第四王子の話を聞こう
魔国に入ってから一週間、一つ目の目的地である暗黒龍オズモスがいる山のふもとに着いた。
ふもとには町というか村があって、今日はここに一泊、そして明日の朝から山登りって感じだ。山登りとはいっても本格的なものじゃなくて緩やかな坂を一日ほどかけて移動する。
本来なら山登り用の馬車というか馬を使って登るらしいけど、教団が用意してくれたウチの馬車は一味違う。馬車もお馬さんもエスカリテ様の祝福で前世のオフロードダンプトラック並みよ。神殿騎士さんが乗ってるお馬さんもさながらオフロードバイク並み、いまや人が入れない秘境でも行けそうな状況になっている。緩やかな坂なら何の問題もないね。
それに魔物も怖がって近づいてこないらしい。近くまでは来るんだけど、こちらを見てすぐさま逃げていくとか。魔国も辺境並みに魔物が多いから神殿騎士さんも数も多かったんだけど、護衛のお仕事がほとんどなくて逆に困っているとか言われてしまった。苦情はエスカリテ様にお願いします。
そんな状況だったので、特に何の問題もなく魔族さん達が住む町やら村へ移動できたんだけど、滞在中は結構感謝された。ほぼ毎日のように魔物が襲ってくるのに、私達がいるときは魔物が襲ってこないんだから、町長さんが直々にお礼に来ちゃうわけだ。引き留め工作をされてたけど、そこはさすがのイルディちゃん、若くても毅然な態度でお断りしていた。代わりにエスカリテ様祝福済みのミニ石像を一個置いていった。基本的に無信仰な魔族さんだけど、エスカリテ様には感謝してくれると思う。信仰心は啓蒙活動が重要だよ。
それにしても魔族さんっていい人が多いよね。本当に昔、人間と戦争していたのかってほど良くしてくれる。たしかに最初はちょっと警戒されていたけど、滞在中に魔物の襲撃が減ったことや教団が用意してくれた食材の提供、それにガズ兄ちゃんの料理のおかげだろう。魔族さんが良く食べるけど、作る料理が美味しくないとも聞いていた。だからガズ兄ちゃんが美味しい料理を披露したのが良かったんだろう。魔族の料理人さんや女の子にモテモテだったから、妹して鼻が高いよ。
それにみっちゃんたちが持ってきた絵本や編みぐるみがこれまた好評。なんか魔国は娯楽的なものが少ないようで絵本はお子様に大人気だ。エスカリテ様の絵本がメインなんだけど、いつの間にかギザリア様が主役の猫の冒険みたいな絵本があってちょっと驚いた。なんか、みっちゃんにギザリア様のことを教えたときに、お酒を求めて世界を放浪していたことを言ったんだけど、そこからインスピレーションを得て孤児院の皆に物語の提案をしたらしい。そんなギザリア様の絵本を見て、見てミナイル様が自分の絵本も作るようにと偉そうに言ってたけど、美を求めるフェニックスの絵本って面白いかな……?
それはともかく今度魔族の商人さんが辺境の孤児院まで来て詳しい商売の話をすることになった。これは孤児院の皆も仕事が増えてお金に余裕ができそうだ。いいねいいね、孤児院が立派になるというか美味しい物をお腹いっぱい食べられるなら最高じゃんよ。私もそんな生活ができるように頑張らないとね。
そんなわけで今日宿泊する宿に来たわけなんだけど……噂の第三だか第四だかの王子がいると宿のご主人に言われた。
確かにいるね。しかもテーブルに一人で。お供もいないし、ものすごくどうでもいい扱いをされているのだろうか。それに滅茶苦茶暗い。立派な装備ではあるんだけど、ものすごい猫背だし負のオーラが全身からにじみ出ているよ。
見た目は二十代前半、金髪で金色の目かな。見た目はイケメンだけど、なんというか覇気を感じない。テーブルの上の料理をものすごく小さく切り分けてもそもそと食べている。そしてため息。世の中のすべての絶望を背負っている感じだ。
全く知らない人なら関わりたくないんだけど、魔国からの依頼というかお願いがあるから関わらないわけにもいかないよね。イルディちゃんも困った顔をしていたけど、テーブルに近づいて話しかけた。
「あの、第四王子のゼローグ様でしょうか?」
「え? そうですが、どちら様でしょうか?」
「教団で司教をしているイルディと申します」
「教団……なら人間ですか。私になにか?」
「実は依頼されまして――」
イルディちゃんが事情を説明すると、ゼローグさんはさらに大きなため息をついてから頭を下げた。
「私のせいで申し訳ない。止めに来てくださったのですね」
