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172 裏切り猫は少女がために 後編

「こいつはたまげた。まさかマモンがねえ」


「私は今モーナスと名乗ってるわ。だからモーナと呼べ」


「へえ、そうか。モーナねえ……って、ん? モーナ? モーナスじゃ無くて?」


「モーナスだと茄子なすみたいだろ。まあ、好きに呼べば良いけどな」


「……はっはっはっ。くだらねえ」


「笑うな!」


「わりいわりい」


「でも、本当に良いの? モーナスちゃん。マナちゃんきっと心配してるよ?」


「気にするな。メソメだってレブルを手伝ってるんだろ?」


「う、うん……」


「それにしても、よくやるよな。都攻めの最後に、逃げる為に毒海を発生させるなんてよ」


「そうだな。あんな雑魚集団が、本気を出したメレカ率いるバセットホルンの騎士から逃げられると思わなかったけど、あんな方法で逃げ延びるなんて流石の私も驚いたわ」


 革命軍【平和の象徴者(ハグレ)】のアジト……ハグレの村で、私はメソメと、それから旧友のレオと再会した。

 旧友との再会と言っても、レオとは最近会ってるけどな。

 マナが船を乗り間違えた後の事だから、なんだったらメソメよりも最近か。


 レオは村の地下……ではなく、海の中の建物の中に捕まっていた。

 理由は革命軍の会議の内容を聞いて、それを阻止しようとしたからだ。

 今は魔法を受け付けない特殊なマジックアイテムで手足を縛られていて、更には逆さ吊りにされていた。

 頭に血が上るのを避ける為には、腹筋で上体を上に起こすしかない状態で、最初見た時は滑稽で笑ってやった。


 メソメは捕まえたレオの見張りをしていた。

 メソメには強力な水の網の魔法があるから、逃げ出そうとしたらそれで捕まえる為らしい。

 レオの姿を見て笑った私に驚いて慌ててたわ。


 それはそうと、私がここに来た理由は勧誘だ。


「それよりレオ、おまえも手伝え」


「……断る。と言ったらどうすんだ?」


「チュウベエを連れて来て指をさして1時間笑ってやるわ」


 質問されたから教えてやると、レオは不満そうに顔を歪ませた。


「なんだその嫌がらせは? 地味に嫌な事言うなお前」


「当たり前だ! 私は人の嫌がる事をさせたら天下一だからな! メソメも一緒に笑うか?」


「え? ええと……」


「おいこら。そんなくだらない事にこの子をまき込もうとするなよ。お前と違っていい子なんだぞ」


「れ、レオさん、いい子だなんてそんな」


「確かにメソメは良い奴だな。マナもメソメの魔法には沢山助けてもらったって言ってたぞ」


 私とレオでメソメを褒めると、メソメは顔を赤くして俯いた。

 褒められたんだから、胸を張って笑えばいいのにな。

 すると、レオがそんなメソメにニッと歯を見せて笑い、頼みごとをする。


「なあ? いい子のメソメちゃん、逃げないから降ろしてくれない? 結構疲れるんだぜ、これ」


「ご、ごめんなさい。降ろしちゃ駄目って言われてて……」


「気にするな、メソメ。こいつにはこれがお似合いだ。存分に苦しむが良いわ! あーっはっはっはっ!」


 卑怯な奴だ。

 褒めたと思ったら、照れるメソメを利用して自由の身になろうとするとは。

 まあ、やり方は卑怯だけど、私はそう言うの嫌いじゃないけどな。


 それはともかくだ。

 こんな卑怯なやり方をしたレオの言う事なんて気にしなくてもいいのに、メソメが申し訳なさそうにしているから、私はメソメの肩を叩いて励ましながらレオを笑ってやった。


「本当に最低だなお前。完全に悪役じゃねーか」


「お前もな」


「ちっ。……っと、待てよ? 考えが変わった。手伝う事にするわ~」


「え?」


「惨めな姿を笑われたくなくなったのか?」


「ははっ。そう言う事にしとく」


「怪しいけど、まあ良いわ。レブルに言って来てやる。メソメも来るか?」


「あ、ううん。私は監視しないと……ここから離れたら駄目だから」


「それもそうだな」


「んじゃ、よろしく頼むわ」


 私の華麗な説得でレオが仲間になる事になったから、レブルが仲間達とやっている会議の場に向かう。

 この会議で水の都での報告と、これから向かう竜宮城の話をすると言っていた。




 会議をやっている建物まで近づくと、ウェーブとか言う男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「教会を襲っただと!? てめええええ!!」


