買い食いしよう
「リュートちゃん、食べたいものがあったら言ってね」
「はい、現在、あの美味しそうな食べ物に惹かれております」
「あれは……ピザかな」
「具材が多くて色々な栄養が取れそうな素敵な食べ物ですね」
「野菜がふんだんに使われていて彩りも悪くないね」
「では、さっそく買ってきます」
「待った。すぐに買ってしまうのは素人だから」
「素人……!」
「玄人はすべてのお店を見てからもっとも安値でお買い得の物を買います」
「勉強になります。値段をメモしておきましょう」
お金はあるんだけど、勢いに任せていたら全部買うことになってしまう。買い食いは限られたお金で効率よく買うのが醍醐味よ。大人買いなど愚の骨頂。ルガ王国ではありったけ買っちゃったけど、あれは炊き出しのためだし、お金はルガ王国の宝物庫から持ってきたものだから問題なし。今回はさすがにそんなことはできないので、ギリギリの値段でやりくりしよう。
「司祭様も食べたいものがあったら、まずはチェックしてくださいね」
「はい……というか二人だけじゃないんですね」
「護衛なしに神殿の外には出れませんからね」
「まあ、そうですよね……」
司祭様に聖都の案内を頼んだらすごく喜んでくれたのに、リュートちゃんも一緒に回るってことになったら明らかにテンションが下がった感じだ。
おいおい、まさかとは思うけど、私とデートだと思ったとか? かー、いたいけな青年を私の魅力で参らせちゃったか、私って罪な女だぜ……果てしなくむなしい。
自分が情けなくなってきた。たぶん、どこかのお店で何かの相談だと思ったらただの買い食いで呆れたって感じなんだろうね。それはそれで私って罪な女だ。だが、あえて言おう。女の子はまずご飯だ。相談だろうが何だろうがまずは腹を満たしてからって太古の昔から決まってる。
それはそれとして、この聖都、色々な国から色々な事情でやってくる人が多いからバリエーションが多い。料理もそうだし、服や工芸品なんかも統一性がなくて見ていて楽しい。お土産も買っていきたいので今の内からチェック。前回のように香辛料というか、カレー粉じゃ芸がないので、もうちょっといい物があればいいんだけどな。食べ物は保存がきかないのが難易度を上げてるよ。困ったね。
とりあえず、この大通りは全部見て回ろう。
……なんで埴輪? もしかして埴輪型ゴーレム? こっちは蛇の抜け殻……やっぱりお金が増えるようなジンクスがあるの? おおう、招き猫まである。過去の転生者、色々やり過ぎじゃね? もうちょっと違うものを残すべきじゃないの?
馬車の中から目を付けていた焼き鳥屋さんがあった。これは効率度外視でも買って食べたい気がする。とはいえ、お金には厳しくしなければ。別の店で安いのが売ってたらなんか負けた気がするし。
「あの、マリアさん、よろしければお金を出しましょうか?」
しまった、焼き鳥屋さんをじっと見つめていたことがばれた。でも、司祭様、いい男やん。今までの男は私に奢らせたか割り勘だったよ。都合よく財布を忘れる奴が多くてな……お前の服を質に入れて金作ってこいと何度言いそうになったか。
でも、ここはどうするべきかな。奢ってもらう理由はないんだけど、男性の見栄というかやさしさを無にするのは良くない。司祭様の場合は明らかに見栄じゃないよね。そういう教育をされていると見た。とはいえ、すぐにお礼を言うのもがっつきすぎている感じがして女としてのプライドが許さん。ここは丁重に割り勘でいくか。
と思ったら、リュートちゃんが音もなく動いた。
「焼き鳥十本ください」
「まいどー」
「料金はあの方から受け取ってください」
「おや、その恰好は教団の司祭様ですね。ありがとうございます!」
リュートちゃん、動きと言葉に遠慮がない。詳しくは知らないけど司祭様ってリュートちゃんの雇い主なのでは? それはエルド様であって司祭様じゃないかもしれないけどさ。
司祭様は一瞬微妙な顔をしたけど笑顔になってお金を払っている。こうなったら仕方ないね。司祭様に可能な限りの感謝を伝えよう。
「司祭様、ありがとうございます。食べたかったので嬉しいです」