「お気になさらずに。ついでみたいなものですから」
「ついで……いえ、当然ですね。勢いで飛び出したのはいいですが、無謀であることをいまさらながらに理解していたところです。私の力ではオズモスのところへたどり着くこともできません」
山を登るだけで暗黒龍がいる場所まで行けるわけじゃないからね。途中に魔物は出るし、馬車で一日なら徒歩ならもっとかかるだろう。それに一人というのが無謀すぎて中腹までも辿り着けていないとか。
「情けない限りです。周囲の言葉に耳を傾けずに突っ走った結果がこれ。私には誰もついてきませんでしたし、周りからは笑われているでしょうね」
「そうですね。分かっているなら帰りましょう」
ちょっとイルディちゃん、言い方ってあると思うけど。それにゼローグさんがものすごくダメージを受けてる。
「あの、ですが、ここで帰ってもなにも好転しないといいますか――」
「ここにいても好転はしません。むしろ悪化していくだけです」
イルディちゃん、相手は王子様なのに強いね。未来の教皇様というか教団は安泰かも。しかし、追撃はともかく、オーバーキルは良くない。とはいえ、別の案があるわけじゃないからねぇ。それをこっちが考える理由もないし。
そもそも王子が庶民と結婚するってこと自体が微妙な気がする。むしろ王子が今の地位を捨てて庶民の女性と一緒になる方がまだいいと思うんだけどね。人間の国と違って王族とか貴族でも側室とかいう制度はないらしいから、正妻に迎えなきゃいけないんだろうけど、一緒になりたいなら地位くらい捨てないとね。
それに相手の女性を知らないけど、本当に王子様を好きなのかな。今の時点では何とも言えないんだけど、騙されてるって可能性もあるからなぁ。経験者は語るって奴よ……経験したくなかったけど。
『どうやらここは私の出番ね!』
『エスカリテ様のことは誰も呼んでませんから』
『恋愛ごとならエスカリテでしょうが! そういうことわざがあるくらい!』
『ないですけど、面倒な結果になるって意味ですか?』
『マリアちゃん、最近、私に厳しくない……? でも、聞いて。今まではこういうことに手を貸すことはなかった――でも今は違う! 積極的に介入して世界をラブラブなカップルで満たすわ! そして胸がときめくようなイチャイチャを見るの!』
『世界を地獄に変える気ですか。邪神が爆誕してるじゃないですか』
『もう邪神と呼ばれたっていい!』
色々と吹っ切れた感じのエスカリテ様は強いね。それにイルディちゃんの言葉は正論だけど、世の中は正論だけで回っているわけじゃない。他人の恋路に関して積極的に介入はしたくないけど、魔国に恩を売るってことは重要か。
その前に色々と確認しないと。頑張って解決したけど、意味がなかったではすまされない。裏をとることは大事。警察さんもそう言ってる。
『聞いてもいいですか?』
『なーに? 好きなイチャイチャは服の裾を引っ張るあれね。もちろん前後のシチュも大事。構ってアピールなら最高得点』
『聞いてません。あの王子さんと庶民の女性が相思相愛か分かります?』
『どういうこと?』
『相手の女性に騙されているとかそういうのはないですかね? あの王子さんは私たち相手でも丁寧な口調で好感をもてますけど、ちょっと頼りないというかなんというか。いいように騙されている可能性もあるのかなって』
『……そういえば』
『何か気になることが?』
『私の中のカプチュウが騒がない……!』
『なんのセンサーですか』
でも、これは信頼できるかも。こういう時のエスカリテ様の勘は神の領域に近いからね。正真正銘の神様だけど。
『二、三日待って! 鳩に調べさせるわ!』
『ええ……』
『事情がある偽りの恋でもいいの。そこから時間をかけて本当の恋になることだってある。そういうのも大好物、ご飯三杯はいける……でも、最初から詐欺まがいの恋なら許せない! 相手を騙す恋は滅する! このエスカリテの名に懸けて!』
『まだ可能性の話ですから落ち着いてください』
邪神から破壊神に変わってしまったエスカリテ様だけど、私も同意見だ。詐欺師の奴らは許せん。それにまだ決まったわけじゃない。どうしても王子さんと一緒にならないといけない事情がある女性なのかもしれないし。
それはそれとして、王子さんにはもっと自信を付けさせるというか、恋愛成就とは関係なく目に見えた実績は必要なのかも。討伐する気はないけど、一緒に暗黒龍のところまで行くってのもありかな。




