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「マリア、チョコレートがすげぇぞ」
「やっぱり売れた?」
「売れたなんてもんじゃないんだが」
朝っぱらからガズ兄ちゃんが教会にやってきた。どうやら曖昧な作り方で教えたチョコレートの評判がいいらしい。当然だ、だってチョコだぞ。ストレス緩和や脳内の糖分補給に最適なチョコだ。おにぎりがなかったらチョコレート教の信者になってた。
しっかし、ガズ兄ちゃんにチョコレートはこんな感じで作ってとお願いしたら、数日で完成させたよ。今のところ固体化しておらず飲み物っぽい感じにしての提供だけど、スイーツの締めはこれじゃないと駄目とまで言われるほどになっている。スイーツの締めってなんだ。
この世界にもチョコレートはあったらしいけど、南のほうにある熱帯地域でしか作られていないとか。そもそもカカオがそこでしか採れないらしく世界的にあるわけじゃないらしい。しかもチョコレートは健康に良い物というだけで苦いままだとか。個人的には甘くないチョコはチョコじゃないと言いたい。ビターなチョコは大人の味? 正直になれよ。
そんなわけで甘いチョコレートをつくるために市場にあったカカオを買い占めた。あと砂糖や蜂蜜も。今のところガズ兄ちゃんのところだけの独占販売で、これまたお店が大繁盛だ。教皇様が来てるから他国からも人が多く王都へ入ってきているのもあって、連日の超満員、畜産場の三姉妹さんたちも連日助っ人に来ているらしい。飲食業は戦場だぜ。
「よくこんなこと思いついたな?」
「エスカリテ様の知識だよ」
「……へぇ」
なんで疑いの目で見られているのだろうか。もっと妹を信じて欲しい。もしかして私が転生者って疑っているのかな。さすがにそこまではないだろうけど、ガズ兄ちゃんはなぜか私の知識だと思ってるみたいなんだよね。孤児院時代に色々やらかしたからかも。まあ、最後までとぼけるけどね。知られてもいいんだけど、知らなくていい事ってあるし。
「それでチョコレートの固体化はどうするんだ?」
「チョコレートを熱したり冷やしたり……する?」
「なんで疑問形なんだよ」
「エスカリテ様の知識だからね。なんかカカオの脂肪分の関係で固まったり固まらなかったりするっぽい。そこを調整する感じ?」
「脂肪分の調整……? 錬金術を使うのか?」
「魔力は使わないからそこまでじゃない……はず」
「エスカリテ様がそう言ってるのか?」
「エスカリテ様も最近起きたばっかりで詳しく思い出せないみたい」
私の知識があやふやなので作り方なんて詳しくは知らない。完成形を食べるだけで過程は良く知らないんだよね。まあ、私の知識なんてそんなもの。エスカリテ様には悪いけど、神様だって万能じゃないってことにしてもらおう。
「分かった。今のままでも十分だが、面白そうだしやってみる。たしか人肌程度で溶けるくらいなんだよな?」
「うん、そうそう、色々なスイーツに使えると思うよ」
ガズ兄ちゃんは頷くと椅子から立ち上がった。もう帰るのかと思ったけど、仕込みとかもあるから忙しいよね。
お見送りしようと思ったら、ガズ兄ちゃんが教会の入り口の方を見て動きが止まった。どうやら誰かいるみたいだ。
ガズ兄ちゃんよりも年上の男性で結構なイケメンさん。ちょっと元気がなさそうだけど、教会に用なのかね?
「ワノンさん……」
「ガズか? 久しぶりだな……」
「え? 知り合い?」
「副料理長だった人」
「ああ、あの人が」
ガズ兄ちゃんが働いている飲食店の副料理長だった人か。独立して店長さんが好きだったウェイトレスさんと一緒に別の飲食店を始めたとか。そのときに料理人を何人か引き抜いたとか聞いたことがある。引き抜きとはいっても妨害工作とかではなくて、元々独立の話は前からあったらしく、料理人の引き抜きは個人に任せた結果だったとか。でも、思いのほか副料理長さんの方についていっちゃったらしい。店長さんの人望がなかったわけじゃなくて、技術的なものらしいけど。
店長さんが好きだったウェイトレスさんがいなくなってへこんでいた時は副店長さんの店のほうに結構な売り上げがあった。でも、今は客がこっちに流れて売り上げが落ちている可能性が高いってガズ兄ちゃんは言ってたっけ。もしかしてその相談に来た?