 もめ事が起きているのか、外まで聞こえるその声に面倒臭さを感じたけど、レオの報告があるから建物に入る。

 建物の中では、やはりもめ事が起きていて、ウェーブが弱そうな男……略して男Aに掴みかかっていた。


「新人! どう言うつもりだ!? その教会は俺達の恩人の神父様がいるんだぞ! 何故あそこを襲った!? 海宮で裏切った連中みたいに消されてえのか!?」


「す、すまねえ。間違えたんだ。き、聞いてたのは鐘のある教会って話だったろ? あの都には鐘のある教会が2つあったんだ」


「2つあるのは分かってる。だから教えてあげたでしょ? 屋内に鐘のある教会を襲えって」


 男Aが言い訳をすると、今度はステラって女が鋭い目つきで男Aを睨んで質問した。

 確かこいつはラヴィーナと仲が良いんだったか?


「だ、だがよ、外から鐘は見えてたけど、屋根の下にあるもんだから屋内って思うじゃねえか? な? そうだろ?」


「思わねーよ!!」


 ウェーブが男Aを殴ろうと拳を振るう。

 すると、それをレブルが腕を掴んで止めた。


「もう良いだろ? 反省している」


「リネントさん! だけどこいつは神父様を!」


「それに、黒い髪の少女……マナが神父様を助けたんだろ? フィレオ」


 レブルはウェーブでは無く、男Aに視線を向けて聞いて、男Aは頷いた……こいつフィレオって言うのか。

 まあいいか、男Aで。


「あのガ……あの嬢ちゃんがいきなり頭上から攻撃してきて、気付いたら教会の外で縄で縛られてたんだ。だから俺はあの教会の人間は誰もってねえ」


 男Aが怯えながらレブルに答えて、ウェーブが睨みながらレブルの手を払って男Aから離れていった。

 そして、ウェーブはステラを見てから、レブルに振り向く。


「やっぱりマナはこっち側にいるべきだ。リネントさんもそう思わないか? あの子は俺達の仲間になる運命的な何かを持ってんだよ」


「ウェーブ……気持ちは分かるけどさ。でも、あの子はあの忌々しい男ポンポを庇ったんだよ」


「そうだ。ウェーブがマナを仲間に入れたい気持ちを俺は汲んでやりたいが、俺達の目的を邪魔するようならそれは出来ない。場合によっては殺さねばならない相手だ」


「……ちっ」


 ウェーブが舌打ちして話が終わる。

 とりあえず丁度タイミングも良さそうなので、私はレブルの前に出た。

 すると、周囲の奴等の何人かが私を睨んで、この集会に参加していたチュウベエが冷や汗を流す。


「どうした?」


「レオを説得して来た。あいつも仲間になるから拘束を解くけど構わないだろ?」


「あの男か……。捕まえるのに何十人か怪我を負って、その分今回の都攻めの作戦に支障が出た男だ。仲間になると言うなら心強いが、騙されてはいないか?」


「あーっはっはっはっ! おまえ等あんな雑魚に何十人もやられたのか!? よくそんなんで水の都を攻める気になれたな!」


 レオ程度に手こずったと聞いて笑ってやると、益々周囲の睨みが鋭くなった。

 弱い奴ほどよく吠えるのに、こいつ等は睨むだけだ。

 雑魚の癖に吠えないだけ褒めてやってもいいかもな。

 まあ、私が最強すぎて手も足も出せないだけだろうけどな!

 あーっはっはっはっ!


