234 今日の晩御飯はハンバーグです~
※今回は瀾姫視点のお話です。
「よく食う奴だな」
「はひっ。ほっへほほひひひへふ~」
「何言ってるか分からねえよ」
「ボクは甘いオヤツが食べたいッス」
「お前は文句言わず食いやがれハエ野郎」
スキル【動物変化】で愛那ちゃんに変身している私は、今日のメイドのお仕事が終わって、夜の8時にやっとご飯にありつけました。
執事のボウツさんとメイドのクランさんは他にもお仕事があるそうなのでここにはいません。
なので、風の精霊トンちゃんと庭師のクォードレターさんと一緒に皆で楽しく美味しいお料理を頂いてます。
お口に入っている美味しいお料理をもぐもぐごっくんして、次のお料理に手を伸ばします。
お料理ははクランさんが作ってくれました。
そして今晩のメニューのメインは、ハンバーグです~!
他にも、コッペパンとコーンスープとサラダがあります。
種類は少ないですが、クランさんに頼んでハンバーグをいっぱい作ってもらいました。
そしてやっぱりこの中では、ハンバーグが格別の美味しさです。
クランさんのお料理は、愛那ちゃんの作るお料理とは別のタイプの味がします。
愛那ちゃんのは家庭的で何度も食べたくなる落ち着いた味ですが、クランさんの作る料理はプロの料理人が作ったお店的な味です。
どっちが良いかは個人差があるので決めかねますが、これはこれで私は好きです。
ナイフで一口サイズに切り分けると、ハンバーグからたっぷりと肉汁が溢れだして、見ただけで涎が出て来ちゃいます。
ハンバーグを口の中に入れると、口の中に幸せが広がります。
一噛みすれば、肉汁が肉の旨みを乗せて口の中いっぱいに広がります。
「おいマナ、昼間の話は覚えてるか?」
「ひふはほははひへふは?」
「何言ってるか分かんねえよ! 口の中のもの飲みこんでから喋れや!」
「って言うか、殆ど常に何か口の中に入ってるッスね」
本当はもっとゆっくりハンバーグを味わいたいですが、仕方がありません。
もぐもぐごっくんして、レモン水で口の中をサッパリさせて答えます。
「はい。美味しいので手が進みます。クランさんのお料理とっても美味しいです」
「クランの作った飯の話なんかどうでも良いんだよ。それより昼間の話だ」
「……愛那ちゃんが可愛いと言う話でしょうか?」
「マナ……お前のそのたまに自分を可愛いって言って褒めるそれ、最初はギャグで言ってんのかと思ったらマジなのな? 何でお前そんなに自信あり気に言ってんだ? 自信過剰すぎだろって、んな事じゃねえよ!」
「自信過剰じゃありません。本当の事です」
愛那ちゃんが可愛いのはまぎれもない事実で、異論は認めません。
まったく、クォードレターさんは何も分かっていません。
私は愛那ちゃんではなく愛那ちゃんのお姉ちゃんだと、本当の事を言って良いなら、クォードレターさんに愛那ちゃんの可愛さを小一時間程使って教えてあげたいです。
「ああ、はいはい。そー言う事にしておいてやるよ」
何だか適当にあしらわれました。
こうなったら本当の事を言えないので、この気持ちを抑える為にやけ食いです!
ハンバーグを美味しく食べまくります!
と言う事で、私は再びハンバーグをナイフで切ろうとしました。
でも、クォードレターさんのお話が続くみたいで出来ませんでした。
「って、だから、そうじゃねえ! 他にあっただろ!」
「はい? 他ですか? 愛那ちゃんが可愛い話しか分かりません」
「くどいな、おい! それはもういいって言ってんだろが!」
「まあまあ、落ち着くッスよ。マナママ、あれじゃないッスか? 魔族になれる薬ッス」
「そんなお話しましたっけ?」
「え? もう忘れてるんスか?」
魔族になれるお薬……確かに話したような気がします。
でも、それはトンちゃんが加護の通信で皆さんに伝えたので、忘れてしまっても良い筈です!
重要なのは、目の前のハンバーグを食べる事です! ……あ、違いました。
お館様とボウツさんの勢力を調べる事です!