「ガズは巫女様と知り合いなのか?」
「同じ孤児院だったんです」
「そうか……もしかして今の繁盛も巫女様の助言で?」
「そうですね。店のスタイルを変えたのはマリアの助言によるものです」
「エスカリテ様の助言ですよ」
私のことよりもエスカリテ様の信仰心が大事。こういう小さなところからでもアピールしておかないと。なぜかまたガズ兄ちゃんが私を疑いの目で見ているけど知らんぷりだ。
「ガズ、気に入らないとは思うが、俺も助言を貰いに来たんだ」
「店の売り上げが落ちてるんですね?」
「そう、だな。以前ほどの勢いはない。今は大丈夫だが、このままだと――」
「俺も店長も気にしてませんよ。一時期は大変でしたけど、あれは料理人が減ったことよりも店長がへこんでいただけなんで、気にせずマリアに助言をもらってください」
「そう言ってもらえると助かる。巫女様も構わないだろうか?」
「問題ないですよ。ただ、助言できるかどうか分かりません。それに助言したとしても必ず成功するというわけではないです」
「それはもちろん分かっているので、どうか助言をお願いしたい」
そう言ってワノンさんは頭を下げた。神様と話せる巫女とはいえ、私みたいな成人したばかりの女の子に頭を下げられるのは本当に必死なんだろうな。私としても可能な限り助言してあげたいけど、さてどうしたものか。今、エスカリテ様は他の神様の家に向かってて話ができないんだよね。
石鹸とシャンプーとリンス、あとコンディショナーやトリートメントの作り方を知ってそうな神様の家へレシピを探しに行ってもらってる。せっかく立派な浴槽があるんだから、色々こだわりたいからね。それに色々作れたらエスカリテ様の株も上がるってもんよ。女性が綺麗になればカップルが増えるかもしれませんよと言ったらすぐに行動してくれた。心配なくらいちょろいよ。
おっと、それよりもこっちだ。ここはガズ兄ちゃんの意見も欲しいところだね。コンセプトが被ったら大変だし、飲食店勤務の意見は重要だ。
「ガズ兄ちゃん、時間があるなら残ってくれないかな」
「それは大丈夫だが――」
「できれば俺からも頼む。料理人としてのライバルになるのは望むところだが、ライバル店にはなりたくないからな」
「ワノンさんが良いなら構いませんよ」
改めて三人でテーブルを囲み、話を聞くことになった。
現在、ワノンさんのお店はお客が激減している。もちろんその理由はガズ兄ちゃんが働いている飲食店の影響だ。基本的にほとんどの女性客がガズ兄ちゃんのほうの店に流れた。そしてワノンさんの店は独り身の男性しか行かない店という不名誉な状態になっているという。それを気にする客もいるようで、料理はおいしいけど行きづらいらしい。男性って繊細だ。それとも私が繊細じゃないのだろうか。そんな馬鹿な。
「料理は美味しい……ガズ兄ちゃんのところよりも?」
「客観的にみればワノンさんの方が美味しいと思う。料理の見た目も上だな」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、飲食店ってのは見た目や味だけじゃだめなんだ。場所、環境、誰と食べるかとか、もっと総合的なものだ。その点で言えばウチはライディさんの店に負けている」
ライディさんってガズ兄ちゃんが働いている飲食店の店長さんか。なるほど、極端だけど、いくら美味しい料理でも不衛生なところで食べたいとは思わないよね。味も重要だけど、その飲食店で食べたいと思える何かが必要なわけだ。
これは困ったね。そもそもガズ兄ちゃんのところはたまたま上手くいっただけだし、そんな相談を受けてもたいした助言はできない気がする。どうしたものかな。
「そういえばワノンさんは最高級ホテルの厨房で修行を積んだんですよね?」
「ああ、技術的なことはそこで学んだ。さすがにあそこと張り合う気はなかったから、庶民的な店のことを学ぼうとライディさんの店でも働かせてもらったんだが」
「最高級ホテルって王都の北東にあるところですか?」
「そう。貴族御用達のホテルでもあるから厳しい修行だった。だが、得る物も多かったな」
ディアナさんに呼ばれたところか。確かに料理は美味しかった。高級過ぎてお腹いっぱいな感じにならなかったけど、ああいうのもたまにはいいよね……そっか、その路線を提案してみようかな。他にそういう店がなければいけそうな気がする。
「お店の内装を知らないんですけど、昼はお手頃価格、夜は完全予約制にしてカップルに贅沢なひと時を演出する最高級のおもてなしをするお店とかどうです……ってエスカリテ様が言ってます」
おっと、ガズ兄ちゃんの疑いの視線が痛いぜ。でも、これはエスカリテ様の案です。




