呪いを解こう
「ご依頼の石像、ここに置いておきますね」
「朝早くからありがとうございました。これで美味しい物でも食べてください」
「ありがとうございます、巫女様!」
早朝だというのにエスカリテ様のミニ石像を作ってくれた工房の人達が出来た分を持ってきてくれた。心づけを渡したら喜んでくれたよ。うんうん、孤児院のころだと考えられないほどのお金だけど、今の私なら余裕だぜ。でも、無駄遣いはしないようにしないとね。今日は久々に薄切り野菜スープにするか。でも、ベーコンは刻む……!
そんな決意をしながらエスカリテ様のミニ石像を一つだけ手に取る。
かなり良い出来じゃないの。前世のフィギュアみたいに可動式も考えたんだけど、さすがにそこまでの技術がなさそうなので、普通の石像だ。魔法でゴーレム化すれば動くのかな。しないけど。
『エスカリテ様、ミニ石像できましたよ』
『……え? なんか言った?』
『ですから、ミニ石像ができましたって』
『ああ、そうなんだ。へぇ、結構良くできてるわね』
はて。なんだかテンションが低いというか、食いつきが悪い。そりゃ自分の像じゃカップルエピソードがないだろうけどさ、もうちょっと喜ぶような気がしてたんだけど。でも、よく考えたら昨日の夜くらいから変な調子だったかな。なんか考え事をしているような。昨日何かあったっけ?
みっちゃんとレダ君が来て、大聖堂まで案内して、私はそのまま衣装の仮縫いをしただけだと思うけど。みっちゃんたちは司祭様の提案でそのまま大聖堂に泊まることになったんだよね。無料でいいっていうから私が猛プッシュしたくらいなはず。なんかあの三人の雰囲気がおかしくなったけど、まさか三角関係的なものを見たかったとかじゃないよね?
『エスカリテ様』
『……え? 何?』
『昨日からおかしいですよね。三角関係を見たかったとか?』
『ああ、うん……いや、違うってば』
『なら何を考え込んでいるんです? 私はエスカリテ様の巫女なんですから、何か悩みがあるならなんでも言ってください』
『マリアちゃん……!』
どうやって人を滅ぼすか悩んでるとか言われたら困るけど、エスカリテ様がそんなこと言うわけないし。たぶん、恋愛的などうでもいい悩みだと見た。バレンタインを毎日やるにはどうするべきかとか、そんな感じのはず。
『で、何を悩んでいるんです?』
『悩む……そういうわけじゃないんだけど、マリアちゃんに言ってもいいかどうか分からなくて、どうしようかなって。まあ、悩みと言えば悩みかな』
『言っていいかどうか?』
『みっちゃんって子のことなんだけど』
『え? みっちゃんが何です?』
『本人が分かっててやっているのかどうか分からないんだけど……』
『みっちゃん自身が分かってるかどうか……?』
『あの子、呪われているのよね』
『のろ……呪われてる!?』
『呪いによって魔力が別の物に変換されているの』
『え? え?』
そもそも魔力を良く分かっていない私にエスカリテ様が説明してくれた。
魔力は使い方によって内向きと外向きがあって、内向きは体内で魔力を操作する循環系、外向きは魔力を身体の外へ出す放出系と呼ぶっぽい。錬金術は体内の魔力を使って触れた物質に影響を与えるから循環系に分類。身体強化系の魔法とかも循環系。炎や氷の現象を起こすのが放出系みたいな感じらしい。
そんで、魔力を持っている人は身体から微量の魔力を常に放出しているけど、みっちゃんにはそれがまったくない。というのも、みっちゃんの身体の中では魔力が別の物に変換されているようで魔力はあるけど身体の外へ一切漏れていないとか。
それは呪いが施されているかららしい。呪いというのは魔法みたいなものだけど、術者がリスクを負う代わりに強力な制限をかけるものだとか。
『状況はわかりました。それで問題というのは?』
『このままだとあの子、身体が崩壊しちゃうわよ』
『崩壊!?』
『限界が来ると身体が崩壊して貯め込んでいたものが周囲に振りまかれちゃうの。状況から考えてかなり広範囲ね』
『はぁ?』
そのあたりを詳しく聞くと、現在、みっちゃんの体内では魔力が呪病というものに変換され続けているらしい。それを体内に貯め込める限界があって、その限界を超えると身体が崩壊、そしてその身体が呪病を周囲に振りまくようになるとか。
『でも、すぐじゃないのよ、一年後くらい』
『一年後だろうと駄目ですよ!』
『だから問題なんだってば。でも、本人の意思でやってることなのかなって』
『呪いとか身体の崩壊が本人の意思のわけがないでしょう!』
『はるか昔なんだけど、そうやって体内の魔力を常に消費して魔力量を増やす訓練があってね、ギリギリになって呪いを解くとかしてるのかなって』
そんなことあるわけない……と思うけど、たしかにみっちゃんは訳ありの孤児なんだよね。なんか先生が森で見つけたとか言ってたけど、あんなに見た目が良い女の子が森にいるわけないのに。それにどう見ても貴族というか、知識や所作が段違い。ぜったいに庶民じゃない。
どこかの貴族が子供を探しているって話も聞かないから、何かの事情で捨てられたのかな程度に思っていたんだけど、さらに呪いって何さ。みっちゃんは盗賊だか山賊だかにさらわれたことがあるから、その時に何かされたのかな――いやいや、そんなことはどうでもいい。すぐにでもみっちゃんに確認して対処しないと。まあ、本人が秘密でやっていることかもしれないけど、そんな危険なことをしているなら久々にげんこつを食らわせてやる。
『エスカリテ様ならその呪いを解けますか?』
『結構強力だけどこの教会の中なら呪いも消せるし貯め込んだ呪病も消せるね!』
『なんでこの教会限定なんですか?』
『ここは私の聖域だからね!』
答えになってないけど、居心地が良いからやる気が出るってことなのかな。それよりもみっちゃんだ。すぐにでも大聖堂へ迎えに行かないと。
『ちょっと大聖堂に行ってみっちゃんをつれてきます』
『そんなことしなくてもこっちに向かて来てるわよ』
『分かるんですか?』
『私くらいになると強力な呪いは見なくても分かるからね』
呪いか。しかも魔力が常に変換されているなんて。でも、みっちゃん、孤児院に来たときから魔力が一切ないって言ってた気がするんだけど……もしかしてかなり小さい頃から呪われてたってこと?
