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233 グラス工房攻防戦

※今回もラヴィーナ視点のお話です。


 瀾姫なみきを襲った犯人がお母さんかもしれないと不安になり、モーナスとプリュイに相談して犯人捜しに出かけた先のグラス工房と言う名の喫茶店で、私達は犯人と遭遇した。

 犯人は私のお母さんでは無く、氷の精霊のリブドーザ姉妹の1人。

 氷の精霊なのに何故かモーナスの“強欲”の力を狙っている。


 喫茶店の店内でモーナスとリブドーザが戦いを繰り広げ、私も打ち出の小槌を握って、プリュイと一緒にモーナスに加勢する。

 打ち出の小槌に魔力を籠めて、リブドーザに向かって勢いよく振るう。


「邪魔だよ!」


「――っ」


 私とリブドーザの間に氷の壁が出現し、打ち出の小槌は氷の壁に防がれた。

 氷の壁は打ち出の小槌の力で小さく縮み、リブドーザが直ぐに私に向かって槍で刺突する。


「アイスシールドだぞ!」


 目の前に氷の盾が出現し、私はプリュイの出した氷の盾に護られる。

 でも、それは一瞬。

 直ぐにリブドーザの追撃、宙を浮かぶ大きな槍が現れて、それが氷の盾を貫く。

 大きな槍はそのまま私に向かって飛んできた。

 私は避けようと右に跳び、避けきれず左腕をかすめさせて、その反動で大きく吹っ飛んで転がる。

 ここが店内だったから机や椅子にぶつかって勢いは止まったけど、体の所々に小さな傷ができた。


「お子様は引っ込んでな!」


「引っ込むのはおまえだ!」


 モーナスが魔法を使い、周囲の机や椅子を宙に浮かべる。

 それと同時にリブドーザの立つ床に魔法陣が出現し、更に店内天井付近に幾つもの魔法陣が浮かび上がる。

 その瞬間に天井付近の魔法陣から鋭く尖った氷が大量に出現し、それ等はモーナスに向かって飛翔して、同時に宙に浮いた机や椅子を串刺しにしていく。


 モーナスは重力の魔法で机や椅子で壁を作りだして攻撃を防いで、リブドーザに向かって跳躍した。

 そして次の瞬間、リブドーザの下に敷かれた魔法陣が水色に光り、氷の粒が波を打つ様に大量に飛び出した。


「――っくそ」


 モーナスが顔を歪めて重力を使って宙で停止し、浮かせていた机を蹴り上げ後ろへ逃げるけど逃げきれない。


「んにゃああああ!」


「た、大変なんだぞ!」


 モーナスは氷の荒波に呑まれて、プリュイが慌ててモーナスを助けに行った。


 確かに氷の荒波は驚異。

 氷の荒波に店内がのみ込まれて、窓ガラスを割って被害は外にまで影響してる。

 だけど、私には効かない。

 雪女であり、鶴羽かくうの振袖を身につけた私なら、こんな魔法は通用しない。

 私は迫り来る氷の荒波から逃げる事なく、波に向かって走りながら打ち出の小槌を変形させ、リブドーザに近づいた。


「トールハンマー」


 トールハンマーへと変形した打ち出の小槌が雷を纏い、私はそれをリブドーザに向かって振るった。

 リブドーザはそれに気づき、私と向かい合ってニヤリと笑む。


「へえ。珍しい物を持ってるじゃないかあ」


「――っ」


 トールハンマーをリブドーザに振るったけど、それは纏った雷ごとリブドーザが槍で受け止められた。


「トールハンマーが効かない?」


「確かにそいつは驚異だけど、使い手がアンタみたいな子供じゃあ宝の持ち腐れってもんだよ」


 悔しいけど当たってる。

 スキル【図画工作アイテムマスター】でマジックアイテムの構造や使用方法を理解出来ているけど、だからと言って性能を全て引き出せるかどうかは別。

 リブドーザの言う通り、私の微力な力ではトールハンマーを使いこなせない。

 だけど、今はそんな事を悔やんでいる場合じゃない。


 直ぐに次の一撃を繰り出す為、トールハンマーを振るおうとした。

 だけど、それより先に目の前に無数の魔法陣が浮かび上がって、氷の槍が飛び出した。


「アイスシールド」


 目の前に氷の盾を出現させて、氷の槍からは身を守ったけど、不味いと思った。

 トールハンマーに必要な魔力が多く、殆ど魔力が残ってないと言う理由じゃない。

 不味い理由は別にある。


「瀾姫を襲った氷の地蔵……」


 氷の槍から身を守った時、私は同時に氷の地蔵に囲まれていた。

 数は10。

 そのどれもがリブドーザが魔法やスキルを使った素振りを見せずに出現して、全ての地蔵がリブドーザと同じ形の氷の槍を持っていた。

 どう出現させたのか謎は残るけど、それよりも今はこの数相手では、魔力を消耗した私にはかなり不利な状況。


「ナミキ? ああ、あのおっぱいの大きい子? 精霊を連れていたから襲ってみたけど、襲ったら駄目だったみたいで怒られたわ」


「怒られた?」


 ……なら、やっぱりリブドーザはボウツと繋がってる。


「おまえの欲を解放してやるわ!」


 氷の荒波にのみ込まれたモーナスがプリュイに助けられて無事だったようで、叫びながらリブドーザに接近して右手を伸ばした。

 でも、それを氷の地蔵が壁になって防ぎ、モーナスがそれを破壊する。


「何だこいつ!? 地蔵相手じゃ私の“強欲”の力が効かな――げっ! 元に戻ったぞ!」


 モーナスの言う通り、破壊された氷の地蔵が元に戻って、更に氷の地蔵が数を増していく。

