26話「二十女ティモシリモティーナは自然な魅力の持ち主(2)」
行方不明となり死亡した扱いとなったアインツベルだが、実はまだ生きていた。
ただ帰宅することはできない。
なぜなら彼を誘拐した男たちがそれを許さないからだ。
「アインツベル、今日は背中叩きだ」
「っ、ぅ、ひ、ぃゃゃぁぁぁぁぁ……ぅぅっ……やめて、くだ、ちゃ……」
「さぁ! ぶつぞ! 我慢しろよ!」
「ぃ……ぁ、や……ぁ、ぃ、いや、だぁ……」
今、アインツベルは、男たちのおもちゃとなっている。
殴ってもよし。
蹴ってもよし。
痛めつけて反応を楽しむもよし。
それが現在のアインツベルの立場である。
暗闇に、バシッ、という鈍く痛々しい音が響く。まるで真っ白なキャンバスに紅いものを塗りたくるかのように。意地悪な、いやらしい、悪質な乾いた音だけが滲む。
「ぎゃ! ぎゃあ、ぁっ……やめ、あ……ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃああああああ!」
アインツベルは背中に走る痛みに耐えきれず何度も悲鳴をあげる。
けれどもその声は誰にも届かない。
もちろん助けの手を差し伸べてくれる者もいない。
「うるせぇぞ!」
「ふみゃあ!」
「黙って耐えろ!」
「いや、ぁ、ぅ……あああああああ!!」
「泣くな!」
「ぎにぃぃ……みゃああああ!! 痛いよぉ!! 痛いんだよおおおおお!!」
「うるさいっ」
「ぎゃああああああ!!」
アインツベルに光ある未来はない。
今の彼はもう誰にも助けを求められない状態になっている。ゆえに、彼を救える者はこの世界にはいない。彼は一人。孤独に、苦痛の中で死を待つしかない。それほどに絶望的な場所にまで追いやられた彼は、恐怖におののきながら、ただひたすらに弄ばれるばかりだ。
悪意をかけられながら生きる。
苦痛に怯えながら生きる。
……それだけが彼の人生。
ちなみにティモシリモティーナはというと、婚約破棄後高貴な人に見初められて結婚した。
彼女は今、とても幸せに暮らしている。
夫から溺愛されて。
互いに支え合って。
そうやって、二人は生きている。