「おいおいおい。マナ、てめえは馬鹿か? 魔族になれる薬だぞ? “邪神の血”に興味無いのかよ?」
「はい。魔族になると何か良い事あるんですか?」
「良い事尽くしだろうが。力も長寿も何もかもが手に入るんだ」
「そうなんですか?」
トンちゃんに視線を向けて質問すると、トンちゃんは頷きました。
「魔族は普通の人より基本的な力も体力も寿命も上ッスからね~。スキルだって元々魔族の特権だったくらいッスよ」
「ハエ野郎の癖に分かってんじゃねえか」
「そのハエ野郎って呼び方いい加減やめてくれないッスか?」
「減るもんじゃねえし良いだろ」
「良くねえッスよ! って言うか、魔族になれる邪神の血がどうかしたッスか? それってあまり口外しない方が良い話ッスよね?」
「まあな」
クォードレターさんはそう答えると、ワインを一口飲んでから笑みを浮かべました。
「この村の村長をしているグラス=リブドーザって名前の女がいるんだが、そいつはお館様の配下の1人でな。今夜そいつの家に行く予定なんだよ」
「は? だから何だって話ッスね」
「お、大人の世界です! きっと18歳未満お断りのやつです!」
危なかったです。
もし私が本物の愛那ちゃんだったら、聞いたら駄目なお話でした。
漫画やアニメやゲームで大人なお話に触れるのは仕方ないと思いますが、実話のお話は生々しくて聞かせられません!
「ちげえよ! ったく。ませたガキだな」
「言ってみただけです」
「そうかよ」
違ったみたいです。
でも、危なかったです。
危うく愛那ちゃんの無垢な少女のイメージが、クォードレターさんの中で壊れる所でした。
言ってみただけと言う言葉に納得してくれて助かりました。
私の華麗な活躍で無事に愛那ちゃんのピュアを護れたので、一口サイズに切ったハンバーグを口の中に運びます。
とってもジューシーで美味しいです!
「っつうか、そいつの正体は妖精だ。そんなのと関係なんて持ちたくねえよ」
「妖精……ッスか?」
「ああ、そうだぜ。ま、それを知ってるのは、この館の連中だけだがな」
「……それで結局何が言いたいんスか? 話の意図が見えないッス」
「急かすな急かすな。落ち着いて聞け」
「ほふへふほ、ほんはん。ほひひひほはんほはへへ、ふっふひひひはほふ」
「いや、ホント何言ってるか分かんないッス」
もぐもぐしながら、“そうですよ、トンちゃん。美味しいご飯を食べて、ゆっくり聞きましょう”と言ったんですが、聞き取れなかった様です。
なので、もう一度言おうと思って、もぐもぐごっくんしてから口を開いたのですが、私より先にクォードレターさんが話しだしちゃいました。
「そのグラスと俺は元々この館で働く前からの知り合いでな。そのよしみで色々と融通がきく事があんだよ。で、今日はグラスから一足先に“邪神の血”を得る許可がおりたってわけだ」
「マジッスか?」
「大マジよお。ボウツの野郎もまだ邪神の血を得れてねえ。予定ではお館様が帰って来てからって話だからな」
「そうなんですかあ。良かったですね、クォードレターさん」
「まあな。んでだ。その記念すべき俺の魔族化デビューの舞台を、マナ、てめえにも見せてやるよ」
「そう言う事ッスか。それなら遠慮なく行くッス」
「ごめんなさい。明日も朝早いので、この後お風呂に入ったら寝ます」
クォードレターさんには申し訳ないですが、ここには私の可愛い愛那ちゃんがいません。
朝早く起きる自身が無いので、夜更かしは天敵なのです!
「いや来いよ! 今の流れは“行きます”って言う所だろうが!?」
「そうッスよ! 明日の朝が早いとかどうでも良いッス! 寝てる場合じゃないッスよ!」
「うふふ。2人とも息ぴったりですね~。でも、あまり遅く起きてると明日お寝坊さんになっちゃいます」
メイドとしてここで働く以上、お寝坊さんは危険です。
クビになっちゃいます!
だから、ここはお断りするのも仕方が無いのです。
「寝坊なんてすれば良いッスよ! と言うか、マナママはお館様に気にいられてるんだから気にしなくて良いッス!」
「それは駄目です。愛那ちゃんは真面目で良い子なんです。お寝坊してサボっちゃったら、悪い子だと思われちゃいます!」
「本当にどうでも良いッス!」
「ちっ。んだよ。良い子とか悪い子とか、んな事気にしてんのかよ」
「はい。出来ればお昼まで寝ていたいです」
でも、今の私は愛那ちゃんです。
可愛い愛那ちゃんの為にも、お姉ちゃんとして早起きしなくてはなりません!
「よし。無理矢理にでも連れて行くか。一緒に悪い人間になっちまおうぜ~」
「賛成ッス。ボクもいい子ちゃんとかどうでも良いッス~」
「へぅ?」
トンちゃんとクォードレターさんが私の首根っこ、メイド服の襟を掴みました。
そして、まだ食事中なのに、私を椅子から引きずり下ろしました。
「よーし、行くぞお」
「了解ッス~」
「あわわわわわわわ! ま、待って下さい! せめてご飯を全部食べてからにして下さい!」
へぅ……酷いです。
まだご飯が残っているのに、トンちゃんとクォードレターさんが私を引きずりながら移動を始めてしまいました……。