「耳が痛いな。だが、それでも俺達はやらなければならない」


 レブルは微笑み、それから頷いた。


「良いだろう。あの男の拘束を解く事を許可する。ただ、念の為に俺もついて行くが問題はないか?」


「無いぞ。でも良いのか? 話し合い中だろ?」


「問題無いさ。俺がいなくとも、俺の仲間はしっかりしているからな」


 レブルがウェーブとステラ、それから他の奴等何人かにも視線を向けた。

 多分こいつの最も信頼している仲間だ。


「なら今から行くぞ」


「了解した」


 レブルはそう返事をすると、今後の作戦の内容の話をするように集まってる連中に伝えて、私と一緒にレオの許へ向かう。

 そして、建物の外に出て直ぐに、レブルは歩きながら私に話しかけてきた。


「さっきは見苦しいものを見せてしまってすまなかった」


「ん? ウェーブが怒ってたアレか? 気にするな。恩人を殺されそうになったんだろ? 怒って当然だ」


「だが、俺達がやってるのはその殺しだ。それをする以上、己の大切なものを失う覚悟をしなければならない。例えそれが仲間の手によってされた時であっても」


「ふーん。おまえ中々話が分かるな。自分だけ人を殺しておいて、自分はそれが嫌ってのは都合がよすぎて通らないからな」


「ああ。ウェーブにもそれは常に言っているのだが、中々分かってくれなくてな」


 レブルは苦笑しながら話した。

 その顔を横目で見て、なるほどな、と私は思う。


「おまえ、本当はその都合のいい考え方をずっとしていてほしいんだろ? 仲間を簡単に見殺しに出来る様になったら、もうそれは感情の無いただの殺戮さつりく者だ」


「…………そうかもしれないな」


「本当におまえはマナが言った通りだな」


「マナ……か。あの子は優しい子だ。君の判断は間違っていなかった。あの子は巻き込んではいけない」


「だからさっきあんな事言ったんだろ? 本当は邪魔されても殺す気ない癖にな」


「ふっ、そうだな。情が移りすぎた。だが、邪魔するようであれば本気で戦うのは本当だ」


「その時は私が護ってやるよ。お前が目的を果たすまでだけどな」


「そうか。それは頼もしいな」


 レブルが顔を上げ、遠い目をして微笑んだ。

 私はそんなレブルを見て、マナがレブルに懐いていた事を思い出す。

 だから、不意に声が漏れる。


「それまで死ぬなよ」


「……そのつもりだ」


 私が漏らした声にレブルが頷いて、私達の会話はそれで終わった。

 そこからは2人とも何も喋らずにレオを捕まえている建物に向かい、建物に着くとメソメに笑顔で出迎えられる。


 レオを拘束から解いてやると、レオはちゃんと大人しくレブルの言う事を聞いた。

 それから大まかな作戦をレオに説明をして、レブルはメソメを連れて集会に戻っていった。

 私とレオはこのまま竜宮城に行く時間になるまで適当に待機だ。


「チュウベエとメソメが村に残って、足手纏いになる子供と老人を護ってついでに世話ねえ。まあ、俺としては知り合いになったメソメが危険な場所に行かずにすんで少し安心したよ。だが、その護衛にクラブドラゴンか……。クラブドラゴンって凶暴な海竜だよな? 大丈夫なのか?」


「心配無いわ。革命軍の中にそいつを操れる奴がいるからな」


「それなら良いか。まあ、この村に調査しに来るだろう都の騎士が、メソメ達子供や老人に危害を与えない事を望むぜ。万が一の時には、チュウベエにはそこんとこ頑張ってもらわないとな。ちなみにオリハルコンダンゴムシも一緒に竜宮城について来るってのはマジなのか?」


「そうだな。ロポは私の側にいさせるわ。それが一番安全だからな」


「ま、確かに。マナのペットなら逆に心配で置いて行けないか」


 ロポはマナのペット……と言って良いのかは微妙な所だ。

 マナが遠ざけてるからな。

 だけど否定するのも面倒だし、何より何度目かのマナの話題のせいで、段々とマナ成分の補充がしたくなってきた。


「はあ。マナ成分が足りないわ……」


 肩を落として思わず呟くと、レオが何やら変な目で私を見てきた。

 この目は……多分呆れに似たような目だな。

 一発ぶん殴って上下関係を分からせる必要があるか?


「今からでもマナの所に帰ればいいじゃねーか。きっと喜ぶぜ」


「帰らん」


「まあ、俺はどっちでも良いけどさ。じゃあ俺はオリハルコンダンゴムシに会いに行こうかね」


「何だお前? ロポを食うのか? ロポは私の仲間だから食わせないぞ?」


「食わねえよ! マナのペットだから様子見に行くだけだっつの!」


「そうか。なら私も行くわ。人質の子供達も一緒にいるしな」


「菓子でも作ってってやろうかね」


「それなら私も食べてあげるわ。感謝しろ」


「それはおめえが感謝しろ!」


 有名な料理人になって調子にのってるレオの生意気な言葉を聞きながら、私はマナの手料理の味を思いだす。

 踊歌祭のあった朝に最後に食べたマナのご飯。

 こんな事なら、もっと味わえばよかった。

 もう二度とあの味を食べれないと思うと、やっぱりレブルの仲間になるのは辞めようかと少し心が揺らいでしまうな。

 だけど一度決めた事だ。

 マナの手料理が二度と食べられなくても、ここは我慢しようとよだれを垂らす。

 すると、何を勘違いしたのか、レオが私の涎を見て照れながら話す。


「ちっ、しょうがねえな。そんなに食いたきゃ食わせてやるぜ」


 訂正するのも面倒だし、レオは放っておく事にする。

 それにしても、マナの料理をもう一度で良いからまた食べたいな。

 うう、駄目だ。

 本当にマナ成分が不足してるわ。

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