魔族のことを聞こう
うちの子達はすごいね。絵本、ファッション、あみぐるみとあっと言う間に辺境に広がって、今じゃ商人さんが買い付けに来てるよ。ぼったくられないようにみっちゃんが間に入っているし、先生の御威光もあってかなりの収益がある。掃除や勉強も欠かしていないし、世界で最も裕福な孤児院になりそう。
これは錬金術師ギルドに紙の大量発注をしないといけないかな。それに複写の魔法を使える人を探してもらっているし、錬金術師ギルドと懇意にしたほうがいいかも。むしろ錬金術師ギルドの支部が辺境にあれば助かる。私も魔国へ行く予定があるからその前に色々と準備しておきたいね。
そうだ、錬金術師ギルドのこともあるけど、魔族さんのことを調べておかないと。昔と違って友好的な関係にはなっているみたいだけど、失礼があったらいけないからね。行くところはすでに廃城となっている場所らしいけど、そこへ行くまでにいくつかの町を通るはずだろうし。お土産とかなにかあった方が良いかな。
「というわけで、みっちゃん、魔族さんのことを教えてください」
「なにがというわけなのかは分からないけど、魔族のことを知りたいの?」
「そうそう。実は良く知らないんだよね」
「確かにこの孤児院じゃ他国のこと、しかも人間以外だと情報は少ないかも」
みっちゃんが腕を組んで考え始めると、すぐに「部屋を移ろう」と言い出した。そしてアイレダちゃんに何かを指示した。部屋を移るのはいいんだけど、なんで勉強部屋? 昔と違ってかなり広くなった勉強部屋だけど、こんな大きな部屋は必要ないと思うんだけど。
「ミシェル様、皆さんをお連れしました」
「ミシェル、皆を集めて何するんだ?」
「俺もか……?」
アイレダちゃんが孤児院の皆を集めていたみたい。しかも、ガズ兄ちゃんや先生までいる。ギザリア様を頭に乗せたリュートちゃんもいるみたいだし、全員集合してない?
「せっかくなので今日は皆に魔族のことを勉強します」
皆からざわめきが起きる。かくいう私も。そして最近来たばかりの子が手を上げた。
「それを知るとお金になりますか?」
来たばかりなのにすでにウチの孤児院に染まっているね。たしか、ナナちゃんだったかな? たくましく育ってくれ。
「良い質問。知識だけならお金にはならないけど、知識をどう活用するかによってはお金になる。いい? どんなに素晴らしい知識を持っていてもね、それを活用できる知恵がないと何の意味もないの。逆に言えば、役に立ちそうにない知識でも、知恵さえあればいくらでもお金にできる。皆、知識と知恵、どちらも身に付けていこうね」
「「「はーい!」」」
なんかすごい教育が施されてない? 前世でいう所の小学生くらいの子にそういう教育ってするもの?
「他に質問はある?」
「なんで急に魔族さんのお話なんですかー?」
「それはマリア姉さんに魔国へ行くから教えて欲しいって頼まれたから。ついでに皆にも教えようと思ってね」
「「「おー」」」
「はい、他に質問は? ……はい、ないみたいなので説明するね」
そしてみっちゃん先生による魔族さんの説明が始まった。
最初は身体的な違いから。
魔族は人間と比べてかなり強い。それを支えているのが膨大な魔力。簡単に言えば常時身体強化の魔法を使っているようなものだとか。ただ、弱点というか問題もあって、その魔力を生み出すために滅茶苦茶お腹が減るらしい。なので魔族はものすごい量の食事をとる。基本的に人間の二倍は食べる。一応一日三食で住むらしいけど、一度の食事が多いっぽい。
そもそも魔力の生成を抑えるというのが難しいようで、自分の意思で魔力の放出を止めることができない。ただ、それを可能にしたのがドワーフが作った魔力の放出を少しだけ緩やかにする魔道具らしく、魔族とドワーフはかなり懇意な感じらしい。そして今は魔族もそこまで食事をしなくても平気になったとか。まあ、食べるのは好きらしいけど。
そういうことならお土産は食べ物がいいのかもね。大量にはないけどチョコレートは喜ばれそう。甘い物が好きだといいんだけど。
次に歴史。
魔族は北の寒い地方に住んでいるけど、さっき出た話のようによく食べる種族なのに北の大地では寒くてあまり食べ物が育たない。なので人間達と戦って食料を得ていたとか。それに食物が良く育つ土地が欲しかったみたい。なので二千年前まではかなりの頻度で戦争があったらしい。
そもそもなんで強いのに北の方に追いやられたのかって話なんだけど、魔族は強いけど兵糧攻めが効果的だからだとか。普通に戦ったら負けるんだけど、長期戦にするだけで魔族はかなり疲弊するのでそういう戦略が多かったとかなんとか。兵糧は大事だよね。
