魔国からの依頼を聞こう
『ぐっ! 狭いでしょ! 猫は外にいなさいよ!』
『お前が外にいろよ、フェニックスなんだから寒くないだろ!』
『そもそもギザリアもミナイルもなんでついて来てるの?』
『私にしか聞こえませんけど、うるさいです』
魔国へ向かうことになったんだけど、なぜかギザリア様とミナイル様がついてきた。大半の人が私について魔国へ行くから食事が困難になるとか。あとエスカリテ様の鳩が怖いらしい。
百歩譲ってそれはいいんだけど、皆が一つの馬車に乗ってるからとても狭い。イルディちゃん、みっちゃん、アイレダちゃん、リュートちゃん、そして私の五人なんだけど、それだけでも狭いのに、ギザリア様とミナイル様が暴れているからさらに狭い。司祭様やガズ兄ちゃんがいる馬車の方に乗りたいよ。
ギザリア様もミナイル様も元神だから皆は強気に出れないよね。私が仲裁というか指導をくれてやらないといけないわけだ。
『たとえ神でも聞き分けのない子にはげんこつですよ?』
『私は美の女神! 誰かにひれ伏すわけが――すみませんでした』
『わりぃわりぃ。大人しくするから拳に息を吐きかけるのは止めてくれ』
『分かってくれて何よりです』
とりあえず猫であるギザリア様はリュートちゃんの膝の上、そしてちょっと大きめの鳥であるミナイル様はみっちゃんの膝の上を定位置とする。リュートちゃんはギザリア様というか猫を気に入っているし、ミナイル様はみっちゃんを気に入っているから、これで大人しくなるだろう。ミナイル様とみっちゃんは混ぜるな危険って感じだけど仕方ない。頼むから世界を支配しようとか考えないで欲しいよ。
「あの、マリアさん、神様たちは大丈夫なのでしょうか……?」
「ごめんね、イルディちゃん。ちゃんと言い聞かせたから」
小声で『アレは暴力』とかそんなことを言っている元神様たちだけど、微笑みかけたら黙ってくれたよ。まったく、神は最も自由とか言われているけど、自由過ぎるのはよろしくない。これから結構な時間をかけて魔国へ行くわけだし、お行儀よくしないとね。
最近は元神、ではなく、ギザリア様やミナイル様を神様と呼んでいる。転生しているわけだし神の力はないけれど、なんか神っぽいし。この理論で行くとロディス先生も神様なんだけど、先生は先生だよね。ギザリア様とミナイル様だけが特殊な感じだ。
「それでは説明しても大丈夫ですか……?」
「うん、よろしく」
魔国のことは事前に色々調べてあるんだけど、イルディちゃんから更なる情報を聞くことになっている。今回はあくまでも教団として魔王ベルトさんを見に行くってことになっているんだけども、いきなり魔国側から条件というか依頼を出してきたそうだ。解決できたらありがたいって感じの依頼ではあるけど、話によると結構切実らしい。
なので話を詳しく聞いた。でもね、そんなことを言われても困るんだが?
