいっていない。情報を共有しても意味があるか分からないけど、たぶん敵対するような方じゃないから、説明しておこうか。