転機が訪れたのが二千年前。私もよく知っている勇者エイリスさんと魔王ベルトさんの相打ち。平和な世界をつくろうとした勇者さんと魔王さんが倒されて意気消沈な魔族のところへコト様が単身乗り込んだ。そして二人の意思を継いで平和な世界をつくりましょうと提案したとか。もちろん、食料の売買契約をつけて。それを魔族が受け入れた。その功績もあってコト様は教団という組織を立ち上げて教皇になれたらしい。これはどちらかといえば教団の歴史だね。
それ以降は良い関係が続いている。北の大地は作物が育ちにくいけど、魔鉱と呼ばれる金属が良く採れるので人間側も重宝しているみたいだね。こちらの食べ物も向こうは重宝しているようで、ウィンウィンの関係だとか。ただ、そのせいと言うわけじゃないけど、魔族との戦いはなくなったけど人間同士の戦いは続いているわけだ。
次は魔国について。
魔国は魔王代理をトップとした封建制度的な国家。魔王ベルトさんが生きているのは周知の事実であり、魔王代理がいるという状況らしい。勇者エイリスさんが聖剣の力を使ったおかげというのも分かっているので、これが人間に対する友好的な態度になっているのかも。むしろ神に関しては毛嫌いしているんだけど、コト様のおかげで教団とは良い関係だとか。
そして八つの領地とそれを治める八人の魔族。八貴族と呼ばれているみたいだけど、毎回その八人の中から次の魔王代理が決定するとか。戦いで決めているらしく、魔国ではその戦いが一大イベントらしいね。そんなんでいいのかと思ったけど、魔王代理って政治的な部分には関わらせてくれないみたい。その辺りは八人の魔族にお任せだとか。あくまで対外的に魔王代理を立てているらしい。
「私からは以上だけど、先生は魔族のことに何か知っていますか?」
「俺か?」
「先生は先生しかいないでしょうに」
「そうだな。魔族か……」
「先生は冒険者として色々なところへ行ったから何か知っているのでは?」
「「「おー」」」
男の子たちが目を輝かせているね。冒険話が好きなんだよね、私も好きだけど。みっちゃんが先生に話を振ったのは花を持たせようとしているのか、それとも元神様だから聞いたのかな? どちらにせよ、面白い話が聞けると嬉しいね。
「昔、魔国にある遺跡へ行ったことがある。現地の案内を魔族に頼んだことがあったが、あの者たちは強い者が好きだった」
「強い者ですか」
「戦闘が一番分かりやすいだろうな。ただ、当時の俺には分からなかったが、戦闘以外での強さを持つ者に対しても魔族は重宝し、敬意を払う」
「戦闘以外の強さ、ですか?」
「うむ。一芸秀でているといえばいいか、知識でも料理でも裁縫でも何かを極めようと努力し、結果を出す相手を好んでいるという感じだったな。逆に怠惰な奴を嫌う傾向にある」
なるほどねぇ。努力好きか……なんだろう? 皆が私を見てない?
「マリアお姉ちゃんは魔族なんですか?」
「え? ナナちゃん? なんで?」
「話を聞いているとマリアお姉ちゃんみたいだなって」
なんてこったい。皆が頷いているけど、私は人間だよ。両親も立派な人間だった。それに私は生きるために必死なだけで、別に努力家でもないし。魔族なんて子供のころに辺境に来た冒険者さんくらいにしか会ったことないよ。
「私は全然そんなんじゃないよ。努力家でもないし。それに私は一芸秀でてなくても、できることをやって家族のために頑張る子の方が好きかな」
私、いいこと言った! と思うんだけど……なんか皆の目がギラついてない?
「まったく、マリア姉さんはすぐそういうことを言う……」
「え? みっちゃん? ダメだった……?」
「ダメじゃないけど、皆に火をつけたようなもんでしょうが。はい、それじゃ、今日のお勉強はここまで。お仕事に戻っていいよ。あ、そうそう、何か知りたいことがあったらいつでも聞いてね。全部は答えられないけど、知りたいことがあったら、皆で共有しよう」
「「「はーい」」」
元気よく返事をすると皆は鼻息を荒くして出て行ってしまった。やる気になっているとは思うんだけど、ちょっと気合入れ過ぎじゃない? そして残された先生とガズ兄ちゃんも仕事するかと言って部屋から出て行って、みっちゃんとアイレダちゃん、そしてリュートちゃんと私だけになった。ギザリア様もいるけど。
「えっと、どういう状況?」
「マリア姉さんが家族のために頑張る子が好きって言ったから皆が頑張り始めたってこと」
「ああ、そうなの?」
「よく分かっていない顔だけど、皆、マリア姉さんのために何かしたいんだってば。これまで色々してくれたからね」
「……皆、いい子に育ったなぁ。よーし、私も皆のために頑張ろう!」
「あまりやり過ぎると国が出来ちゃう勢いだから気を付けてね」
「え? どういうこと?」
それには答えてくれなかったけど、家族のために頑張るのはいいことだよね。魔国へ行くのはまだ一ヶ月以上先だし、王都に戻るまで辺境で頑張っちゃおう。