「北の山にいる暗黒龍オズモスを討伐するなんて無理だと思うんだけど」
「もちろんです。討伐ではなく、話をつけて欲しいとのことです」
「食料の要求が多いから?」
「はい、暴れないように毎年食べ物を供えているのですが、ジャガイモ以外も供えろと怒っているようで」
「明らかに肉食そうだしね……」
魔国にある山に暗黒龍オズモスという有名なドラゴンがいるらしい。私は初めて聞いたけど、住んでいる国の王様の名前と同じくらい重要なドラゴンの名前だとか。王様の名前も知らないんだけどね。
オズモスは名前の通り真っ黒な龍で、寝がえりをうっただけで大地震が起きると言われるほど大きく、過去には何度か暴れて魔国がかなりの被害を受けたとのことだ。それで何百年か前に魔族が交渉した結果、毎年大量の食料を供えるから大人しくして欲しいという約束というか契約が結ばれたらしい。
でも、魔国は寒くて食物はあまり育たない。ジャガイモがメインで、あとは人間の国から買った食べ物を供えていたわけなんだけど、最近はそれじゃ足らないと言い出したそうだ。来年もこれまでと同じものを供えたら暴れると言われているとか。
魔族も困っているらしく、どうするべきかと考えていたんだけど、そんな時に教団から魔王ベルトがいる廃城へ行きたいと要望があったので、この問題を解決してほしいと教団に依頼をしたわけだ。
一応、大量の食料を積み込んできたようで、まずはこれで様子を見ようとのことだが、なんなら討伐してくれてもいいとか言っている。それは冗談らしいけど、オズモスが知ったら怒るんじゃないのって言いたい。とはいえ、そういう冗談が出るほど昔から食料を供えているわけだ。食べるだけで特に何かしてくれるわけじゃないし、なにか恩恵があれば魔国としても予算を割り当てられるんだろうけどね。
……思ったけど、働けって言えばいいのでは? いや、ダメか。名前付きのドラゴンは何体かいるらしいけど、どれもこれもそれこそ国が滅ぶほどの強さを持っているとか。暴れたら魔国が危ないし、魔族の人達に被害がでる。
「過去に交渉したことがあるということは、話せるってことだよね?」
「それは問題ないようです」
なら交渉するしかないよね。食料もあるけど、ここは神様の力で何とかならないかな? せっかく教団として向かうわけだから、神様の御威光で何とかしたいね。そうすればエスカリテ様の信仰心も爆上がりってもんよ。
『エスカリテ様なら何とかできます?』
『何とも言えないけど、言葉を理解できるドラゴンがいるんだ?』
『え?』
『言葉が理解できるなんて、新種だよな、新種』
『美しい鱗のドラゴンはいるけど言葉を理解できるのは初めてね……私の乗り物のしてあげるわ!』
『鳥がドラゴンの上に乗るなよ。滑稽だぞ』
『私の美しさが際立つでしょうが!』
『ギザリア様もミナイル様も暴れないでください』
ドラゴンなら普通に言葉を理解できると思ってたんだけど、この世界だとそうでもないのかな。オズモスはかなりレアな感じの魔物と言うわけだ。なんにしても戦うなんて選択肢はないだろうから交渉だね。
食べることが好きなドラゴンならガズ兄ちゃんが活躍しそう。付いてくる予定はなかったんだけど、なんか教団が依頼したらしい。もしかしたら、これを見越してガズ兄ちゃんをつれてきたのかな。ここはガズ兄ちゃんが作る料理でドラゴンに舌鼓をうってもらおうか。
「これに関連してといいますか、実はオズモスの件でちょっと問題があります」
「え? 問題?」
「オズモスを討伐しようとしている者がいるので止めて欲しいと」
「その者って?」
「魔国の王子らしいですね。第三王子とか第四王子とかその辺りです」
「王子? オズモスを倒せるの?」
「無理です。そもそもオズモスがいる山を登れないだろうと」
「その王子とやらは何をしているのかな……?」
「身分違いの恋を成就させるために分かりやすい実績が欲しいようでして」
「……は?」
「どうも貴族でも何でもない庶民の娘さんを好きになったようですが、認められないようでして」
「ああ、そういう……問題がちょっとじゃないと思うんだけど……?」
それにこっちに問題が起きたよ。ウチのエスカリテ様がアップを始めちゃったじゃない。身分違いの恋なんて大好物だよ。これはそれを見届けるまで帰れないね。
『み、皆、落ち着いて! そ、素数を数えるの! ……十!』
『いや、お前が落ち着けよ』
『久々に見たわね、その発作』
酷い言われようだけど、気持ちは分かる。でも、困ったね。やることは少ないけど、色々と面倒くさそう。魔王さんだけを見に行くだけののんびりした旅行にはならないわけだ。でも、魔族さんたちに恩を売ればエスカリテ様の信仰心が上がる可能性が高い案件でもある。
こいつぁ、しっかり解決して魔族さんからの信頼を得るしかないぜ……!