「いえいえ、これくらいなんてことありません。いくらでも食べてください」
「店主、百本追加で――」
「リュートちゃん、落ち着いて。今のは言葉の綾だから」
焼き鳥屋の店主とリュートちゃんがしょんぼりした感じになったけど、そんなに食べられるわけがない。頑張れば胃の限界を超えられるかもしれないけど、そんなことをするつもりはないぞ。
司祭様もせっかく奢ってくれたのに微妙な感じになっちゃったじゃないの。リュートちゃんの天然攻撃は攻撃力が高いよ。防御力無視か。
『リュートちゃん、よくやった! 祝福しちゃう!』
『エスカリテ様って司祭様が嫌いなんですか?』
『別に嫌いではないけど、こういうことに関しては邪魔だと思ってるわ!』
『こういうこと? 司祭様が何をしたって言うんですか』
『何もしてないけど、これからしそうだからあらゆる手を使って潰していく所存!』
なんでやねん。確かに嫌ってはいない感じだけど、なんか司祭様の行動が気に入らない感じなんだよね。私が知らないところで司祭様が何かしたのかな。司祭様とは言っても王族だから裏でやんかやってそうな気はするけど。
まあいいや、とりあえずは焼き鳥だ。
「あそこの広場で食べましょう」
公園っぽいところがあった。木々に囲まれていて綺麗に刈られた芝生もある場所だ。ここはピクニックと洒落込もうじゃないの。いつかお弁当を作って本当にピクニックに行きたいね。孤児院の皆もちょっとは余裕ができただろうし、向こうに顔を出したら提案してみようかな。
おう、司祭様が紳士っぽく芝生にハンカチを敷いてくれた。あかん、普通に地面に座るつもりだったよ。普通の女の子はそんなことしちゃいけなかったか。
「ありがとうございます、司祭様」
「お気になさらずにどうぞ……えっと、リュートは……」
「自分は立ったまま食べますのでお気になさらずに」
うん、リュートちゃん、焼き鳥に目を奪われている。無表情だけどかなり食べたいと見た。一本余計に渡してあげよう。
「ええと、リュートちゃんが四本で、私と司祭様が三本づつでいいですかね?」
「私はいいですので、リュートと五本づつで分けてください」
それはそれで食べづらいのですが。リュートちゃんはすでに五本確保しちゃったよ。指と指の間に挟んで三本、二本に分けて持っている。クノイチがクナイを投げる時の構えだよね、それ。猫のギザリア様を連れてこなかった反動かな。食べ物で寂しさを紛らわせていると見た。
おっと、それどころじゃない。
「司祭様もせめて一本食べてください。こういうのは美味しいかどうかも含めて感想を言い合うのが醍醐味ですよ」
「そういう考えもあるのですね。なら一本いただきます」
単に大食いだと思われたくない女心もあるけどね。とはいえ、四本だって食べすぎなんだけど。あ、そうだ。
『エスカリテ様も一本どうですか?』
『実は興味がありました!』
『なんかテンションが高いですけど、どうぞ』
『ありがとねー、いただきまーす』
手に持っていた焼き鳥が一本、空気に溶け込むような感じで消えた。エスカリテ様は見えないけど、この場で食べてるのかな。今は身体ごとこっちにいるみたいだし。
さて、私もいただくか。
「司祭様、いただきますね」
「はい、遠慮なくどうぞ」
……うま! 甘いタレが鶏肉に染みこんでいて口の中に広がるね。焼き鳥は塩も悪くないけど、私はタレ派。あまじょっぱい感じが最高だ。七味唐辛子をつけて味変もしてみたい。
エスカリテ様も『うま!』って言ってるし、司祭様も「美味しいですね」と言っている。リュートちゃんに至っては、両手で交互に食べる二刀流だよ。美味しいとは言ってないけど、行動が美味しいって言ってる。
……平和やね。こういう日が続いてほしいよ……やべ、変なフラグを立てたか?
「ちょっとそこの貴方、服装からして司祭様よね?」
「え?」
「私は巫女のラーザ。護衛達だけでは荷物が持てないの。運ぶのを手伝ってもらえないかしら?」
なんか偉そうな巫女様がやってきたけど、私達の状況を見てそう言える精神がすごいよ。これはディアナさんと同タイプの巫女さんかな。多くの人に信仰されている神様の巫女なのかもしれないけど、ちょっと面倒な感じがするぞ。