……キレそう。私の妹になにしてんだ。首謀者が分かったらお礼参りだぞ、コラ。あと教団に頼んで権力的な何かをしてもらう。
そんな風に思ってたら教会の扉が思いっきり開いた。
「マリア姉さん、おはよう! ……なに? 怖い顔して?」
「おはよう。みっちゃん、それにレダ君も。いきなりなんだけど、みっちゃんに言いたいことがあるんだよね」
「え? 何? まさか、あの司祭が何か言ってきた……?」
「え? 司祭様は関係ないよ。それよりもみっちゃん、良く聞いて」
「本当にどうしたの?」
「みっちゃんは呪われてるみたい」
「……呪われてる? え? 何の冗談?」
「やっぱり知らないんだね? 冗談じゃなくて、エスカリテ様がそう言ってるの。なんか体内の魔力が呪病というものに変換されているみたいで、このままだと身体が崩壊しちゃうとか」
「え……? 魔力……? 呪病……? 崩壊……?」
「エスカリテ様なら呪いを解けるからすぐに対処しよう!」
「え? ちょ――」
みっちゃんの両肩を両手で掴む。邪神像の破壊と同じように触っていれば何とかなると思う。
「エスカリテ様、お願いします!」
『まかせて! エスカリテチョーップ!』
その技名はどうかと思うけど、そのうちエスカリテドロップキックとか出てくるんだろうか。そんなアホなことを考えていたら、みっちゃんの身体から人型の黒い靄みたいのが上に向かって噴き出した。何か言ってるようだけど聞き取れない。もしかして叫んでる?
その叫びっぽいものが終わると、私の方を睨んできた。ちょっと怖いけど、こっちにはエスカリテ様がいるんだぞ。正真正銘の女神様だ。最強の虎の威を借りてんだぞ、こっちは。
そんな虚勢を張っていたら、黒い靄が私に覆いかぶさるように襲ってきた。ちょっと息が苦しい。でも、その程度だ。
「マリア姉さん!」
「マリア様!」
みっちゃんとレダ君の叫ぶ声が聞こえる。でも、ご安心。こっちには女神様がいる。でも、さっきレダ君、マリア様って言った? なんで?
『マリアちゃんに何してんのよ!』
今度はエスカリテ様の声が頭に響いたと思ったら、私にまとわりついてた黒い靄が絶叫をあげながら消えた。ふっ、ちょろいもんよ。私は何もしてないけど。
『エスカリテ様、大丈夫ですか?』
『いやいや、逆でしょ。マリアちゃんのほうが大丈夫?』
『私の方は全然平気です。エスカリテ様が何かしてくれたんですよね?』
『撃退してやったわ! こう、ぎゅっとして、ぐっとして、ポイってした感じ!』
『おー、さすがです』
『もっと褒めてもいいのよ!』
『よっ! エスカリテ様! 最高! よいしょ!』
『……そこまでされると馬鹿にされている気がする。でも、これで呪いは完全に解除できたよ。みっちゃんの身体から呪病がなくなって、魔力も普通に放出されてる。危険はもうないから安心よー』
『ありがとうございます。本当に助かりました』
『いいのよー、マリアちゃんの家族なら私の家族みたいなものだからね!』
いつの間にか神様から家族認定されているみっちゃんだ。そんなみっちゃんは床に尻餅をついていて、レダ君に背中を支えられている。放心気味だけど、腰がぬけちゃったかな?
「みっちゃん、もう大丈夫だよ。呪いはエスカリテ様が解いてくれたから」
「え? あ、うん……本当に呪われてた……?」
「もう体内に呪病は残ってないって。魔力の放出もちゃんとされているみたい」
「……私に魔力が……?」
「良いよね、魔力。魔法を使えるよ。辺境にも魔法使いのおばあちゃんがいたよね。すごいツンデレなおばあちゃんだったけど、今度教わってみたら?」
「……うん」
「ミ、ミシェル様……!」
はて? なんでレダ君はみっちゃんのことをミシェル様って呼ぶんだろう? さっきは私のことも様付けだったし。まあ、それはいいや、まずは朝食かな。