 気が付けば、モーナスとプリュイもあっという間に氷の地蔵に囲まれてしまっていた。


「マモンさん、その地蔵は倒しても復活するから気を付けるんだぞ」


「なにい!? プリュイ、だったらおまえがどうにかしろ!」


「たかだか水の精霊が上位種の氷の精霊に勝てるわけないだろう!?」


 リブドーザが体の周囲に魔法陣を出現させながら、高速でモーナスとプリュイに向かって走り出した。

 2人のフォローに回りたいけど、私は地蔵に囲まれて身動きがとれない。


「自分から近づいて来るとは好都合だ!」


 リブドーザを迎え撃とうとモーナスが構えると、そこに氷の地蔵が一斉に飛びかかる。

 でも、それ等はプリュイが相手をする。

 モーナスは向かってくるリブドーザだけに集中して、間合いに入ったリブドーザに向けて右手を伸ばして、リブドーザの顔を掴んだ。


「とった!」


「ふふふ。任せっきりは、良くないわね」


 モーナスがリブドーザに勝ったと、私は思った。

 でも違っていた。


 モーナスが掴んでいたリブドーザは囮だった。

 いつの間に入れ替わっていたのか、それとも最初からそうだったのかは分からない。

 でも、モーナスが掴んだその囮は氷で出来た氷像で、モーナスはリブドーザに背後をとられてしまっていた。

 

「――がは……っ!」


 モーナスはお腹を槍で一突きにされて、槍はお腹を貫通して風穴を空ける。

 リブドーザが槍を引き抜くと、モーナスは血を吐き出してその場に倒れた。


「モーナス!」


「マモンさん! 早く治療――――っ! 離すんだぞ!」


 プリュイが急いでモーナスの側に向かおうとするけど、氷の地蔵の手が伸びて捕まってしまった。


 モーナスとプリュイを助けて逃げる。


 最悪な状況に陥ったけど、私は瞬時にそう判断して、逃げる算段を考える。

 でも考えてる余裕はないから、まずは捕まったプリュイを助ける為に、プリュイを捕まえている地蔵に向かって走る。


「自分が囲まれて身動きとれなくなってる事を忘れてない?」


「――っ」


 私が走りだすと、私を囲っていた氷の地蔵が一斉に飛びかかってきた。

 どうにか強行突破しなければ、この状況を打破出来ない。

 でもその時、私に襲いかかってきた氷の地蔵が、次々に動きを止めていった。


「解放…………してやったぞ……。おまえの“たい欲”を…………」


「……こ、こんな…………」


 モーナスの声が聞こえて視線を向けると、モーナスは倒れながらリブドーザに触れていた。

 氷の地蔵が動かなくなったのは、モーナスがリブドーザに触れて“強欲”の力を使ったからだった。

 リブドーザはその場でへなへなとだるそうに座り、やる気無さそうに天井を見上げた。


「助かったんだぞ」


 プリュイも氷の地蔵から解放され、私と一緒にモーナスに駆け寄る。


「お、お腹に空洞が出来ちゃってるんだぞ! 早く治さないとマモンさんがヤバいんだぞ!」


「分かってる。でも、リブドーザの仲間が近くにいたら不味い。私はモーナスを運んでここから逃げるから、プリュイはモーナスの回復をしてあげて」


「分かったんだぞ!」


 モーナスには悪いけど両足を脇に抱えてひきづる。

 私の力だとこれが限界。

 魔法もトールハンマーで魔力の消耗が激しくて、まともなのが使えない。

 大精霊候補の精霊相手に、いきなり大技は考え無しだったから、今度からは考えて使おうと反省する。


「おまえ等……馬鹿か? ……逃げずにあの女を……」


「馬鹿はモーナス。黙って運ばれるべき」


「くそお。……油断したわ」


「マモンさん、悔しいのは分かったから喋るのをやめるんだぞ! 傷口が大きいから、回復魔法で傷を治すのに時間がかかるんだぞ!」


「……仕方ないな」


 モーナスは不機嫌な顔になったけど、やっと分かってくれて黙った。


 それにしても本当に危なかった。

 氷の精霊のリブドーザ姉妹の1人との戦いは、私達だと相性が悪い。

 同属性との戦いでは単純に力のある方が圧倒的に有利。

 それに、一つどうしても気になる事があった。


 モーナスを引きづりながら、顔を向けずにプリュイに尋ねる。


「プリュイ、リブドーザは精霊。何でモーナスの“強欲”の力を求めた?」


 リブドーザは恐らくボウツか館の主の仲間だけど、“強欲”の座を貰うとも言っていた。

 でも、精霊は魔族じゃない。

 魔族でない者が“強欲”の力を持つ事は出来ない。


 プリュイは私に質問されると、少し考えてから、顔を青ざめさせて震えた。


「もしかしたら、リブドーザさんは“妖精”になってるかもしれないんだぞ」


「妖精…………」


 私は妖精と言う種族を知っている。


 昔、各種族の人間達と魔族が争っていた頃に生まれた特殊な種族。

 魔族と契約した一部の精霊が、魔族の力を手に入れて“妖精”になって、その力は大精霊を上回り人を苦しめていた。

 この世界に生きている誰もが知ってる歴史上の話。


「落ち着ける場所に移動したら皆に報告する。敵は思っていた以上に危険」


「わ、分かったんだぞ」

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